産経新聞で素敵な動きが起きている
赤木雅子さん提出の音声データを最も的確に伝える記事
まずはこの記事をご覧頂きたい。
【元上司「改竄は佐川氏の判断」の波紋 元近財職員自殺訴訟】
『本省から改竄の指示を受けたとされる元上司の音声データが提出され、迫真性のある証言は関係者に衝撃を与えた。「問題はどこにあったのか」。今後の国の出方に注目が集まる。』
『今後の訴訟の注目点は、改竄経緯をつづった「赤木ファイル」の開示、そして佐川氏が証人出廷するかどうかだ。』
https://www.sankei.com/smp/west/news/201118/wst2011180002-s1.html
まさにその通り。裁判の焦点をずばり突くと同時に、「国の出方」=すなわち「赤木ファイルの開示と佐川氏の証人出廷に応じるかどうかが注目だ」と指摘している。
ここで書かれている「赤木ファイル」とは、森友事件の公文書改ざんを強要され命を絶った財務省近畿財務局の職員、赤木俊夫さんが、誰からどのように改ざんを指示され実際に改ざんしたのか、職場で詳細にまとめていたというファイルだ。赤木俊夫さんの上司だった池田靖氏が、俊夫さんの妻、赤木雅子さんの自宅を訪ねた際に明らかにした。その時の音声データが証拠として裁判所に提出され、弁護側は池田氏が明かしたファイルを「赤木ファイル」と名付け、国に開示を求めている。
この音声データを赤木雅子さんから独自に入手して最初に報じたのはカンテレ(関西テレビ)だった。しかし新聞で音声データをきちんと解説し、意味づけをわかりやすく示したのは、この記事が一番ではないだろうか? 事実上、国に赤木ファイルの開示を、佐川氏に証人出廷を、迫っていると言ってもいい内容だ。
産経記者の「意地」を感じる
そしてさらに注目なのは、この記事を出した新聞だ。この記事は今日18日付の産経WESTというウェブサイトに出ている。署名記事になっているので執筆者もわかる。産経新聞大阪社会部の司法担当記者だ。どこよりもきちんとツボを押さえた解説記事を、まず産経新聞が書いた意味は大きいと思う。
しかも、きょう18日は赤木雅子さんの裁判があったわけではない。この記事に書かれている音声データの提出は10月14日、つまり1か月以上も前のことだ。普通はこの種の記事は何らかのタイミング、つまり裁判で何か大きな動きがある時に合わせて出されることが多い。なぜ何もないこの時期に書いたのか? そこに私は「意地」を感じる。
音声データの意味をねじ曲げる産経抄
産経新聞といえば、10月17日付けの産経抄というコラムが、音声データ提出直後にこの話を取り上げている。その取り上げ方が実にひどかった。
「安倍さんとかから声がかかっていたら正直(国有地を)売るのはやめている」
「少しでも野党から突っ込まれるようなことを消したいということでやりました」
音声の中にこういう発言があることを根拠に、産経抄は次のように結論づけた。
「野党やマスコミは安倍氏夫人の昭恵さんも標的とし、執拗に証人喚問に応じるよう求めた。反省も示さず、いまなお正義の味方面する彼らの鉄面皮が理解できない」
これはいくらなんでもひどいだろう。真相解明を求める赤木雅子さんの裁判を冒涜するものだ。だから私は翌18日、こんな記事をYahoo!ニュースに出した。
【日本語の読めない記者が書いたの? 森友公文書改ざん 音声データ巡る新聞記事のデタラメ】
この記事で、産経抄の「彼らの鉄面皮が理解できない」という言葉に続けてこう書いた。
『…私も理解できません。このコラムを書いた記者の日本語能力が。このコラムを載せた新聞編集長の知性と理性が。』
『このコラム氏は自分の都合のいいところだけ発言を切り取っています。「発言のいいとこ取り」はマスコミの得意技ですが、そういうことをたしなめるのがコラムを任されるベテラン記者のはずなのに、一体どうしたことでしょう。』
この時、私は産経抄の内容を赤木雅子さんに知らせた。すると赤木さんから返事が来た。
「産経さん。大丈夫ですよ、私はちゃんとわかってますから。誰が夫を追い込んだのかを。日曜の朝ゆっくり起きたら、夫が墨をする音と匂いがして。そこにコーヒーの香りがして。そんな日常を私たちから奪い取ったのは野党ではないですよ」
どうしてこんなに気の利いた文章をすっと書けるのだろう? 赤木さんの返事も記事で紹介し、「産経抄の執筆陣にいかがでしょう?」と嫌味を書いた。
https://news.yahoo.co.jp/byline/aizawafuyuki/20201018-00203541/
大阪人よ、東京の圧力に負けるな
この記事では産経抄を手ひどく批判したが、裁判から1か月がたって、次回はまだだいぶ先というこの時点で、この記事を書いた産経の司法記者と、掲載を決めた産経大阪社会部が、記者として、新聞としての「意地」を見せてくれたのではないかと感じる。
東京との間でいろいろ軋轢があるかもしれない。それは私もNHK時代に経験したし、森友捜査の検察内部にもそれがあった。大阪人よ、東京の圧力に負けるな、と声援したい。
産経新聞に取材してほしい赤木雅子さんと、毎日記者の神対応
実は、この産経の記事に気づいて私に連絡してくれたのは、赤木雅子さん本人である。赤木さんはこまめにネット記事を検索しているから、こういう記事に気づくのが早い。私が「これは産経記者の意地を感じます」と伝えると、赤木さんは答えた。
「私、相澤さんに、『産経さんに取材してほしい』ってLINEで伝えましたよね。きのう(17日)ですよ。すごいタイミングでしょ」
そう、確かにそう伝えられた。これにも実は理由がある。
先ほどの私のYahoo!ニュースの記事は、産経抄の前に毎日新聞の記事を取り上げている。音声データの取り上げ方について事実誤認があると指摘したのだが、その記事を書いた毎日新聞大阪社会部の司法記者が、赤木さんと面会しておわびと説明をしてくれたそうだ。赤木さんはその丁寧な対応に感謝し、以前自分のことをコラムに書いてくれた毎日新聞記者の玉木達也さんにもう一度取材してほしいとお願いしたという。するとその記者が玉木さんに伝えてくれて、連絡があった。それがまさにきのう17日だった。
朝日新聞と読売新聞にはすでに個別に取材を受けたことがある。毎日新聞の取材を受ければ、あとは産経新聞だけだ、という思いで赤木さんは私にLINEをくれたのである。素敵な偶然が重なっている。
産経新聞大阪社会部の皆さま、特に大阪司法記者クラブの皆さま、ぜひ赤木雅子さんを取材してあげてください。東京の圧力に負けずに、大阪人の意地と新聞人の気概を見せて下さい。よろしくお願い致します。
【執筆・相澤冬樹】