Yahoo!ニュース

【どうしても鎮痛剤が必要なランナーに】特に暑い日は注意!ランニングの際は慎重になって欲しい鎮痛剤選び

たくや/ランナー医師、ランナー、ランニングコーチ

マラソンや超耐久走において、NSAIDSという鎮痛剤を服用した時の有害事象を調べた総説論文が今年2月に公開されました。
NSAIDSというのは鎮痛剤の種類のことで、国内の商品ではロキソニンやイブなどがこれにあたります。国内でも鎮痛剤を服用するランナーの多くは、このNSAIDSを使用しているのではないでしょうか。2010年のドイツのボンマラソンの調査では、ランナーの約半数がレース前に鎮痛剤を使用し、その鎮痛剤の90%以上がNSAIDSであったとのことです。では冒頭で述べた総説論文では、結果としてランニングにおけるNSAIDSの使用が本当に有害だったのでしょうか。

やはりNSAIDSは有害である可能性がある

その総説論文で調べられたのは1987年から2020年までの30本の文献で、主にアメリカ(15本)とイギリスの研究(7本)で、フルマラソン(8本)と160kmレース(8本)についてのものが多かったようです。

NSAIDSの有害事象ごとの影響:Pannone E et al.BMJ Open Sport Exerc Med. 2024より
NSAIDSの有害事象ごとの影響:Pannone E et al.BMJ Open Sport Exerc Med. 2024より

やはりNSAIDSは、ランニングにおける有害事象に関与する可能性が高いようです。電解質異常とは多くが低ナトリウム血症のことで、特に暑い日は倦怠感や吐き気、こむら返りの原因になるかもしれません。暑い日はNSAIDSは厳禁です!
酸化ストレスとは、細胞や組織障害を引き起こす活性酸素が蓄積することで、筋肉痛や疲労感、免疫の低下を引き起こします。一見すると有害事象がなくレースが終了したように見えても、その後の疲労や風邪の引きやすさなどに関係しているわけです。

特にイブプロフェン。ということはロキソニンもダメ?

先述した2010年のドイツのボンマラソンの調査では、鎮痛剤ごとの調査もされています。

ボンマラソンにおける鎮痛剤ごとの有害事象の調査:Küster M et al.BMJ Open.2013
ボンマラソンにおける鎮痛剤ごとの有害事象の調査:Küster M et al.BMJ Open.2013

ここでは、特にイブプロフェンとアスピリンの有害事象が多いことが分かります。ロキソニンは欧米ではユーザーがほとんどいないので記載はありませんが、イブプロフェンと同じプロピオン酸系のNSAIDSですので、やはりリスクは高いのではないでしょうか。

ここでの高用量というのは、イブプロフェンで800mg以上(日本の一回使用量の4倍)、アスピリンで750mg(日本の一回使用量の2.3倍)です。特に飲みすぎは危ないということです。

一方、比較的安全なアセトアミノフェン

ですが鎮痛剤のなかのアセトアミノフェンは、ランニングにおける有害事象が少ないとされています。例として2020年のオランダからの文献を挙げます。それはランニングにおける急性腎障害のバイオマーカーとなるuNGALを調べたものです。

左)10kmとハーフマラソン前後のuNGALの変化、右)鎮痛剤を服用してからのランニング前後のuNGALの変化:Semen KO et al.Scand J Med Sci Sports.2020
左)10kmとハーフマラソン前後のuNGALの変化、右)鎮痛剤を服用してからのランニング前後のuNGALの変化:Semen KO et al.Scand J Med Sci Sports.2020

左のグラフにあるように、特に距離が長いほどゴール後のuNGALが高くなるようです。そして右グラフにあるように、ランニングの前にNSIADSを服用するとゴール後にuNGALが上昇しますが、アセトアミノフェンでは上昇しませんでした。10kmが35人、ハーフが45人と少人数の研究ですが、NSAIDSより有害事象が少ない可能性があります。また、別の研究ですがマラソン後の筋痛に使用すると筋痛の軽減のみならず睡眠にも良い影響をもたらし、しかも有害事象はプラセボと変わらなかったとの報告もあります。
そのような事から国際スポーツ栄養学会の「シングルステージのウルトラマラソンに対する提言」では、「NSAIDsより有害事象は少ないが、疼痛が軽減するので痛めても無理して故障を悪化させる可能性がある」と評価されています。

アセトアミノフェンはパフォーマンスがアップする?との文献も?

疼痛・苦痛を軽減することで、パフォーマンスがアップする?という文献もあります。2017年のギリシャの文献で、20人の市民ランナー(平均29歳:キロ4分10秒程度)が3000mTTをアセトアミノフェンを注射して行ったところ、14秒近く速くなったというものがあります。ですが2022年のアメリカの文献で、11人の大学生ランナー(平均19歳:キロ3分25秒程度)が3000mのTTをアセトアミノフェンの内服をして行ったところ、速くならなかったというものもあります。

いずれも1500mgと多い量でしたが、少なくともネガティブな文献はありません。なお、自転車の研究では20分以上で効果が認められる傾向にあり、そういう意味で5km以上のランニングの方が効果が見込める可能性が高いと思われます。

また解熱効果をもくろんで、暑熱下でのランニングをしたものもあります。2013年のオーストリアの文献で、500mgという少量のアセトアミノフェンを投与して20分のランニングをしたところ、体温の上昇は抑えたがパフォーマンスに繋がらなかったという報告や、2013年のイギリスの文献で、疲労を感じるまでの時間や体温の上昇の時間を延長し、パフォーマンスを改善させる可能性があるとする報告もあります。たまたま大会が暑い日となった場合、効果を発揮するかもしれません。

まとめ

「薬を飲んでマラソンを走ることは、決しておすすめしません」と多くの医療関係者が発信しています。ですが鎮痛剤、特にNSAIDSを飲んで走るランナーはたくさんいます。膝を痛めているから、終盤で脚の痛みが出た時のために、そんな思いから服用してしまうようです。ですが突然の暑い日や、胃腸の弱いランナーはNSAIDSの服用を控えて下さい。飲んだら痛みには良いかもしれませんが、結果的に早く疲弊したり、大きな合併症を生じるかもしれません。おすすめはしませんが、どうしても飲むのなら有害事象が少なくて、またパフォーマンスにも寄与するかもしれないアセトアミノフェンにしてみてはいかがでしょうか。

医師、ランナー、ランニングコーチ

41歳まで某大学病院の消化器肝臓内科で勤務、現在は都内の一般病院で内科医をしています。また、中学でランニングを始めて走歴は約40年、その経験を活かしてランニングステーションでコーチもしています。総合内科専門医・消化器病専門医・肝臓専門医・抗加齢医学会専門医、JMJA公認ランニングドクター他、資格は多数。フルマラソンの完走は67回でベストタイムは2時間50分31秒(2019湘南)。ランナーからよく聞かれることやランナーに伝えたい事を、科学的なエビデンスと経験をもとに記事を書いています。

たくや/ランナーの最近の記事