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残酷な恋愛カースト制度「親が見合い結婚だと子の未婚率に影響を及ぼすか?」

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:イメージマート)

かつて結婚のお膳立てがあった

1980年代まで日本は皆婚社会(生涯未婚率が男女とも5%以下)だったのだが、それを実現させてきたのは、結婚の社会的お膳立てシステムであった。

その代表的なものがお見合いであるが、お見合いが減少する中においては、職場によるお膳立てがその代替として機能した。しかし、その職場結婚も今ではセクハラリスクの憂き目にあい、大きく減少している。上司は部下の結婚などの話題に触れてはいけないし、独身の若者とて、同僚をデートなどに誘っただけでセクハラとして糾弾されてしまうリスクがある。とても職場で恋愛しようなどとは思えなくなっている。

これでは婚姻数が減るのは当然なのである。

日本で婚姻数が最大だったのは1972年の年間約110万組だが、2015年にはそれが約64万へと減少した。その減少数は46万組であるが、その数はお見合いと職場結婚が減少した数とぴったり一致する。

要するに、婚姻数の減少とは、この結婚の社会的なお膳立て婚の減少なのである。

逆にいえば、お膳立てがなくても結婚できる層は50年前も今も変わらないということだ(参照→日本の結婚は30年前にはすでに詰んでいた。失われた社会的システム)。

今の未婚者の親はどうだったか?

ところで、現在20代の若者の親は大体50-60代前半あたりの年齢だと思われる。30代であれば60代以上、40代なら70代以上、50代では80代以上ということになると思うが、現在50代の未婚者の親世代である80代が結婚した時代は、仮に25歳で結婚したとして1960年代のどこかで結婚したことになる。

実は、1960年段階では結婚の50%以上がお見合い結婚だった。お見合い結婚比率が半数を割るのは1965年頃である。つまり、現在50代の未婚者の親の半分はお見合い結婚だったのである。

同様に各年代未婚者の親のお見合い比率は、今の40代未婚者の親は3割、40代は2割、20代は1割がお見合い結婚ということになる。

親の結婚形態の子への影響

そこで、親がお見合い結婚だった場合に、その子の未婚率に影響があったのかどうかを一都三県の未婚者を対象にした調査で検証してみる。

結果は以下の通りである。

男性の場合、確実に見合い結婚の息子の方が未婚率が高くなっている。

生涯未婚率で比べてみると、親が恋愛結婚の場合は23%であり、2020年の国勢調査の全国値28.3%よりも5%ポイントも低いのに対し、親が見合い結婚の場合は生涯未婚率は40%となり、大きな差が開いている。

もちろん、この調査対象は首都圏在住者なので多少未婚率は高くなるが、だとしても、親の結婚形態の違いで17%ポイントも差が開くというのは有意な差であると言えるだろう。

つまり、親の恋愛力は子に引き継がれるし、恋愛強者の子は恋愛強者となり、恋愛弱者の子は恋愛弱者という「恋愛カースト制」があるということである。言い換えれば、恋愛カーストの下位にいた親が結婚できたのは、お見合いや職場などのお膳立てがあったからということも言える。

一方で、女性は、親が見合い結婚だろうと、恋愛結婚だろうと、あまりその娘の未婚率に影響はほぼない。恋愛カースト制が適用されるのは男性だけということだ。

写真:イメージマート

お膳立てなき時代の難婚化

恋愛カースト上位の恋愛強者の男たちは、お膳立てなどなくても自力で相手を見つけ、勝手に恋愛し、結婚していく。戦前ですら、3割はお見合いではなく恋愛結婚をしていた。

しかし、そうではないカースト下位の恋愛弱者にとって、このお膳立てが消滅したダメージは想像以上に大きい。

だからといって、マッチングアプリに手を出したところで、あれこそ「恋愛力をシビアに評価される残酷なツール」であり、恋愛弱者にはまったく恩恵はない。恩恵がないどころかかえって自尊心を削られるだけだろう。

恋愛セミナーや恋愛コンサルなどに騙されて無駄なお金をつぎこんだ被害者も多いかもしれない。最後の砦といわれている結婚相談所でも、データ的には登録者の1割が成婚すれば御の字の世界である。それも、恋愛力以上に年収などの経済力が大きく問われる。

お膳立てなき時代の恋愛カースト下位の結婚はなかなかにハードルが高いのだ。

視点の切り替え

だからこそ早々に結婚に見切りをつけて「選択的非婚」として、好きな趣味に没頭し、楽しく生きていく決断をする未婚男子も多くなっている

しかし、人生とは皮肉というか、不思議なもので、「結婚すれば幸せになれるはず」という呪縛から解放されて、「一人でも楽しく生きる」と思って行動し、充実な毎日を過ごしていると、縁が勝手に寄ってくる場合がある。なぜなら、結婚したら幸せになるのではなく、幸せそうな人は誰かに好かれるものだからだ。

写真:イメージマート

恋愛強者3割と恋愛弱者7割という恋愛カーストは存在するし、それはいかんともし難いものだが、幸福を感じられるかどうかに恋愛力は関係ない。

泳げない人が無理に泳いでも溺れるだけである。泳げるように練習するという視点もあるが、泳ぐことで向こう岸に行こうとせず、船を造る、橋をかけるという視点の切り替えも必要ではないだろうか。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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