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「皆さんにお願いがあります」世間の"大掃除"が及ぼすごみ収集員たちへの知られざる影響

橋本愛喜フリーライター
年末の大掃除が及ぼす収集員たちへの影響とは(写真:アフロ)

普段から世間のごみ出しのマナー違反に疲弊している「ごみ収集員」たち。

これまでそんな彼らの胸の内をいくつか紹介してきたが(記事末に紹介)、年末年始になると、現場からもれるため息はより色濃いものになる。

今回は、ごみ清掃芸人として活動しているお笑いコンビ「マシンガンズ」の滝沢秀一さんをはじめ、現役のごみ収集員計9名から、年末年始におけるごみ収集の現状と、この時期のごみ出しに対する「世間への要望」を聞いた。

ごみ清掃芸人として活動する「マシンガンズ」の滝沢秀一さん(滝沢さん提供)
ごみ清掃芸人として活動する「マシンガンズ」の滝沢秀一さん(滝沢さん提供)

年末年始と「ごみ」

ごみ収集員たちによると、イベントの多い12月のごみには、家庭・事業系ともに「季節感」がよく表れるという。

「事業系の古紙回収の現場では、11月末ごろから、お歳暮の商品やおせちのカニなどが入っていた段ボールが大量に出されるので、ひと足早く『年の瀬』を感じます。また、ボーナスが入る時期でもあるので、新しい家具を買う人が増えるせいか、年末は家具が入っていた段ボールも増えますね」(千葉県17年目古紙回収)

「クリスマス明けの収集日、ごみ袋からキラキラの包装袋やおもちゃの空き箱、"トナカイの角"などが透けて見えると、それぞれの家にサンタクロースが来たことが垣間見える」(新潟県9年目家庭ごみ収集)

しかし、そんな季節感にゆっくり浸っていられる暇は彼らにはない。これらイベント系のごみに加え、日本の12月には年に1度、家中のものが一気に吐き出されるもうひとつのイベント、「大掃除」があるからだ。

お歳暮やクリスマス、家族親戚が集う正月の準備などにより、ただでさえごみが増える中、もはや日本の文化的慣習ともなっている"全国一斉の断捨離"によって、年末は事業系・家庭ごみいずれも排出されるごみの量が急増。

中には決められた収集ルート全てを回り切れないケースもあるという。

「事業系のごみは家庭ごみよりも年末年始の影響を受けにくいですが、24日以降に引取依頼が急増します」(和歌山県16年目事業系ごみ収集)

「年末になり量が増えると処理場との往復が増えますね。1分も休憩、待機無しで12時間〜14時間の勤務になります」(千葉県17年目古紙回収業)

「私たちの自治体では収集量の増大で時間かかる分、他部署からの増員増車しています。いつも以上にかかる時間は、年末で道路渋滞が和らぐ分で相殺している状態です」(奈良県2年目家庭ごみ収集)

滝沢さんいわく、大掃除で大量に捨てられるごみのひとつは、「洋服」だという(滝沢さん提供)
滝沢さんいわく、大掃除で大量に捨てられるごみのひとつは、「洋服」だという(滝沢さん提供)

断捨離によってごみを大量に出そうとすると、45Lのごみ袋がパンパンになるほど詰め込んで出されることが普段以上に多くなる。が、この大きく重い塊の連続は、言わずもがな彼らの足腰の大きな負担になる。

かたや、ひとり暮らし向けのマンションなどでの場合は、ごみ箱が小さいためか、レジ袋などで小分けにして出されることもよくあるのだが、この小分けは小分けで思いのほか負担になるという。

「収集員はたくさんの集積所で、地面からひとつひとつ腰をかがめて袋を取り出しますからね。しかし、そんな状況を知ってくれているのか、中にはその小分けの袋をいくつもブドウの房のように結んでくださっている人がいる。僕はこれを『神ごみ』と呼んでいます」(滝沢さん)

レジ袋をひとつの房にしてくれる人も(滝沢さん提供)
レジ袋をひとつの房にしてくれる人も(滝沢さん提供)

こうしたごみが大量に出るのは、「年末」だけではない。

年明け最初の回収日も、回収場所をすべて回り切れないほどのごみが出される。

「年末年始、家族や友人が集まって家で飲むんでしょうね。最近ではストロング系の缶なんかが目立ちます」(滝沢さん)

「自分の場合、今年の年末年始の休みは12/31〜1/3の4日間。年末の回収で溜めた疲れを取るために、この仕事を始めて以降、毎年寝正月です。年明けにはまた大量のごみが待っている」(岡山県30代家庭ごみ)

「捨て慣れない」が分別不良に

年末に断捨離される代表的なものが、「粗大ごみ」だ。

大掃除で家具や家電などを思い切って捨て、前出の収集員が述べた通り、入ったボーナスで新調しようとする人が増える。

そんな粗大ごみの捨て方には、主に直接クリーンセンターへ持って行く「持ち込み」と、予約をして作業員に持って行ってもらう「回収」がある。

この回収の際は、コンビニやスーパーで有料の「粗大ごみ処理券」を購入し、そこに必要事項を記載。予約した日時に指定の場所に出しておくと回収されるのだが、ここにも収集員を困らせるケースがいくつかあるという。

「自宅の粗大ごみを出す際、家から離れた会社付近のコンビニなどでシールを買ったのか、別の区や地域のシールが貼られていることがあります。区域の違うシールが貼られていると持って行くことはできないんです。保管していたシールを引っ越し先で使おうとしても、やはり同じ区域でないと使えません」(滝沢さん)

さらにこんなケースも。

「恐らくわざとだと思うんですが、ごみのサイズを小さめに申告する人がいるんです。サイズが小さい方が安く済むので、1回ダメ元で出してみる。持って行ってもらえるかまず試してみて、ダメだったら仕方なく再度規定の料金のシールを貼る。回収側からしたら二度手間になります」(滝沢さん)

世田谷区の粗大ごみ処理券。シール状になっており、ごみに張り付けて指定の場所に置いておくと回収される(世田谷区ウェブサイトより)
世田谷区の粗大ごみ処理券。シール状になっており、ごみに張り付けて指定の場所に置いておくと回収される(世田谷区ウェブサイトより)

大掃除がごみ収集員たちに与える影響は、「ごみの増加」だけではない。

「捨て慣れていないこと」で分別がおろそかになるため、「分別の質の低下」という面からも現場の負担になっている。

「毎年のことですが、年末の大掃除での断捨離、年始のステイホームで排出量は増加。普段捨てない物や、年末最終収集にねじ込むせいなどで、分別不良が増えますね」(奈良県2年目家庭ごみ)

「先述通り、年末になるとボーナスが入り家具が売れますが、家具を梱包していたダンボールを出す時に緩衝材や発泡スチロールが入ったまま出されると困ります」(千葉県17年目古紙回収業)

「自分の場合は家庭ごみの回収ではなく、物流センターや食品工場から出るダンボール回収が殆どですが、物流センターや食品工場は年末の繁忙期になると臨時で派遣の従業員を雇います。そうすると現場での分別がメチャクチャだったりしますね」(同上)

中でも「普段捨て慣れていないごみ」の筆頭としてあげられるのは、やはり先に紹介した「粗大ごみ」で、「捨て間違い」や「配慮不足」が発生しやすい。

例えば一時期「人をダメにする」として人気を博したビーズクッション。

新年を迎えるにあたり、来年こそダメ人間を卒業するんだと意気込むのか、毎度年末になると必ずといっていいほど集積所に姿を現すのだが、大きさや自治体によって捨て方が異なることも手伝い、捨て間違いが多く発生する。

「担当地域では30cm以上のビーズクッションは粗大ごみ扱い。にもかかわらず、可燃ごみの日に袋に入れて出されるケースがよく報告される。あれがパッカー車(収集車)の中で破れたら現場は悲惨」(新潟県9年目家庭ごみ収集)

「破けてしまったビーズクッションは、コンビニ袋などの小さめの袋に小分けにするか、厚手のごみ袋に半分程度入れて空気をぬいてください。圧縮すると破裂しにくくなります。パンパンに入れられてしまうと大惨事になります」(東京都約10年家庭ごみ収集)

ビーズ入りの抱き枕。自治体によっては粗大ごみになる。このまま収集車に入れると中身が飛び散る(筆者撮影)
ビーズ入りの抱き枕。自治体によっては粗大ごみになる。このまま収集車に入れると中身が飛び散る(筆者撮影)

ちなみに、この「細かいごみ」関連でいうともうひとつ、収集現場を困らせるやっかいなごみがある。「シュレッダーで細かく裁断された紙ごみ」だ。

「自治体によって違いがあるので原則そちらの指示に従ってほしいが、シュレッダーにかけた紙ごみは、パッカー車の回転板に袋が挟まり破裂すると、周囲に紙吹雪が舞う。周囲は一面祝賀パレードのような状態になるが、作業員にしてみたら地獄です」(岡山県30代家庭ごみ)

可燃ごみとして出す場合のシュレッダーの紙ごみは、水吹きなどで全体を湿らせ、袋の中の空気を抜き、他の可燃ごみを入れた袋のなるべく真ん中に寄せると飛散防止になる。

また、こうした細かいごみや竹串など、作業員にとって危険なものが入っている場合は、袋などにメモを貼り付けてもらえると非常に助かるという。

以前取材した古紙回収のパッカー車の中身(筆者撮影)
以前取材した古紙回収のパッカー車の中身(筆者撮影)

ごみ出し前に考えてほしい「その先」

「新年をできるだけすっきりした形で迎えたい」と思う人が多いせいか、毎年各自治体のごみ出し最終日には、ぎりぎりまで大掃除をしていたためだろう、大量のごみが出される。

そんな年末年始のごみの急増による影響が及ぶのは、収集員だけではない。そのごみ処理施設にも大きな負担になる。

「年末は我々収集作業もそんな事情に忖度して収集しますが、そのツケは焼却炉他、様々な設備、現場作業員に、故障や事故として押し付けられ、最終的に多額の自治体予算を割く形となります」(奈良県2年目家庭ごみ)

また、そもそも断捨離しようとする粗大ごみや洋服、雑貨などには、まだ十分使用できるものも多いことを忘れてはならない。

滝沢さんはその現状に対し「できるだけ"捨てられてしまうごみ"を減らしたいと思っています。自分にはもういらないものでも、所有者を変えることによって価値あるものとして継続利用が可能になることも多い。人に譲る、フリマアプリで売ることも含めて、廃棄前には是非再検討してほしい」という。

参考:全国の一般廃棄物データ(令和元年度)/環境省

・年間ごみ総排出量:4,274万トン(東京ドーム約115杯分)

・1人1日当たりのごみ排出量:918グラム

・ごみ焼却施設数:1,082施設→1,067施設(15施設減)

・ごみ焼却施設における総発電電力量:9,981GWh(約336万世帯分の年間電力使用量に相当/前年比増)

「皆さんにお願いがあります。出したら自分の所有物じゃなくなるという考えはどうか捨てていただきたいです。年末年始は僕たちにとって1年で一番負担がかかる時期。おひとりおひとりから少しずつ心遣いをいただけると、円滑な回収作業ができるのではと思います」(富山県13年目家庭ごみ収集)

現場収集員からのお願い(まとめ)

1.年末最終日に一度に出さず、周辺日にこまめに出してほしい

2.粗大ごみのシールは自分の地区で、サイズや規定にあったものを購入

3.ビーズやシュレッダーの中身などの細かいごみは、飛散防止のひと手間を

4.本当に捨てるべきかの再考や人に譲るなどの検討をしてみる

関連過去記事:

「日本人はマナーがいいなんて嘘」ごみ収集員が対峙する日本の違反ごみ

https://news.yahoo.co.jp/byline/hashimotoaiki/20200923-00199596

「さっきのごみ、大丈夫だったかな…」マスクがねじ込まれた袋にごみ収集員が思うこと

https://news.yahoo.co.jp/byline/hashimotoaiki/20201021-00203829

コロナ禍の中、大掃除をする人たちに「社会の静脈」を担うごみ収集員が知っておいてほしいこと

https://news.yahoo.co.jp/byline/hashimotoaiki/20201221-00213582

参考文献:

環境省:一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和元年度)について

https://www.env.go.jp/press/109290.html

東京都世田谷区:有料粗大ごみ処理券について(券の種類・購入場所)(画像使用)

https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/kurashi/004/011/d00005146.html

大阪府四条畷市:シュレッダーごみを出される方へ(お願い)

https://www.city.shijonawate.lg.jp/soshiki/16/33428.html

※ブルーカラーの皆様へ

現在、お話を聞かせてくださる方、現場取材をさせてくださる方を随時募集しています。

個人・企業問いません。世間に届けたい現場の現状などありましたら、TwitterのDMまたはcontact@aikihashimoto.comまでご連絡ください(件名を「情報提供」としていただけると幸いです)。

フリーライター

フリーライター。大阪府生まれ。元工場経営者、トラックドライバー、日本語教師。ブルーカラーの労働環境、災害対策、文化差異、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆・講演などを行っている。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)。メディア研究

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