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アフガニスタン:アル=カーイダ諸派がターリバーンの勝利を祝福する

髙岡豊中東の専門家(こぶた総合研究所代表)
(写真:ロイター/アフロ)

 ターリバーンが政権を奪取した後のアフガンについては、同地が「テロの温床」に戻ることが心配されている。各国がアフガンに大軍を派遣して再度制圧するという選択肢がない中、各国がアフガンの「テロの温床化」を防ぐためには、まず自国から様々なテロ組織に供給されている資源を絶つしか方法はない。ターリバーンにとっては、もし同派が「国際的に承認された」政体として「アフガニスタン・イスラーム首長国」運営したいのならば、少なくともドーハ合意などで謳った「アフガン領を他者を脅かすために使わせない」との誓約を遵守しなくてはならない。その一方で、ターリバーンはアル=カーイダとそのフランチャイズの諸派から忠誠の表明を受けており、そうである以上、なにがしかの形でアル=カーイダと連帯し続けなくてはならない立場にある。諸外国や国際機関が、ターリバーンの出方をうかがってアフガンの外貨準備を凍結したり、アフガンでの活動やアフガン向けの資金の拠出を停止したりする中、アル=カーイダとの関係が世間の注目を集める事態は、ターリバーンにとっては面倒なことに違いない。

 そんな雰囲気を察する知性も思考力もないアル=カーイダ諸派は、ターリバーンの「勝利」を祝う祝辞を発表し始めた。アル=カーイダのフランチャイズの代表格ともいえる「アラビア半島のアル=カーイダ」は、「信徒たちの長」であるアーハンザーダ師(注:ターリバーンの指導者)とイスラーム首長国に祝辞を献じ、ジハードこそが十字軍を打ち破り、イスラーム統治を実現する唯一の道であるとの決意を新たにした。「信徒たちの長」とは歴史的にはカリフの別の呼び名でもあり、この点から「アラビア半島のアル=カーイダ」が現在もターリバーンとの忠誠⇔被忠誠関係をしっかり認識していることがわかる。また、シリアからも同地におけるアル=カーイダである「シャーム解放機構(旧称:「ヌスラ戦線」)」がターリバーンに祝辞を献じたが、こちらは表向きはアル=カーイダから離脱したことになっているので祝辞はあくまで占領の排除、ジハードによって権利と尊厳・シャリーア統治を回復することに重点を置く表現ぶりである。その上で、「シャーム解放機構」は、「国際社会」に対しターリバーンの勝利を教訓とし、自由な諸人民に敵対する者の側に立たないようにと主張した。もっとも、「シャーム解放機構」はこの声明において、同派の言う「シリア革命」を支援している主体がアフガンでターリバーンが打ち破った「占領」と同一のアメリカを筆頭とする西側諸国である事実にまさに「知らんぷり」を決め込んだ。

 これらの他にも、「トルキスタン・イスラーム党」など様々なイスラーム過激派諸派がターリバーンの勝利を祝う声明類を発信している。今後も「アル=カーイダ総司令部」、「インド亜大陸のアル=カーイダ」、「イスラーム的マグリブのアル=カーイダ」、「イスラームとムスリム支援団」、「シャバーブ運動」などから祝辞が寄せられるだろうが、アル=カーイダ諸派からの祝辞の内容は一定の「書式」の範囲内に収斂していくことだろう。ターリバーンとしては、これにより自らがイスラーム過激派業界のトップに返り咲くことが確認できるうれしい祝辞かもしれないが、半面、同派によるアフガン支配に国際的な承認や支援を得られる可能性を限りなく下げてくれる行為でもあるので、複雑な気持ちで祝辞を眺めることとなるだろう。

 アル=カーイダ諸派に対し、ターリバーンを愛国主義のいんちきと罵倒し、週刊の機関誌の論説でも「ターリバーンの下でのアフガンはイスラーム的にはならない」とこき下ろしたことがある「イスラーム国」は、この事態をどう論評するだろうか?また、ターリバーンの政権奪取により、イスラーム過激派の支持者やファンの世論の風向きがターリバーンやアル=カーイダの有利に変わる可能性はどのくらいだろうか?観察上の興味は尽きないが、イスラーム過激派がアフガン情勢を「変に解釈」して、あらぬ行動を引き起こさないことを祈るのみである。

中東の専門家(こぶた総合研究所代表)

新潟県出身。早稲田大学教育学部 卒(1998年)、上智大学で博士号(地域研究)取得(2011年)。著書に『現代シリアの部族と政治・社会 : ユーフラテス河沿岸地域・ジャジーラ地域の部族の政治・社会的役割分析』三元社、『「イスラーム国」がわかる45のキーワード』明石書店、『「テロとの戦い」との闘い あるいはイスラーム過激派の変貌』東京外国語大学出版会、『シリア紛争と民兵』晃洋書房など。

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