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コロナ禍の中、大掃除をする人たちに「社会の静脈」を担うごみ収集員が知っておいてほしいこと

橋本愛喜フリーライター
分別されずに出されたごみ(筆者撮影)

<「ゴミ」か「ごみ」か>

新型コロナウイルスの感染拡大の中、激励の声が送られるようになったトラックドライバーは、昔からよく「国の血液」に例えられる。社会インフラとして、消費者のもとにモノを届けるという意味合いで言えば、彼らが走っている“血管”は「動脈」ということになるだろう。

医療従事者とともに、そんなトラックドライバーへの称賛が先んじて増えていったある日、筆者の元にこんな言葉が届いた。

「自分たちも国の血液。『静脈』を走っているんです」

ごみ収集員からだった。

モノの流れは、「作られ、運ばれ、消費者に届いたら終わり」なのではない。消費された後に出るごみを処分するまでが物流なのだと、その声にはっとさせられた。

筆者が「ごみ」を「ゴミ」と表記しないのには理由がある。

彼らごみ収集員の記事を書くにあたり取った初めてのアンケートで、ある収集員からこんな意見をもらったことがきっかけだった。

「『ゴミ』ってカタカナで書かれるの好きじゃないです。『クズ』や『クソ』など、ネガティブなものをカタカナで書く習慣がある中、ゴミって書かれると何か引っかかる」

実際、「環境新聞」にはこんなコラムがある。

「ごみ」か「ゴミ」か――。(中略)やはりごみというのは「不要のもの、汚いもの」といった負のイメージが強い。ひいてはごみを扱うごみ処理業者などもあまり良いイメージは持たれて来なかった。全てがという訳ではないが、そうした意味を込めて「ゴミ」と表記されたケースも少なからずあるだろう。(中略)個人的には従来からあまり意識せずにひらがな表記を使ってきたが、これからは少し意識しながら「ごみ」という表記を使っていきたい。(2012/06/13)

(2012年6月13日環境新聞コラムより)

http://www.kankyo-news.co.jp/ps/qn/guest/news/showbody.cgi?CCODE=59&NCODE=468

表記がひらがななのか、カタカナなのか。そんなことなど大したことではないのかもしれない。現場で気にしている人もそれほどいないのかもしれないが、ごみ箱を「護美箱」とすら当てて書く日本語や日本人の繊細さに鑑みると、カタカナにすることで、やはり何らかの意味を持たせているような気が個人的にはしてしまうのだ。

<「ごみ」は扱っても「ごみ」にはならない>

彼らごみ収集員がこれまで世間から向けられてきた言動には、偏見や差別的要素が含まれるものがある。

「目の前で鼻をつままれる」(富山県40代男性)

「あからさまに息を止められる」(東京都30代男性)

「子どもに『くっせー!』と言われる」(30代栃木県女性)

「『こんな臭いもん早く持って行けよ』と言われる」(大阪府20代男性)

「『勉強しないとこうなる』という声が聞こえてきた」(大阪府20代同上男性)

「公務員・現業労働者も民間のごみ屋さんも下に見られたりヒドイことをされやすい」(大阪府40代男性)

お笑い芸人でありながら、ごみ清掃員としても活躍している「マシンガンズ」の滝沢秀一さんも、自身の著書の中で過去に浴びせられた言葉を記している。

「おい、ゴミ屋どけよ。ゴミ屋がなんで俺を待たせるんだよ」

(滝沢秀一『やっぱり、このゴミは収集できません』白夜書房)

労働条件でいえば「きつい、きたない、くさい」の3Kとも揶揄されるごみ収集の仕事。しかし、彼らは自身や仕事道具をいつも清潔に保とうと努力を惜しまない。

「作業服がシミだらけという同業者は、今まで自分は見たことがないです」(新潟県30代男性)

「どうせごみを積んだら汚れるからほったらかし、ではなく、ごみを積んでいるからこそ自分のクルマはピカピカにしていたい。今日も朝からキャビン拭きあげました」(大阪府40代男性)

こうした偏見や差別と対峙する人たちからは、時折強い意思や信念を感じることがある。例に違わず、今回もある収集員の言葉に胸が熱くなった。

「ごみは扱っても、自分自身がごみになってはいけないと思いながら仕事してます」(富山県40代男性)

写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

<年末大掃除前に知っておいてほしいこと>

コロナ禍で医療従事者やトラックドライバーたちに称賛の声が集まるようになって以降、「エッセンシャルワーカー」という言葉が使われ始めるようになると、ごみ収集員たちにも激励の声が徐々に増えていったという。

「自粛期間に激励の手紙をたくさん頂いたのは嬉しかったですよ。あと、差し入れを頂戴することもコロナ感染拡大以降増えたと思います」(奈良県50代男性)

「コロナ禍で多くの激励の言葉をいただくようになった。皮肉なことだが、コロナになって自分の仕事を誇れるようになった」(埼玉県30代男性)

こうして周囲からの理解が広がれば、作業も幾分しやすくなるところだ。

しかし、コロナ感染が再拡大する中で迎えたこの「大掃除」のシーズン。ごみ収集員の間には、疲労と緊張が続いている。

「これから年末にかけてごみの量が増える。とりわけ今年は自宅で過ごす人が多く、年末の大掃除は「大がかり」かつ「念入り」になることで、その量はかなりのものになるのではと予想しています」(岡山県30代男性)

「医療現場のひっ迫で感染者が自宅待機するケースも増えていますが、各家庭から出された大量のごみ袋を前にすれば、感染リスクをいちいち気にしている時間もない。なので、分別や指定された時間までのごみ出しなど、是非みなさんに協力してほしい」(神奈川県30代男性)

彼らが目に見えぬコロナの感染リスクを少しでも回避するには、「ごみを出す側」の協力がどうしても必要になる。

前回までと重複する部分もあるかもしれないが、年末のごみ出しや分別に対して、収集員たちから出た要望を再度まとめてみた。

1.ごみ袋は二重にしてしっかり結んでほしい

第3波によってコロナ感染者が増加し、自宅待機をしている人たちも多い中、彼らにとってごみ袋ひとつひとつがリスクだ。

「しっかりと結ばれていないごみ袋は、持った時にほどけて中身が散乱する。片付けるのはもちろん作業員なので、固く結んで捨ててほしい」(和歌山県30代男性)

「マスクや鼻をかんだティッシュも袋にねじ込まず、二重袋にして捨ててほしい」(栃木県30代女性)

パッカー車(ごみ収集車)の投入口にあるプレス板や回転板にごみ袋が挟まった場合、その圧力で袋が破裂し、中身が作業員に向かって飛び散ることがある。

「紙パック式掃除機のパックなど、ホコリや舞い散りそうなものは袋を何重かにして、かつ、空気を抜いてもらえたら、積み込み時に飛散しにくくなります」(大阪府40代男性)

2.水気は十分切ってほしい

水分を含んだごみ袋は、前出の「袋の破裂」が起きると作業員が汁を浴びることになる。服や顔にかかれば、1日中臭いが取れない。

さらに水が切られていない45Lのごみ袋は、彼らにとっては「腰」を痛める爆弾と化す。

「ごみ袋はひとつひとつ重さが違ううえ、持ってみないとどのくらい重いのか分かりません。水の切られていない生ごみなどが詰め込まれていると、見た目以上に重いことがある。私たちが拾うごみ袋は1つや2つではないため、こうした重いごみに遭遇するたびに腰に負担がかかります」(神奈川県40代男性)

3.瓶・缶・ペットボトルはゆすいでほしい

写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

今年は感染リスクを避けるために、忘年会やクリスマスパーティを家で開く人も多いだろう。そうなると多く出るのが「缶」や「瓶」、「ペットボトル」だ。

これら家から出た瓶や缶は軽くでいいのでゆすいでほしいという。

「お酒の空き瓶や空き缶に中身が残っていると、朝からアルコールの匂いを嗅ぐことになるので結構つらい。何より、直接口に付けて飲むことの多い缶やペットボトルは、地域によってはごみ袋に入れず、むき出しのままダストボックスに捨てるところもあるため、感染リスクも高まり怖いんです」(岡山県30代男性)

4.分別のルールやごみ出しの時間を守ってほしい

分別がされていない「違反ごみ」には、収集員がひとつひとつにシールを貼っていかねばならない。

「そのシールを貼る作業も時間ロスの1つ」(神奈川県40代男性)

「年末年始や連休はごみが増えるのは仕方がないです。ただしルールは守ってほしい。もう一度、お住いの自治体のゴミ出しルールを確認してほしいです。冊子で配布されていたり(役所へ行けばもらえます)ホームページでも簡単に確認できるので、是非」(栃木県30代女性)

なによりごみの不分別は、我々が思っている以上に現場に危険が生じる。

「めちゃくちゃ重たいごみ袋をパッカー車に入れる際、ふとももで蹴り上げて入れることがあるんですが、可燃ごみの中にカミソリが入ってて血だらけになったことがあり、色々凹んだ」(静岡県30代男性)

年末、増えると考えられるのが「ガスボンベ」だ。寒さが増していく中、家族で鍋などを囲む機会も増えるかもしれない。

「ガスボンベの分別方法は、地域によってまちまち。必ず各自治体のルールを守って捨ててください。分別されずに混入したガスボンベは、車内で圧迫されると破裂し、火災が起きます」(青森県40代男性)

5.危険なごみは知らせてほしい

半透明のごみ袋は、一見中身が確認できそうなのだが、忙しい収集員に中身をひとつひとつじっくり確認している暇はない。

「割れたガラスがごみ袋に入っていて知らずに掴んで大怪我をした人もいました」(京都府40代男性)

「『いつもお疲れ様です』という貼り紙はメンタル的に大変支えられるので非常に嬉しいですが、こうした励ましの言葉以上に正直嬉しく、身体の保護に繋がるのは『刃物あり』『串注意』など、危険を知らせてくれる貼り紙です」(千葉県20代男性)

中でも、ごみ収集員の声で毎度多く聞くのが「串」だ。

「袋に入れる前に新聞紙などでくるみ、『串が入っています』といったメモを張り付けて捨ててほしい」とする意見は、今回聞いたごみ収集員の約半数が挙げた。

また、この季節ならではの危険ごみとして挙げられたのが「カニ」だ。

「まあ、カニは『カニが入っています』と知らせる必要はないですが、足の先がとがっているので、しっかり切り落とすか、紙や布にくるんで捨ててほしい。ごみ袋を貫いて飛び出したカニの足で、自分の足を怪我することになる」(岡山県30代男性)

なんでもワンクリックでモノが買える時代。その「買い物」という行為には、「商品を得る権利」だけでなく、「出たごみを処分する責任」が伴うことを忘れてはならない。

日本の「静脈」を走る収集員。彼らが無事に年を越せることを切に願う。

 

 

※過去の「ごみ収集員」記事はこちら

1.「日本人はマナーがいいなんて嘘」ごみ収集員が対峙する日本の違反ごみ

https://news.yahoo.co.jp/byline/hashimotoaiki/20200923-00199596/ 

2.「さっきのごみ、大丈夫だったかな…」マスクがねじ込まれた袋にごみ収集員が思うこと

https://news.yahoo.co.jp/byline/hashimotoaiki/20201021-00203829/

 

 

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フリーライター

フリーライター。大阪府生まれ。元工場経営者、トラックドライバー、日本語教師。ブルーカラーの労働環境、災害対策、文化差異、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆・講演などを行っている。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)。メディア研究

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