韓国で大ヒット!オカルトスリラー『破墓 パミョ』は、水木しげる大好き監督が作った「実は妖怪映画」
今年の春に韓国で公開され1000万人の観客動員を達成した『破墓 パミョ』。後継ぎが次々と謎の死を遂げる富豪一族、その呪いの根源ーー誤った場所にある墓の移動(「改葬」)をするために、集まったのは風水師、葬儀師、ふたりの巫堂(ムーダン)たち。ところが墓所から彼らが掘り出したものは、人間のものとは到底思えない棺で、そこから目覚めてはならないものが目覚めてしまいます。今回は同作の監督で、このジャンルの名作を次々と生み出しているチャン・ジェヒョンさんにインタビュー。実は「日本の妖怪ヲタク」だという監督が、大ヒット作『破墓 パミョ』で描いたものとは、いったいなんだったのでしょうか?
『プリースト』『サバハ』などオカルトホラーのジャンル作品を次々と作られていますが、監督がそうしたジャンルの作品に心惹かれる理由は?人間ってなぜそうした恐怖を見ずにいられないんでしょう?
まず私自身は「怖い映画を作ろう」というように考えたことは一度もないんです。なのになぜこんな映画ばかり作るんだろうと自問自答してみたんですが、おそらく合理主義や科学信奉によって非常に発展した現代社会に、ちょっと疲れているようなところがあるんじゃないかと思うんですよ。それで対極にある宗教的なもの、霊的なもの、魂のようなものを考えてしまう。目に見えない世界には現代社会が失ってしまった価値観があり、だからこそ夢中になっているんじゃないかと。それに、こういうジャンルの映画を見たいと思っても、誰も作ってくれないんですよね。だから作り始めた気がしますね。
不思議な世界に触れることは、人間によい効果があると思いますか?
宗教などの霊的な場所、教会や聖堂やお寺なんかで、いつも語られるのは、結局のところ「愛」と「犠牲」についてなんです。どこであれ宗教的な場所では、人々が働く現代的なビルの内部を支配する合理主義の話なんてしないんですよね。つまるところ私は「愛」と「犠牲」は、失うべきではない人間の魂のようなものだと思うんですよ。霊魂もまた同じですよね。人間は死ねばそのまま消えてしまうなんて悲しいし、だから僕は「霊魂は永遠に存在してほしい」と考えているんです。
物語は、チェ・ミンシクさん演じる風水師が、改葬した墓から「いかにもヤバそうな2つ目の棺桶」を見つけたことから急展開しますが……。
私なら絶対に触りません。後ろも振り返らずに逃げますね。
え!?「怖いけど見ずにいられない」とか「秘密が知りたい」とかは?
私も「改葬」の様子や、墓を開ける「破墓」の儀式を実際に見たことがありますが、棺というのは開ける直前までが面白い、興味深いものなんです。面白いのは掘り起こしたその時までで、それ以上を深く関わると、おそらくすごく苦しいことが待っていると思います。
今回の作品を作る上で、いろんな取材をしたと思うんですが、その中で1番印象的だったことを教えて下さい。
あまりに多すぎて何かひとつに絞れませんが、興味深かったのは、映画の中で協力し合っている「風水師」と「葬儀師」と「巫堂」は、実のところあんまり中が良くないこと。彼らはお互いに仕事上のライバル、競争相手なんですよ。経験豊富は葬儀師は「自分は風水も見ることができる」と言いますし、風水師は「自分はある種の科学者」と思っていて、巫俗に関わる巫堂を無視するようなところがあります。巫堂は巫堂で、風水師を「土地ころがし」のように蔑んでいたりして。そういう現実の関係を、映画の中でも活かしたところがありますね。
監督自身は巫堂を利用した経験はありますか?
巫堂の方たちの中で「本物」と信じられている方たちというのは、ある意味で医者のような存在だと私は考えています。私の知る巫堂たちは本当にすごい力を持った人たちなので、その力を急を要する対処が必要とする人たちにしか使っていないんですね。私の場合、これまでは幸いそういう事態に陥ったことがなかったので、お願いしたことはありません。
『破墓』を作るにあたり、意識して盛り込んだものはありますか?
映画の前半で登場する霊魂や、後半に登場する精霊、その2つの要素をどのように表現するか。この映画は、現代社会においてそういうものにどうやって対処すればいいかを、主人公たちを追いながら見ていくジャンル映画です。そういう面白さを中心に見ていただけたら。
こだわったのは「劇場で見るための映画」として作りたかった、ということです。つまりそうした知らない世界を、劇場でしか感じられないサウンドと大画面で見てもらいたい、体験してもらいたいなと。さらにその世界のプロフェッショナルたちとともに、その仕事を掘り起こしていくという楽しさもあると思います。
実は私は「日本ヲタク」なんですよ。だから日本のヲタクの方に、「韓国の”日本ヲタ”が、日本のどんな要素を韓国の要素とミックスしたのかな」と探しながら楽しんでもらえるんじゃないか、そんなふうにも思っています。
ちなみに監督は、特に何のヲタクなんですか?
大学との時は「妖怪サークル」に入っていました。妖怪というのは、霊的なもの、自然的なもの、そして人間的なもの、歴史的なもの、様々なものが混じり合って生まれた存在だと思うんですね。私も実際に見たことがあるわけではないのでその存在は確認できていませんが、「なぜ妖怪が生まれたのか」について学ぶことがとても楽しいんですよね。
今の話で合点がいきました。この映画の後半はまさに「妖怪映画」でしたね。
おっしゃるとおりです。私もそう思っています。
日本で妖怪と言えば水木しげるさんなんですが、ご存知ですか?どの妖怪が一番のお気に入りですか?
水木しげるさんはもちろん知っています。どの妖怪が一番好きか?という質問は、どの食べ物が一番好きですか?という質問と同じくらい悩みますね。ちなみに私は河童とあだ名されていますが、般若も好きだし……好きな妖怪が多すぎて、ひとつ選ぶと他の妖怪に怒られそうです(笑)。
日本の映画制作関係者に会ったら、いつも言いたいと思っていたことがあるんですよ。それは「かわいい妖怪映画だけじゃなくて、怖い妖怪映画も作って!」ということです。日本の妖怪映画はいつも可愛いのばかりなので、それが残念です。
韓国では劇場に足を運ぶ人が減っていると聞いていますが、そういう中で好き嫌いが分かれそうなこの作品が大ヒットしたのはどうしてだと思いますか?
色々な要素があると思います。映画には、映画館で見た方がいいのか、少し待ってからストリーミングで見るほうがいいのか、またはテレビで見る方がいいのか、といういろいろな選択肢があると思います。おそらく予告編を見た方に、映画館で見たい、映画で見たらどうなんだろうと本能的に感じてただけたのだと思います。そう思ってもらえることが非常に大事だと思います。
同時に『破墓 パミョ』が持っている世界観ですよね。韓国の人たち誰もが知っているけれど知らない世界、よくは知らないけれど気になる世界を描いたこと。親しみのある俳優さんたちが、あまり馴染みのない職業のキャラクターたちを見事に演じ、その知らない世界を見せてくれたことが、支持が盛り上がった理由かなと思います。
『破墓 パミョ』は「誤った答えだらけの映画」だなって、最近は思うんですよね。よく「正解だらけの映画」ってあるじゃないですか。どこを切っても、これが正解だなと思える内容ばかりが詰め込まれたような作品って。でも最近の観客の皆さんは、想像通りの正解を見せ続けられるよりも、意外な不正解が含まれているような作品だって好きなんじゃないかなって思うんですよね。
『破墓 パミョ』10月18日より全国にて公開
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