オイルマネーに依存するノルウェーは「恥だ、バカだ」 ムンク美術館とコラボした人気作家が選挙直前に発言
「米国ではトランプが炭鉱を再開させようとし、ノルウェーではトップの政治家たちが新たな油田開発を進めようとしています。これは政治家にとっての恥であり、ノルウェーにとっての恥」。
「世界で最も裕福な国のひとつであるノルウェーが、新たな油田を採掘しようとしている動機は、もっとお金が欲しいから」。
「これは、貪欲です。これは、卑怯です。なによりも、バカです」。
2日、首都オスロでは、環境・気候変動対策デモ行進が開催された。冒頭の言葉を国会前でスピーチしたのは、カール・オーヴェ・クナウスゴール(Karl Ove Knausgaard)氏。欧米でベストセラー作家として知られるノルウェー人で、ムンク美術館で開催中の新展覧会でもキュレーターを務めた。
名前を聞いたことがない人はノルウェーではいないのでは、というほどの有名な作家であり、大きな影響力を持つ。大政党が気候変動対策に消極的なことに我慢ができなくなり、行進に参加した。
気候変動対策に熱心なことで知られる議員たちも先頭を歩いたが、国を代表する大物作家が最も大きな注目を浴びた。
詩を読むかのように、静かな声で語りかけたクナウスゴール氏の言葉は、多くのテレビ局や新聞社により報道された。
私たちひとりひとりには社会制度を変える力があり、「政治家が下を向いているからといって、私たちも下を向くことはありません。多くの人が北海油田開発に反対する党に投票すれば、止めることができるのです。気候変動や環境破壊の深刻さを理解する党に多くの人が投票すれば、政治の方向は変わります。ナイーヴな発言に聞こえるかもしれませんが、真実です」。
ノルウェーのしていることは、自分勝手な人間らしさを象徴している。世界で最も裕福な国のひとつに住み、オイルマネーがある我々には責任があると話した。
石油・天然ガス生産に依存する母国に対して、「恥だ」と言い放った同氏の言葉は大きく報道された(参照:NRK、VG、Aftenposten)。
11日に国政選挙を控えるノルウェー。520万人という人口が少ない国だが、ノルウェー国営放送局NRKの報道によると、91万人もの人々がどこの党に投票するかまだ決めていないそうだ。
ノルウェーでは右派・左派問わず、大政党は揃って油田開発を続けようとしている。一方、石油採掘は気候変動の原因になっており、再生可能エネルギーなどの開発に資金を投じるべきだと小政党は反対している。
クナウスゴール氏や環境派が推奨する「気候変動を気にかける党に投票を」というのは、話題になりやすい「緑の環境党」だけを指しているのではない。ノルウェーでは、自由党、キリスト教民主党、左派社会党も、政策に違いはあれ、「環境党」とされている。
環境・気候変動対策デモ行進には、主催者側の発表ではおよそ2500人以上が参加。
主催した「未来は私たちの手に」団体のアーニャ・リーセ・バッケン代表は取材でこう語る。「2年前のパリ合意が話題になった時は3000人以上が集まりましたが、それは異常な数。通常の環境における行進やデモでは数百人程度が普通なので、選挙直前に2500人が集まったことは異例ともいえます」。
今年の国政選挙では油田開発を進めたい大政党が揃って、環境・気候変動政策の議論を避けるという戦略をとっている。
しかし、その態度は現地の報道陣などに見抜かれており、多くの報道で指摘されていた。結果として、「環境は大事だよ」というメッセージを政治家に伝える必要があると危機感を感じた一部の国民が、小政党に投票するかもしれない逆効果もうまれている。最も斬新で物議を醸す政策を提案する「緑の環境党」は、世論調査で支持率が上昇している。
Photo&Text:Asaki Abumi