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寒ウナギ食っている場合か? 絶滅危惧種を食べたがる日本人

田中淳夫森林ジャーナリスト
冬でもスーパーの店頭にはウナギが大量に並んでいる。

先日、テレビで「冬の土用の丑の日にウナギ!」という話題を取り上げていた。

ウナギと言えば「土用の丑の日」だが、通常は夏(7月)を指す。しかし土用の丑の日は年に4回ある。そしてウナギは、本当は冬が美味いのだとか。そこで産地のほか専門店やスーパーマーケットなどウナギ業界が「冬の土用の丑の日」に「寒ウナギ」を食べよう、とキャンペーンを張っているということだった。

なんだか嬉しそうに紹介しているテレビのアナウンサーを見ていて腹が立ってきた。本当にウナギの需要拡大がよいことか?

ニホンウナギは2013年に環境省レッドリスト、そして2014年にIUCNレッドリストの絶滅危惧種に選定された。だから昨年の夏(の土用の丑の日)の前は、ニホンウナギが絶滅危惧種に指定されたことをあんなに騒いだではないか。

そのニュースの際も、「ウナギが食べられなくなる」ことばかりを取り上げて報道するケースが多かったが、絶滅危惧種に指定されるほど減少していることに対する配慮はほとんど見られなかった。今回の「寒ウナギ」の宣伝も、どこからウナギを調達するのだろう。絶滅するまで根こそぎ売る! とでも考えているのだろうか。

実際、養殖用のウナギの稚魚(シラスウナギ)の漁獲は激減している。日本国内での漁獲量は1960年代には200トン以上獲れていたが漸減傾向は続き、2012年は1,5トンにまで落ち込んだのだ。13年は少しもどって5トン、14年は15トンほどになったが、危機的状況は変わらない。

シラスウナギの漁獲が減るとともに、ウナギの値段は跳ね上がる。そこで日本は海外からウナギを輸入し始めた。

まず1990年代にヨーロッパウナギの稚魚を中国に輸入して養殖し、それを日本へ輸出するルートができた。しかしヨーロッパでもシラスウナギが資源が激減し、2008年にIUCNレッドリストでも絶滅危惧種に指定された。域外への輸出は厳しく規制されている。にもかかわらず、違法な取引は続いている。先日は、ブルガリアの税関で中国人の手荷物からヨーロッパウナギの稚魚200万匹が押収されたそうだ。おそらく養殖して日本に輸出するはずだったのだろう。

そこで次は、アフリカ産のアンギラ種や太平洋・インド洋産のビカーラ種のシラスウナギを輸入しようという動きがある。しかし、決して潤沢に生息しているわけではない。世界中の資源を枯渇させてでも食べたいというのは、極めて無責任で悪辣だ。これはウナギという魚の問題に矮小化するのではなく、地球環境全体の問題である。

考えてみれば、2010年は国際生物多様性年だった。この年、名古屋でCOP10と呼ばれ生物多様性条約締結国会議が開かれ、愛知ターゲットや名古屋議定書が採択された。「SATOYAMAイニシアティブ」という言葉も登場し、日本の里山をモデルにして人と自然の共生を描こうと訴えられた。

多様な生物は、それ自体が遺伝資源であり、地球上の生態系を維持していく重要なファクターである。そのことを強調していたはずだ。

ようやく日本にも生物多様性を守る意義が広まるか、と思ったのだが、翌年の東日本大震災以降、生物多様性という言葉はすっかり聞かれなくなってしまった。今では地球温暖化問題以上に影が薄い。

日本列島は、地球上のホットスポットと言われるほど生物多様性の高い地域である。しかし、肝心の日本人がその多様な自然を大切にしようとしないようでは将来は厳しい。

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森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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