ワースト2と批判集中の紅白、実はまあまあ成功していた
2022年の紅白は2021年の方針変更の続き
昨年の大晦日の「NHK紅白歌合戦」について、年明けに一斉に報じられた。その中には「視聴率歴代ワースト2」をキーワードに批判的なものも多い。中には「惨敗」とまで酷評しているものもある。
これらの記事に、私は大いに疑問を感じた。前回2021年の紅白でガラッと方針を変えて、演歌を中心にこれまで高齢者向けと思われていた歌手の起用をやめ、思い切って若者向けに内容変更した。視聴率は過去最低となったが、それは覚悟の上での方針変更だっただろう。この時私は、若い層の視聴率が上がったかを確認し、特に若い女性で上がったことを示した記事を書いている。
昨年も出場歌手が発表されると中高年が知らない歌手が多いと話題になったので、前回の方針を踏襲したのだなと受け止めていた。当然今回も全体の視聴率を狙うのでなく、若い層に特に見てもらう狙いだろうと推測した。
だから視聴率が前回より上がったのなら狙いが功を奏して全体も上がったということであり、惨敗と言うのは的外れではないかと感じた。何がなんでも悪く言いたい、批判のための批判になっているように思う。
そこで、データを確認してみた。
まずビデオリサーチがこのところ発表している、年末年始番組の「到達人数」と「平均視聴人数」を2年分比較してみた。
「到達人数」とは番組を1分以上視聴した人の合計で、他の番組とザッピングしながら見る際に、少しでも見た人数だ。「平均視聴人数」は、番組を見る人の数は分ごとに増減するが、それを均した人数だ。
すると2022年は2021年に比べて到達人数は減少したが、平均視聴人数は増えていた。他の番組とザッピングしながら見た人は減ったが、落ち着いて見た人は増えたと解釈できる。
第2部では全体的に視聴率が上がっていた
今度は、2年分の視聴率を性年齢別でグラフにして比べてみよう。まずは第1部の視聴率だ。
すると、若年層の視聴率が上がっていたことがわかる。F1(20-34歳・女性)は18.8%から21.0%へと明らかに上がり、M1(20-34歳・男性)も12.0%から12.7%と僅かながら上がっている。ただF3(50歳以上・女性)は32.6%から30.3%へはっきり下がっていた。第1部では高齢層より若年層を高める狙いが表れたと言える。
次に第2部を見てみよう。
ここではC(4-12歳・男女)T(13-19歳・男女)も含めて若年層が全体に上がっている。F2(35-49歳・女性)もはっきり上がっている上、F3はほとんど下がっていない。
過去数十年の世帯視聴率と比べると「惨敗」と言ってしまうのもわからないでもないが、明確に方向性を変えたことを前提に見ると、まあまあ成功したことがわかってくる。
単純な過去との視聴率比較では番組を評価できない
さらに付け加えると、この2年間ほどテレビ放送の視聴率は全体的に下がっている。昨年1年間のPUT(総個人視聴率)はゴールデンタイムで36.2%から33.1%へと3.1%も下がっている。テレビ全体の視聴率がぐんぐん下がっているわけで、今視聴率を僅かでも上げるのは大変なことなのだ。
個人的にも昨年の紅白は楽しめた。演歌が好みではないこともあるが、知らない若い出場歌手もこんな素晴らしいアーティストがいたのかと発見させてもらえた。
NHKに限らずテレビ放送は高齢層も含めて「テレビ離れ」がいよいよ進み、「世帯視聴率」では個別の価値を測りにくくなっている。以前の視聴率と比べて批判すると的外れになりがちだ。
見られなくなり始めたとはいえ、まだまだ人々の生活にテレビの与える影響は大きい。できるだけ多角的なデータから見ていく必要があると思う。