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YouTuberなど有名人が迷惑行為された飲食店に「応援訪問」 3つの違和感を抱くワケ

東龍グルメジャーナリスト
(写真:イメージマート)

犯罪まがいの迷惑行為

回転寿司をはじめとした飲食店で、犯罪まがいの迷惑行為が行われ、大きな社会問題となりました。飲食店の根幹をなす食品衛生が毀損されたということで、外食マインドが悪化したり、株価が下がったりと、大きな打撃を与えたのは記憶に新しいところ。

被害のあった飲食店が被害届を提出し、行為者も逮捕されているので、犯罪まがいの迷惑行為に対して抑止力が働くことでしょう。

こういった動きと並行して、犯罪まがいの迷惑行為を受けた飲食店のファンや応援したいと思った人が、飲食店を訪れてYouTubeやTwitterなどのSNSに投稿して、エールを送っています。

YouTuberや芸能人など、少なからぬ有名人も訪れて、その様子を報告していました。飲食店を応援するのは基本的によいことですが、このような応援訪問に違和感をもっています。その理由を説明しましょう。

その時しか訪れない

応援訪問では、被害に遭った飲食店を改めて訪れてみて「久しぶりに来てみたら、やはりおいしかった」と発信することがほとんどです。中にはこれまで訪れたことがなく「初めて訪れてみたけれど、よい店だった」と発信するケースもあります。

飲食店に訪れることで、売上が増えるのはよいことです。ただ、渦中に一度だけ訪れるだけでは、飲食店は経営を続けていくことはできません。飲食店が経営不振になり、閉店をアナウンスすることがあります。潰れることが決まってから訪問し、「よい店なのにもったいない」「潰れないでもらいたい」「これからも続けてほしい」といった“美談風”の悲しみの声が聞かれることがありますが、これと同じように時既に遅しという感じも受けます。

こういった問題が起きる前から訪れており、そして、この問題が落ち着いた後も訪れるようにしてあげれば、なおよいでしょう。これまで訪問しなかったのは、過去のことなので仕方ありません。本当にその飲食店の未来を憂いており、よい店だと思って発信したのであれば、この一度だけではなく、この後もできるだけ訪問してもらいたいです。

問題が矮小化される

エンターテインメント化することによって、問題の深刻さが矮小化されることにも危惧を覚えます。訪れて「初めて来てみたら、おいしかった」「久しぶりに食べたけれど、よかった」と賑やかしに発信するだけでは、何も解決しません。

有名人が発信することによって宣伝になり、販促になるのはよいことです。ただ、発信力のある方であればあるほど、飲食店の根本を揺るがす、食品衛生の毀損という問題についても、しっかりと問題を提起していただけたらと思います。

自分が主役になっている

話題になっている飲食店へ訪れることによって、自分自身が注目を浴びようとしているケースもあります。食系のインフルエンサーの中にも、「有名店に訪れている自分」「予約困難店で食べている自分」「スターシェフと親しくしている自分」といったように、自分を輝かせるためのスパイスとして、飲食店を利用することが少なくありません。目的が、飲食店やスタッフ、料理や飲み物、空間やサービスの素晴らしさを紹介することではなく、自分自身を宣伝することになっているのです。

これと同じように、犯罪まがいの迷惑行為が行われた世論の関心が高い飲食店へ訪れて、注目を浴びようとしている有名人がいるのも違和感のひとつ。本当にその飲食店のことを考えているのであれば、自分が目立たなくても、その飲食店のよさを伝えてもらいたいです。飲食店と発信者のどちらが主役になっているのか、受け手はすぐにわかります。

自分がどう映るかや視聴者やフォロワーにどう思われるかだけを考えるのではなく、どういった料理があるのか、どのようなこだわりをもっているのか、他店と何が違うのかなど、飲食店のことをもっと伝えていただきたいです。

迷惑行為は完全になくならない

犯罪まがいの迷惑行為がなくなることが、最もよいに違いありません。行為者が逮捕されたことによって、抑止力が働いているものの、それでもあまり深く受け止めない人もいるので、完全になくなることは難しいと思います。

その時にまた有名人による飲食店への応援訪問があることでしょう。飲食店に訪れるのは嬉しいですが、おざなりの訪問ではなく、できるだけ訪れ、問題についても提起し、自分よりも飲食店が主役になるように発信してもらえると幸いです。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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