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青少年のゲーム中毒、過剰な課金から近眼の防止まで、中国が徹底している理由

富坂聰拓殖大学海外事情研究所教授
(写真:ロイター/アフロ)

 子供をスマートフォンから引き離す動きが世界的に広がっている。

 スマホの使用頻度が高い子供と、精神疾患との関連が指摘されていることを受けた動きだが、ターゲットは主にゲームと動画だ。

 今年3月、米連邦下院は動画投稿アプリ「TikTok」のアメリカ国内での利用を禁止できる法案を可決した。この問題では米中対立の視点からばかり語られるが、一方で米議会では未成年者のスマホ依存を問題視する発言も相次いだ。

 子供のスマホの利用頻度と精神疾患の相関関係には、まだ科学的な検証が不足していることや、禁止することがそのまま解決策ではないなどの指摘もある。しかし保護者からは概ね歓迎されているようだ。

 オンラインゲームへの規制に関しては中国の対策が先行している。2019年、国家新聞出版署(NPPA)は、18歳未満の子供に対するオンラインゲームの提供を平日なら90分、週末は3時間までと規制した。

 さらに21年8月、これを週末の金曜日と土曜日、日曜日および祝日に限り、午後8時から9時までの1時間までと強化した。

ゲーム規制は経済音痴?

 規制発表直後には、必ず中国のゲーム各社の株価が下落するため、西側のメディアではこの取り組みを否定的に見る報道も目立つ。多くのエコノミストは、好調なゲーム業界に水を差す習近平政権の取り組みを「経済音痴」と批判した。

 だが、習近平政権は経済を優先して規制を緩めるつもりはないようだ。このことは、ゲームの課金をめぐる問題でも同じだ。

 ゲームをめぐる親子間のトラブルは日本でも悩み深い問題だ。なかでも課金に絡む争いは深刻だ。突然、高額な請求が来て驚かされるというのは、思春期の子供を持つ親のあるあるだ。

 高額請求の責任は未成年者の保護者が一方的に負うべきなのか。支払いをめぐるトラブルは後を絶たない。一部の悪質なオンラインゲームの事業者が、未成年者を金儲けの道具として利用している実態も浮かび上がってきているからだ。

 5月末、中国インターネット協会は未成年を対象とした管理規約の原案を発表した。あくまで原案だが、内容は具体的で興味深い。

高額課金の返済義務は親にあるのか

 例えばゲーム提供者が、「実名認証システムにアクセスし、未成年ユーザーの課金を制限する」という国の規定に従っていないことが明らかになれば、親は返済の義務を免除される。ただ逆に、保護者がゲーム依存の防止策を度々妨げていたと判断されれば、保護者に100%の返済の義務が生じるといった案だ。防止策の妨げとは、例えば顔認証をクリアできるよう手伝うこと。

 未成年者の課金を長期間放置することも同じく悪質とみなされる。また、同じ世帯が何度も返金要求を行っているケースも、返済の責任が発生する可能性が高まる。

 中国がスマホをターゲットに規制を強めている背景には、子供の精神疾患のほか、「眼を守る」という目的もある。幼少期から近距離で目を酷使する弊害として小学生の近視が激増。眼球異常も報告されている。

 習近平政権がこの問題を重視していることは、中国のテレビを見ていると、突然、「子供の眼を守り、彼らに輝く未来をもたらすために全社会が行動を起こせ」と画面いっぱいに描かれた文字が出てくることでも分かる。

青少年の近視率は4年間で1・7ポイント低下

 実際、中国の取り組みは成果につながっている。6月7日、中国中央テレビ(CCTV)は国家衛生健康委員会の発表として、「0歳から6歳までの児童の目の健康体操と視力検査の普及率は95%以上となった」こと、「2022年、青少年の近視率は51・9%で2018年に比べ1・7ポイント下がった」ことを誇らしげに報じた。

 子供の眼球異常を放置すれば、将来、40歳代で失明することもあると警鐘を鳴らす専門家もいる。もし、そんな未来が現実となれば、視力を失った人々を保護する役割を担うのは、やはり国である。

 つまり深刻な少子高齢化に加え、目の疾患を抱えた大量の中高年への対処という重い課題が新たに圧し掛かることになる。国が悲鳴を上げるのは火を見るよりも明らかだ。

 目の前のゲーム産業の利益のため、将来のリスクを放置するならば、それこそ近視眼的な政策と言わざるを得ない。

 中国が子供の学習環境に目を配るのは、将来の少子高齢化を考えれば、個々人の生産性の向上が避けられないという理由からだ。

 その意味では不登校者が増えることも頭痛の種だ。だからこそ、不登校を招く「いじめ問題」への取り組みにも真剣だ。5月30日、中国人民法院は「未成年者の保護と犯罪防止を強化する意見書」(意見書)を出した。

 意見書は、未成年者がいじめにより損害を被った場合、人民法院がその強度や持続期間及び体や心に負った被害の程度を考慮し、法に則って加害者の責任を追及するという内容だ。その際、学校、施設、機関が管理者としての職責を尽くさなかったと判断されれば、学校、施設、機関は権利侵害の責任を負わされる。場合によっては送検されるという。

 同じように少子高齢化が進行し、子供の近視問題も深刻な日本では、果たしてどんな取り組みがされているのだろうか。

拓殖大学海外事情研究所教授

1964年愛知県生まれ。北京大学中文系中退後、『週刊ポスト』記者、『週刊文春』記者を経て独立。ジャーナリストとして紙誌への寄稿、著作を発表。2014年より拓殖大学教授。

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