台湾の兵士を驚かせた大陸ドローンが投下した意外なモノ
アメリカのナンシー・ペロシ下院議長の台湾強行訪問を受け、中国は台湾を取り囲んで過去最大規模の軍事演習を行った。台湾海峡にはきな臭い空気が漂った。
海峡の緊張がさめやらぬなか、中台ネット市民の目を釘付けにするある動画がSNSで拡散され話題を呼んだ。8月16日、大陸と向かい合う最前線、金門を守備する兵士たちを、頭上からとらえたドローンの映像だった。不審な物体を見上げる兵士たちは戸惑い、やがて石を拾い上げると、ドローンに向けて投げつけ、落とそうとする短い動画だった。
映像をみた大陸のネットでは、「まさか、石か……」とか「どこの未開の地の原住民だ?」と、台湾の軍人をからかう書き込みがあふれ瞬く間にネット空間を埋めてしまった。
こうなれば黙っていられないのは台湾のネット市民である。揶揄された怒りは、大陸のドローンの侵入をいとも簡単に許した軍や政権へと向けられた。
台湾軍の金門指揮部は当初、この動画を「(大陸の)フェイクで認知戦」と発表したが、それがかえってネット市民を刺激。台湾国防部は渋々この動画が本物と認めざるを得なくなった。しかしその台湾国防部も「領空外から望遠カメラで撮影したもの」と苦しい言い訳をしたために炎上。火に油を注いだ
動画のなかで兵士が投げた石が、ドローンに当たりそうになっていることが確認できるのだから、そんな主張が通るはずもない。こうした軍と政権の態度にメディアも過剰反応するようになり、問題は雪だるま式に膨らみ海外のメディアまで注目するようになった。
ドローンは人民解放軍の仕業か
すっかりメンツをつぶされた蔡英文政権は結局、「2023年にアンチ・ドローンシステムを基地に配備する」(台湾国防部)と発表。事態の鎮静化をはかった。動画が拡散されてからおよそ1週間後のことである。
アンチ・ドローンシステムの配備に焦点が移り外国メディアのニュース番組でも、ドローンに石を投げつける台湾軍兵士の動画が流れるようになると、この問題は中国人民解放軍(解放軍)VS台湾軍の攻防としてとらえられ始める。台湾側も飛来した他のドローンを撃ち落とす行動に出た。
自然、次の興味は「誰がどんな目的でドローンを飛ばしたのか」というその意図へと向かうのだが、当初は解放軍が台湾軍の守備の甘さを見せつけるためにあえて動画を公開したのだという見立てが支配的であった。
だが通常であれば、相手の穴をわざわざ見せつけて改善を促すようなことを敵である解放軍がするメリットはない。
この疑問を裏付けるように報じられたのが「中国大陸から台湾に相次ぐドローン 厦門市が飛行禁止に 事態鎮静化狙いか」(TBS News DIG 9月4日)という記事だ。
タイトルからも想像されるように中国はドローンを台湾に向けて飛ばすことを歓迎していないのである。記事では、「福建省厦門市は許可なくドローンなどを飛ばすことを禁止すると発表」し、その目的を「事態を鎮静化させる狙い」だと説明しているのだ。
要するに、国が背後にいるとか、解放軍が台湾の防衛のスキをつくといった話ではないことが明らかになったのである。
ザーサイと卵が伝えるメッセージ
こうなってくると「誰が」という疑問は、民間人に絞られ、残された謎は「ドローンを飛ばした目的」だけとなる。ここで動機を示唆する続報がみつかる。
台湾のメディア『中時新聞ネット』の報道だ。記事によれば、大陸から飛来したと思われるドローンのいくつかは、置き土産を落としていったという。
金門防衛指揮部が発見したビニール袋には二つの2つの加工食品と手紙が入っていた。一つはウサギのマークが印刷された密閉包装のザーサイ。そしてもう一つが中国の街角の屋台でよく売っている茶葉卵(醤油で煮た黒い卵、以下煮卵)の真空包装だ。
手紙の署名は「両岸人民はやはり永遠に一家」。本文には、「台湾の同胞たちよこんにちは、前線の守備、ご苦労様です。大陸の生活水準は劣っていてザーサイも煮卵も食べられないとされているようですが、われわれは最高のザーサイと煮卵を慰問のために前線の兵士のために贈ります」書かれていたという。
台湾が大陸を攻撃する際に強調された貧困エピソードを逆手に取った内容だが、それにしてもなぜザーサイと煮卵の組み合わせなのだろうか。
実はザーサイ(搾菜)の「搾」は中国語で「炸」と似た発音。そして煮卵(茶葉蛋)の「蛋」はやはり中国語で「弾」と似た発音になる。組み合わせれば「爆弾」になるというメッセージだ。
それにしても、民間人が無線機付きの小型ドローンをこれほど簡単に飛ばしてくる状況は、国や軍の関与がなかったといっても安心できる話でもなさそうだ。