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レイプと虐待が繰り返されたベッドで眠ることを、両親は誇りに思っているんです

渥美志保映画ライター

今回はエマ・ワトソン主演最新作『コロニア』のフロリアン・ガレンベルガー監督のインタビューをお届けします。

映画は、1973年にチリで起こった軍事クーデターを背景に、政治犯として捕まった恋人を救うため、たった一人で政府の拷問施設「コロニア・ディグニダ(尊厳のコロニー)」へ潜入した女性を描いた物語です。ということで、まずはこちらを!

実はこの「コロニア・ディグニダ」、当時から現在に至るまでチリに実在する、閉鎖的なドイツ系移民の居住区です。南米に逃れたナチ党員パウル・シェーファーによって設立されたのは1961年。以降、反共を謳って時の政権と結びつき、拷問施設や化学開発工場の役割を果たしてきた場所です。同時にキリスト教系のカルトとしての色合いも濃く、内部では絶対的指導者であるシェーファーによる少年への児童虐待が繰り返されていたと言います。

シェーファーの犯罪が告発されて以降は一定の変化があったようですが、それでもドイツ政府が黙認してきたこの組織に関する情報はドイツ国内では機密指定されていて、この作品のヒットをきっかけに公開され話題となりました。

映画は生存者たちへの取材をもとに、その組織の実態を描き出しています。日本人にとっては「オウム真理教が政権と結びついたら」というようなイメージでめっちゃ怖いのですが、この作品を作ったガレンベルガー監督にはどんな考えがあったのでしょうか?

ということで行ってみたいと思います~。

「コロニア・ディグニダ」について初めて知った時、どんなことを感じましたか。

1981年、9歳の時に学校で見たテレビのリポート映像で初めて知りました。当時の僕は、チリの存在も、どんな国でどこにあるのかも知りませんでしたが、人々はそこから逃げられず、強制労働させられていることが信じられず、ものすごい怒りがこみあげて、家に帰って母に話しました。もちろん当時は映画にしようなんて思いませんでしたが、「こんなの間違っている」という怒りは決して消えず、数十年後に蘇ってこの映画を僕に撮らせたんです。

この映画に対するドイツ国内の観客の反応はどんなものでしたか?

ドイツでは70年代に大きな話題になったので、50歳以上の多くは「コロニア・ディグニダ」について耳にしたことはあると思います。でもその規模や犯罪性の大きさに、誰もが「ここまで悲惨だったとは」と驚いたようでした。40代以下の若い世代はより強く衝撃を受け、「こんなことがありえるのか?」とにわかには信じられなかったようです。私自身、映画のエンドクレジットが終わる前に検索を始めた人を、劇場で何人も見ました。

ダニエル・ブリュール演じる恋人はクーデターのさなかに逮捕
ダニエル・ブリュール演じる恋人はクーデターのさなかに逮捕

物語の部分はフィクションとしても、描写される「コロニア」についてどのくらいが事実に基づいていますか?

チリで映画が公開されて2週間くらいの頃、私はチリで「コロニア」での拷問を生き延びた人たちと一緒にいたのですが、映画を見た彼ら全員が口をそろえてこう言いました。「本当に正確に描かれていたよ。まあ事実はもっとひどいけど」。その実態はあまりの恐ろしく暴力的なので、正確に描けばおそらく誰も映画を見てはくれないと思います。

ただし内部の生活の模様や人々の関係、行われていた出来事などは、すべてが取材に基づいた真実です。シェーファーが死人を蘇らせようとする儀式すら、生存者の証言をドキュメンタリー的に再現したものです。

物語自体は実在の事件ではありませんが、それを構成する要素もほとんどが事実です。例えばチリのドイツ大使館の関与。命がけで「コロニア」から脱出したドイツ人たちは、国外へ逃れるために大使館へ行きました。施設に入るとき没収されたパスポートを再発行するために。でも大使館は、25年もの間、すべての脱走者を「コロニア」へ送り返していたんです。

もちろん映画のラストの展開は実際に起こったことではありません。でも私は大使館の関与に本当に怒りを感じていたので、こう思ったんです。「OK、それならもっと大事として描こう」と。「どう起こったか」はフィクションですが、「何が起こっていたか」は映画の中で正確に描かれていると思います。

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映画には描かれていない、何か印象に残っているエピソードがあれば教えてください。

あまりに多すぎて……取材をするたびに、強烈にショッキングな「ありえない」話があり、映画には入れられませんでしたから。

例えばこんな事がありました。撮影の2週間前に、私はヒロインを演じたエマ・ワトソンと一緒に、現在の「コロニア」を訪れました。それは、今も「コロニア」内に住む協力者の案内で、かつてのパウル・シェーファーの寝室に入った時のことです。

そこは現在では完全な空室になっていたので、私は撮影のことを考えて、どこがベッドでどこが家具で、ここで何がどうやって起こったのか、話を聞いていました。言うまでもないことですが、それはシェーファーによる児童虐待の、身の毛もよだつような話です。

そこでその協力者がためらいながら言ったんです。「シェーファーのベッドは、今は僕の両親が寝るのに使っているんですよ」って。私は耳を疑いました。だってそのベッドは、シェーファーが何年にもわたって彼自身を、そしてほかの多くの子供たちをレイプし虐待し続けてきた場所なんですから。すると彼はこう答えました。「その通りです。でも両親はそのベッドを使うことを、すごく誇りに思っているんです」。

まったく信じられませんでした。両親が子供を気にかける、そういう当然のことが当然でない世界がありえるなんて。そんなのは絶対に間違っています。

この作品もそうですが、最近では『帰ってきたヒトラー』など、これまでと異なるタイプのナチスにまつわる映画が多く作られていますが、それはどうしてなんでしょうか。

『帰ってきたヒトラー』の「ヒトラーが現代に蘇るコメディ」というナチスへのアプローチは、30年前なら不可能だったでしょう。戦争が終わって70年という時間がたった今だからこそできたことです。

ドイツ人は常に過去を振り返ってきたし、映画でもそれをやってきましたが、最近のナチス映画は第三帝国時代とは別の時代にシフトしている気がします。例えば、2014年の『顔のないヒトラーたち』という(1963年にドイツ人検事が初めて強制収容所の幹部たちを裁いたアウシュヴィッツ裁判を描いた)作品は、ナチスに関連があるけれど、50~60年代に起きたことを映画化したものです。人々は「ナチス第三帝国時代は語って来たから、今度はそこに関連する別の時代をやろう」と思っているんだと思います。

『コロニア』にもそうした部分もあると思います。第三帝国がなければ「コロニア」は生まれていないと思いますから。

ドイツの人はどうしてそんなに歴史を振り返るんですか?

何か「過ち」を犯した時は、すべてをテーブルの上に並べ、じっと見つめて分析し、理解することが必要だと考えるのがドイツ人です。そうすることで初めて、二度と過ちを繰り返さず、よりよい一歩が踏み出せると思います。もちろん恥ずべき過去を振り返るのは辛いものですが、それは同時に報いをもたらしてもくれます。罪悪感を振り払うことができるし、善良であるための何かを学ぶこともできる。もしかしたら未来の形を変えることすらできるんですから。

『コロニア』ですごく恐ろしいのは、政治が宗教と結びついて共同正犯していることです。現代社会にもそうした結びつきは多く見られるような気がするのですが、それに関して何か思うところはありますか?

私もここ最近、まったく同じことを感じていました。それは、ドナルド・トランプみたいな、非常に複雑な問題を単純な答えで片づけるキャラクターに、人に人々が追随することにも共通していると思います。

どういうことかと言えば、例えば、トランプが「もし私が五番街で人を撃てっても、人々は私に投票するだろう」と発言した時に、彼のファン=信奉者は「その通り!」と答えたりします。つまり彼らは、崇拝するトランプの言動に疑問を持たず、トランプが本当はどんな人間なのか考えることもせず、トランプが自分たちに望むことならなんだってやってしまうんですね。宗教とはそういうものです。

でも今の時代、見回してみると、トルコではエルドアン大統領が政治に宗教を持ち込み、ポーランドでもカトリック右派の「法と正義」が大統領と首相を独占していたりして、すごく恐ろしいことが進行しているように思えます。

宗教には、理屈を超えた何かを信じることで人々を結集し、限界を越えさせる力があると思います。だからこそ指導者は、政治力では達成できないことを成し遂げるために、宗教を利用するんです。人類の歴史を見ても、本来なら戦う価値のない戦争が、宗教を理由にいくつ戦われてきたことか。私は思うんです。あらゆる人に信教の自由があるし、それを裁く権利は誰にもありません。でも宗教が政治に関わる理由はないし、すべきではない。それはまったく別のものなんですから。

『コロニア』

公開中

(C)2015 MAJESTIC FILMPRODUKTION GMBH/IRIS PRODUCTIONS S.A./RAT PACK FILMPRODUKTION GMBH/REZO

PRODUCTIONS S.A.R.L./FRED FILMS COLONIA LTD.

画像

フロリアン・ガレンベルガー

1972年ドイツ、ミュンヘン生まれ。ミュンヘン映画・テレビ大学で映画の演出を学び、短編映画の監督としてデビュー。2000年、『Quiero ser (I want to be ...)』で第73回アカデミー短編映画賞を受賞。2004年から長編映画を撮り、脚本も担当。2009年には『ジョン・ラーベ ~南京のシンドラー~』を監督した。

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映画ライター

TVドラマ脚本家を経てライターへ。映画、ドラマ、書籍を中心にカルチャー、社会全般のインタビュー、ライティング、コラムなどを手がける。mi-molle、ELLE Japon、Ginger、コスモポリタン日本版、現代ビジネス、デイリー新潮、女性の広場など、紙媒体、web媒体に幅広く執筆。特に韓国の映画、ドラマに多く取材し、釜山国際映画祭には20年以上足を運ぶ。韓国ドラマのポッドキャスト『ハマる韓ドラ』、著書に『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』。お仕事の依頼は、フェイスブックまでご連絡下さい。

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