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「さっきのごみ、大丈夫だったかな…」マスクがねじ込まれた袋にごみ収集員が思うこと

橋本愛喜フリーライター
ごみ袋にねじ込まれたマスク(筆者撮影:イメージ)

<毎朝どこかで出される「コロナごみ」>

現在、日本各地の集積所に毎朝出される家庭ごみの中には、どこかに間違いなくコロナウイルスが付着したティッシュやマスクが混在している。

が、ごみ収集員にはどれが「それ」なのか、もちろん分からない。

これは、パッカー車(ごみ収集車)のプレス板に挟まったごみ袋が破裂する瞬間だ。

 

とりわけ、ごみを押し潰しながら車内に取り込むプレス式タイプのパッカー車においては、この破裂現象は日常的な光景だ。

「パン」という音を目の前で聞くたびに、収集員の脳裏には「感染」の2文字がよぎる。

コロナ禍で変化するごみ収集の現場。

「苦労と恐怖」との闘いを、現役のごみ収集員19名に聞いた。

<水を吸った段ボールは重い>

今回、彼らごみ収集員に「コロナによって現場で感じた変化」について聞いたところ、やはりニュースで報じられてきている通り「家庭ごみの量が増えた」とする声が多く、中には「外出自粛期間中は2倍くらいになったのでは」と答える人もいた。

しかし、変化したのは「量」だけではない。

多く捨てられるごみの「種類」にも、例年にない現象が見られる。

集積所に溢れんばかりに出されるのは、衣服や酒の空きびん・缶、大手通販サイトの段ボール。

これらを通じて、彼らは目に見えないコロナという存在を強く感じている。

さらに今年は「長梅雨」や「過去最も暑い夏」もが重なったことで、作業中の苦労も増えた。

「例年以上に出される大量の段ボール。これが梅雨時、雨でびちゃびちゃに濡れていることが多かったんです。水を吸った段ボールというのが実はめちゃくちゃ重く、持つとすぐに破れるので今年の梅雨は本当にキツかった」(神奈川県40代男性)

「地元でコロナウイルス感染者が出て以降、会社からゴム手袋の下に薄いビニール手袋の着用を指示されました。もちろんマスクも常に着用です。熱がこもるため、これがとてつもなく暑い」(栃木県30代女性)

「ごみ収集員の作業服は衛生上夏でも厚手で、軍手も必須なのでとにかく暑い。そんな中でのマスク着用。出発後、マスクはすぐにしぼれるくらい汗でびっしょりになるんですが、マスクって濡れると呼吸できなくなるんです」(愛知県40代男性)

そのため、マスクは適宜外していたという作業員も少なくなかったが、中には「世間の目がありマスクは外したくても外せなかった」とする意見も多かった。

「暑いからマスクなんてしてられないと思う日もあったんですが、近所の方からは『なんでマスクしないで作業しているんだ』と怒鳴られたり写真を撮られたり」(東京都50代男性)

「緊急事態宣言の時、『収集員がマスクしてない』という電話がかかってきた。コロナより世間の目が怖い」(東京都30代男性)

分別されずに出されたごみ(筆者撮影)
分別されずに出されたごみ(筆者撮影)

 

こうした中、ごみの捨て方に対する「マナー」にも気になる変化があったという。

「コロナの影響で、各集積所に着く時間がそれまでと前後するケースも出てきています。いつもより遅いと『臭うから早く持って行け』、逆に早くても『早いじゃないか』と文句を言われるうえ、パッカー車の作業音を聞いて慌てて家を飛び出してくる『後出し』も増え、時間をロスしたり、自分たちのために先に進めない後続車の迷惑になったりします。各自治体ではごみ出しの時間が決まっているはずなので、どうかそれを守ってほしい」(大阪府20代男性)

<袋にねじ込まれるマスクが怖い>

回収時に掴むのを一瞬ためらうのが、他でもない「コロナごみ」の存在だ。

「この中にコロナが付着したごみがあるかもしれないと考えると正直怖い。家には子どももいるので、毎日不安や緊張感でいっぱいです」(千葉県40代男性)

「元々こういう現場で働いているから、菌やウイルスには“抗体”があるんじゃないかと仲間内で冗談を言い合っていたが、近所で収集員の集団感染があって以降、そんな冗談も出なくなった」(東京都50代男性)

生存期間が長いといわれるコロナウイルス。週2回の頻度で回収される家庭ごみの袋内では、ウイルスが生き続けている可能性が高い。

「捨てる側」のマナー次第では、彼らの感染リスクを高める恐れもある。

 

ごみ袋にねじ込まれたマスク(筆者撮影:イメージ)
ごみ袋にねじ込まれたマスク(筆者撮影:イメージ)

中でもハッとさせられるのが、ごみ袋へのマスクなどの「ねじ込み」だ。

「個人的にとても嫌だったのは、可燃ごみの袋を縛った後に雑にねじ込まれた使い捨てマスクです。袋から半分出ているような状態で、ちょうどつかむ場所でもあるので、抵抗がありました」(栃木県30代女性)

筆者自身、キッチンで縛ったごみ袋に、玄関で目に入ったマスクをねじ込んだことがある。

「これからはコロナだけでなく、インフルエンザや風邪を引く人も増えてくる季節ですが、マスクや鼻をかんだティッシュなどは、ごみ袋を二重にしていただけると、全国の作業員の不安要素は少しでも拭えると思います」(富山県40代男性)

<ごみ袋の破裂>

コンテナに直接回収される缶(筆者撮影)
コンテナに直接回収される缶(筆者撮影)

もう1つ、ごみ収集員を不安にさせるのが「ペットボトルや缶」だという。

今年はコロナによる外出自粛と「最暑の夏」によって飲料系のごみが急増した。

自治体によっては、ペットボトルや缶を「ごみ袋での収集」ではなく、コンテナに直接投げ入れて回収するところがある。

「見知らぬ人が直接口を付けているものなので、缶やペットボトルから液体が漏れたり垂れたりすると不安になる。気持ちだけでもいいから軽くゆすいでほしい」(岡山県30代男性)

また、最近増えたという声があったのが、使い捨て型の「ウォーターサーバーのタンク」だ。

直接口をつけるものではないこのタンクにも、ある大きな懸念があるという。

「うちの地域ではウォーターサーバーのタンクは『缶・ペットボトル』の日に収集で、タンクの蓋(ふた)は『プラ容器包装』扱いなんですが、大抵の場合、蓋は取られずにそのまま出されてしまいます。すると、パッカー車でプレスされた時、その蓋が圧力で飛ぶことがあるんです。蓋が耳元をかすめていった時はめちゃくちゃ怖かった。面倒臭い気持ちも分かりますが、いざ自分が収集側として出てみると危険なんだなと思いましたね」(神奈川県30代女性)

冒頭で紹介した通り、パッカー車にごみをプレス板や回転板で車内に取り込む際、その板にごみ袋が挟まれ、「パン」という音を立てて破裂することがある。

ペットボトルやウォーターサーバーのタンクの場合、蓋が付いたまま出されると、破裂の圧力でその蓋が飛ぶことがあるのだ。

この「破裂」においての詳細は、前回の「マナー編」にも紹介しているが(文末にリンクあり)、可燃ごみの場合、生ごみの汁や掃除機の紙パックのホコリなどが圧力で飛び散り、前で作業している収集員がそれを浴びるというケースがしばしば起きる。

「ごみ袋が破裂した瞬間、おむつの汚物が掛かり、1日中臭いが取れないこともありました。毎度すごく嫌な気分になるんですが、最近は直接何かが掛からなくても、破裂音を聞くとコロナ感染が気になるようになりました」(新潟県30代男性)

<高リスクも対策できぬ現場 私たちにできること>

このように、常に高い感染リスクに晒されているごみ収集員だが、現場の環境上、完全な対策を取るのは難しいという。

「密回避・こまめな手洗い・消毒が提唱される中、それらの実行がかなり制限される仕事です。収集所1か所ごとに手洗いはできません。消毒こそ時間がある時に行いますが、毎度そんなことしていたら仕事になりません。『さっきのゴミ大丈夫だったかな…』と、ぼんやりとした恐怖と常々闘いながら仕事をしています」(栃木県30代女性)

毎日感染リスクと対峙するごみ収集員。

そんな彼らのために、私たち「捨てる側」ができることは何なのか。

「正しい分別とマナーを守ってくれたら、それだけで十分」(福岡県60代男性)

「掃除機の紙パックなど、ホコリが舞いそうなものは、袋を何重かにして空気を抜いてもらえたら積み込み時に飛散しにくいです」(大阪府40代男性)

「しっかりと結ばれていないごみ袋は、持った時にほどけて中身が散乱する。片付けるのはもちろん作業員なので、固く結んで捨ててほしい」(和歌山県30代男性)

普段言いたくとも言えないことがたくさんあったのだろう。今回のアンケートに対する返信のほとんどが長文で、中には「パッカー車、是非乗りに来てください」と言ってくれる人までいた(実際に乗りに行ったので、後日紹介する)。

コロナと向き合いながら我々の毎日を支えるごみ収集員。

「運送のトラックが生活インフラとして社会の『動脈』を走っていることは最近知られ始めてきましたが、ごみ収集車も毎日『静脈』を走っているんです」という一文から、彼らの想いが伝わってくる。

前回の「マナー編」はこちら:

「日本人はマナーがいいなんて嘘」ごみ収集員が対峙する日本の違反ごみ

フリーライター

フリーライター。大阪府生まれ。元工場経営者、トラックドライバー、日本語教師。ブルーカラーの労働環境、災害対策、文化差異、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆・講演などを行っている。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)。メディア研究

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