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薬物で妻を昏睡状態にさせた夫、そしてレイプした51人の男性たちの裁判(3) 妻の証言「完璧な父親」

プラド夏樹パリ在住ライター
ペリコー事件に絡めてDFC犯罪(本文参照)について報道するユマニテ紙電子版

今、フランスで注目されている裁判がある。ヴォークリューズ県の犯罪法廷で、50年来結婚しているカップルの夫が妻に大量な睡眠薬を与えて眠らせ、チャットサイトで募った男性72人あまりに9年間にわたってレイプさせ、その犯行現場を録画していたという事件の裁判である。アヴィニョン市で9月2日に始まり12月20日まで続く予定だ。

「私に残っているのはこの社会を変える、その決意だけ」

フランスの社会を連日動揺させているこの裁判も1ヶ月半を過ぎて中盤に差しかかっており、これまでに元夫で罪状をほぼ認めている主犯者ドミニック・ペリコー氏、そして、ジゼルさんに「性的な行為を加えた」ことは認めるが「レイプをするつもりではなかった」と主張する数人の共犯者の供述があった。

それに対して、10月23日、被害者のジゼルさん(71歳)が証言した。

ジゼルさんは犯行を組織した元夫、そして自分をレイプした共犯者の男性たちを前に、落ち着いた声で語った。「私は女性として完全に壊れてしまいました。これからどのように自分を立て直していけば良いのかわかりません。精神科医に診てもらっていますが、それでも数年はかかるでしょう」。そして、9月から連日続いている裁判の間にどれだけ辛い思いをしたかについても語った。

自分がレイプされる場面が公開法廷で映写され、ズームアップされ、議論され、加害者の一人は自分の子どもくらいの年頃であることを知り、「レイプするんだったら57歳のババアなんて選ばねえよ」(被害を受けた時、ジゼルさんは実際には67歳だった)という供述も聞いた1ヶ月半だったからだ。

それでも、「私はこの裁判が公開することを選びました。初日から今日までこの決断を後悔したことはありません。すべての女性が、今後は『ジゼルがやったのだから、私にできないことはない』とレイプの被害を受けたことを堂々と言うことができるように。もはや、怒りや憎しみを表明するつもりはありません。私に残っているのはこの社会を変える、その決意だけです」と語った。

「私は見誤っていたのでしょうか?」

そのうえで、元夫と一緒に過ごした時期について「幸せだった」と語った。「今日、私はあまりにも辛く、彼を見る気にもなりませんが、今日はあえて彼をドミニックと呼ぶことにします。私たちは50年一緒に暮らし、3人の子どもがあり、7人の孫がいます。あなたは私にとって優しく、思いやりがある夫で、私はあなたのことを信頼していました。」

「一緒に笑ったこともあったし、彼に健康や仕事上の問題があれば支えました。私の健康上の問題があった10年間(筆者注:レイプを受けた9年間のこと)、彼は神経科や婦人科への診察に付き添ってくれて、私は何度も、『あなたが一緒にいてくれて、本当に幸せ』と彼に言いました。私の友人たちも彼を大好きでした。でも私には、彼の本当の姿がわかっていなかったのです。あんなにも完璧だった元夫がですよ、なんだってこんな下劣な犯行を起こしたのでしょうか? どうしてここまで私を裏切ることができたのか? どうしてこんなにも多くの男たちを私たちの寝室に招き入れることができたのか?私にはわかりません。どこかで見誤っていたのでしょう……私は、この愛情深い父親だったこの人と死ぬまで一緒に過ごすつもりでいたのですから」

「どうせこの女は馬鹿だからわかりゃしないよ」

しかし、カップルがそれほどうまくいっていたかどうかは疑問に思える証言もあった。

ジゼルさんは軍人の家庭出身で「しっかりした価値観と愛情をもって育てられ」、趣味は文学とクラシック音楽通。ペリコー氏とは趣味が合わなかったのか、「一回だけ一緒に行ったオペラで、夫は退屈しきっていました」と思い出を語った。また、ジゼルさんが育った環境とは反対に、同氏は軋轢の多い家庭で育ち、学校では落ちこぼれ、医師になった長兄に病的な嫉妬心を抱き、妻の家族のコネで就職した。義理の息子や家族に金銭を借り、「ジゼルには内緒にしておいてくれ」と頼んでいたこともあった。

また、ペリコー氏がレイプの現場を撮影した映像と音声が法廷で流されたが、それは、「いい人でした。完璧な父親でした」というジゼルさんの証言からはかけ離れたものだった。尻込みする共犯者に「やっちゃえよ。どうせこの女は馬鹿だからわかりゃしないよ」とけしかけ、「このアホ女、気取りやがって」といった侮辱的な言葉が主犯者と共犯者の間で交わされるヒソヒソ声の会話の中にあった。ジゼルさんは、「私はあなたをいつも光のあたる場所に、より高いところに引き上げようと努力しました。でも、あなたは自分で選んで、人間として最も卑劣なことをすることを選んだのです」と、もはや元夫を一瞥することもなく、裁判長をまっすぐ見て言った。

「私は何にも依存したことがありません。特にペリコー氏には」

しかし、カップル関係が深い闇に包まれていることはままあるものだ。ジゼルさんは、「私が元夫に支配されていたと言う人々がいます。でも、私は薬に支配されていたのであって、ペリコー氏に支配されていたのではありません。私は何にもまして、ペリコー氏にだけは依存したことがありません」と言い切る自由な女性でもある。結局のところ、妻を薬で支配し、何十人もの男に妻を引き渡してレイプさせ、「数種の変質的嗜好をもっている」と精神鑑定された人物であるペリコー氏は、薬を使えさえすれば自由な妻を「自分のモノ」にできるだろうという幻想を抱いた実に単純な夫だったのかもしれない。

デートレイプドラッグなどの検査を無償化か

被害者が知らない間に飲み物などにドラッグや薬剤を混入してなんらかの加害に及ぶという犯罪がdrug facilitated crimes(以下DFC犯罪)だ。日本ではその一部がデートレイプドラッグという言葉で知られているかもしれない。フランスでは、これまで、あまりメディアでテーマとして取り上げられることもなかった犯罪だが、この事件をきっかけにフランスでも多くの報道がされるようになった。ANSM(国立薬品保障機関)の調べによると2022年この犯罪(1229件)の被害者のうち82%は女性だったが、翌年、その件数は69%も上昇している。DFC犯罪の加害者は被害者の知人であることが多く、63%が性的暴力、次いで盗難、身体的暴力、誘拐、人身売買の被害を受けている。

現在、知らないうちに薬やドラッグを飲まされたかどうかを検査するのに、被害者は1000ユーロ(約16万4000円)をまずは自腹を切って払わなくてはならない。被害届を提出すれば払い戻しを受けることも可能だが、朦朧としている状態で警察へ出向くことも難しいし、D F C犯罪についての知識は警察官の間でも医師の間でもまだ広がっていない。先月10月24日、フランス医師会は政府に向けて迅速にD F C犯罪検査を無償化するように要請した。

パリ在住ライター

慶応大学文学部卒業後、渡仏。在仏30年。共同通信デジタルEYE、駐日欧州連合代表部公式マガジンEUMAGなどに寄稿。単著に「フランス人の性 なぜ#MeTooへの反対が起きたのか」(光文社新書)、共著に「コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿」(光文社新書)、「夫婦別姓 家族と多様性の各国事情」(ちくま新書)など。仕事依頼はnatsuki.prado@gmail.comへお願いします。

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