山田孝之インタビュー 京都・丹後で無農薬の米づくりをスタート
【山田孝之さんインタビュー】
テレビや映画など、数々の作品で活躍する俳優の山田孝之さんが「自給自足生活の知恵、そして何より生きていくためのノウハウを身につけたい」と始めたコミュニティ『原点回帰』。
2021年4月のスタート以来、山田さんは自然農法、固定種、天日塩、雑草、雑穀、釣り、和蝋燭、不食など、全国にいるそれぞれの達人の元を訪ね、そこで学んだことを『原点回帰』のメンバーに共有。現在は石川、埼玉、千葉、山梨、愛知、大阪、山口、福岡、佐賀、鹿児島、沖縄の全国11の畑で農業を行い、収穫した野菜をメンバーたちとシェアしている。
そして活動3年目を迎えることし、いよいよ稲作にチャレンジするという話を聞いた筆者は山田さんが田んぼを視察するという京都・丹後を訪れた。
今回、筆者はJR京都駅で山田さんと合流。車に同乗させていただき、目的地である京都府宮津市にあるその場所へと向かった。
高速道路を使って移動中、待望の新しい車が納車されたことを話し始める山田さん。車種を教えていただくと、移動はもちろん農作業でも大活躍してくれそうな車だった。
京都の棚田で米づくりをスタート
JR京都駅から車で向かい到着した場所は、傾斜地に田んぼがいくつも造られた棚田。
「今回、こちらの田んぼにご縁がありまして。もともとは、『原点回帰』の活動で京都の飯尾醸造さんにお酢の取材として行ったことがきっかけです」と山田さん。
生きるためのスキルを直接学ぶため、全国の達人の元を訪ねている山田さんだが、さまざまな出会いからつながり広がっていく縁を大切にしている。
山田さん「京都で明治26年から続く飯尾醸造さんは、自社で育てた無農薬米を使ってお酢を造られているんです。人里離れた山の上の田んぼで無農米を作って、それを日本酒にして、それからお酢にするということをやられているんです」
元々は、どうやってお酢を作っているのかを学ぶために飯尾醸造を訪ねたのだそう。
山田さん「京都に非常にこだわったお酢を作られている場所があるということで、それが飯尾醸造さんだったんです。取材に行かせていただいたんですが、その際に『うちの田んぼを見てみませんか?』ということで、見学させていただいたんです。それが2022年の初夏です」
現在、『原点回帰』メンバーと共に全国11ケ所の畑で野菜づくりを行っている山田さんだが、稲作はまだやっていなかった。
山田さん「『原点回帰』の畑では、メンバーがそれぞれの土地にあった野菜を育てていますが、米づくりはまだやっていなかったんです。これまでも『米をやりたい』というメンバーからの意見もあったんですが、実際に稲作をやるのは難しいよねと話していたんです」
これまで稲作をやっていなかったのは水の管理が一つの理由。稲の植え付けの時期には田んぼに水をはったり、稲が育ってきたら途中田んぼから水を抜く中干しをしたりなど、稲作は細かな水の管理が必要となる。
山田さん「みんな別の仕事をしているメンバーが多いので、実際に作業できるのは土日が多かったりもするんですけど、飯尾醸造さんが契約している農家の方に手助けをしていただけることになったんですね。普通なら、稲作をやるんだったら全部やるのが普通だと思います。でもこういう場所に出会えたのも本当にご縁だなと思いますし。ぜひ米づくりをやらせていただこうと」
古代米づくりにも挑戦
筆者はこれまで山田さんが『原点回帰』の活動を通して全国各地の畑を仲間と耕し、畝を作り野菜を育て、メンバーで収穫する様子を何度か取材、紹介させていただいた。今回、初めての挑戦となる米づくりでは山田さんはどんなことを考えているのだろう。
山田さん「この場所一体は約80の棚田からなるのですが、全て無農薬で米づくりをされているんです。僕らも無農薬はもちろんですけど、日本古来から続く古代米とかそういうものにも挑戦してみたい。僕らは自分たちで育てて収穫した米をどこかで売るっていうことが目的ではなくて、先人たちが紡いできてくれた昔の味や、お米本来の栄養素を知りたいっていうことだったり、稲作の経験のない人達が集まってそのスキルを身につけて、自分達でも育てられるようになるための学びの場でもあるので」
今回、『原点回帰』として借りる棚田は数枚。はたしてどれだけの量の米が収穫出来るか、今から心が弾む。
山田さん「僕らは畑で農業をする際に機械も使いますが、今回は小さな田んぼをお借りするので、稲の苗は手植えでやることになると思います。そしたら機械が壊れたりとか、燃料が高すぎて買えなかったりとかっていう時のことまで考えて稲作に挑戦できるので」
山田さん「昔、機械が導入される前は全部人の力でやってたわけですから。あくまで人はサポートしてるだけですけど、結局育ってるのは野菜であって、育てているのは地球であって、僕らはそれを何か本当サポートするぐらいの存在でしかないですけど」
これまで、いろんな達人に生きるためのスキルを学んできた山田さん。米づくりについてはどうなのだろうか。
山田さん「本当にいろんな方にお会いしてきましたけど、今まではお酢や醤油だったり、食材をどう加工するかっていう話を聞きに行くことが多かったですね。米づくりに関してはまだこれからです。今回、お米を作ってる人に会いに行くというよりは、こういう素晴らしい場所に出会えたので、もうみんなで一緒に米づくりをやっていってみようって感じですね」
炊き立ての新米を食べて白米のおいしさを再認識
取材中、「さっき、僕ちょっと新たな感覚に目覚めたというか、気づいたんです」と山田さん。
実は今回の田んぼを視察した後、山田さんはここを管理している農家の溝口喜順さんの自宅を訪れ、そこで炊きたての白米を食べさせていただいていた。もちろんこちらの棚田で秋に収穫したばかりの新米だ。
山田さん「もう9年間ぐらい、うちの家庭ではずっと無農薬の玄米を食べているんですよ。玄米についている、糠(ぬか)や胚芽にはビタミンやミネラルなどのいろんな栄養素や食物繊維とかもあるので。白米はそういうものを取り除いて、おいしさを追求したあくまで嗜好品、という風に考えていたんですね」
溝口さんの家で炊き立ての白米を食べた山田さん。そのことで白米に対する考え方が少し変わったのだそう。
山田さん「外食に行った時やお寿司を食べる時とかは白米をおいしく食べるけど、僕はおいしくよりも、体に必要なものを必要な分入れたいっていう考え方が強かったので、玄米を食べていたんです。でも、溝口さんの炊きたてのお米を食べたら、とことんおいしさを追求した白米もたまには食べた方がいいなっていうのをいまさっき思いました(笑)」
溝口さんの家で炊きたての白米を食べさせていただいた時の話になり、「幸福感が半端なかったです」と山田さん。
山田さん「白米は嗜好品、栄養とかじゃなくてただのおいしい糖質ってぐらい、偏ってたんですけど、いややっぱりそれも大事だなと。この考えは玄米を食べ始めて9年間なかったです」
山田さん「今回、白米に対しての考え方が変えられてしまいましたね。これも大事だなと。もう、『ただただ、おいしい』もすごい重要。生きる上での喜びの一つだなって思いました。これから僕らの田んぼで作る米は玄米だけじゃなく、白米でも食べてみたいです」
山田さんも初の挑戦となる稲作は、ことしの5月あたりからスタートする予定だ。
山田さん「4月の10日ぐらいに苗を作り出すので、それから30日から40日後っておっしゃってましたね。なので5月、連休明けですね。5月中旬ぐらいに田んぼに稲を植えることになると思います。今回稲作をする田んぼは京都なので、関西エリアの方が多くなるのかもしれませんが、米づくりに興味がある人は是非エリア問わずに参加していただきたいですね」
山田さんが帰長を務める『原点回帰』メンバーは全国様々なところから活動に参加している。例えば九州のメンバーは山口県にある畑に農作業を手伝いに行ったりとエリアに関係なく活動をしているのだそう。
山田さん「新しく参加されるメンバーの中で、『野菜作りに参加したいけど、畑が遠いからなかなか参加できない』ってなると、みんな自分たちで畑を見つけてきてくれるんですよ。『家の近くにずっと放置されている土地があるので、地主さんに話してみます』という風に。地主さんは大体みんな『自由にやっていいよ』と言ってくださるみたいで」
その結果、2021年4月に山梨県の畑からスタートした『原点回帰』の畑は、どんどん増えて現在全国に11ヶ所となっている。
山田さん「最近だと鹿児島と四国の高松ですね。どちらの畑も新しく参加されたメンバーが見つけてきてくれまして、『そこで野菜作りをはじめてみよう』ってなりましたので、そちらもこれからメンバーを募りたいと思っています」
全国に11ヶ個所ある畑で育てる野菜には、それぞれ地域性などあるのだろうか。
山田さん「例えば『沖縄の畑で何を育てる?』となった場合、僕はどうしても畑の端っこの方でバナナをやりたい。でも自分たちで消費するってなると、『やっぱりどの家庭でもタマネギ、ニンジンは常に買ってるよね』みたいな話になって、『じゃあ、タマネギとニンジンもやろうか』みたいな感じで話してますね」
自分たちで作った野菜は「おいしい」だけじゃなく「嬉しい」
山田さんは現在もドラマ撮影など忙しい合間を縫って、全国にある『原点回帰』の畑で汗を流している。
山田さん「全国各畑のメンバーの皆さんが手間暇かけて野菜を育てていて、僕も仕事の都合がつく限りそれぞれの畑の作業や収穫祭など、タイミングが合ったところに行かせてもらっています。そこで一緒に採れたての野菜をみんなで食べたり」
山田さん「みんなで竹を刈りに行って、それを燃やして炭にして土に混ぜ込んで。今度は草を刈りに行って、それを入れて畝を作る。そういう作業を一緒にやって、『僕たちみんなで作った野菜だ』という気持ちがあるので、『おいしい』もそうだけど、やっぱり『嬉しい』という気持ちが野菜の上にすごい乗っかりますよね」
『原点回帰』としての活動がいろんなところに知られるようになった現在、どのような変化があったのだろうか。
山田さん「山口県にある無人島に『原点回帰』の畑があるんですが、定期的にその島に渡るための船をヤンマーさんからご寄贈いただいて。今度、その船を使った釣りイベントも考えています」
山田さん「あとはオンラインミーティングがあったりとか、各畑の報告会があったり、本当にいろいろですよ。先日も『皆既月食がある』となるとそれについてみんなで話すとか。ごくたまにですが、僕も参加してオンライン飲み会もやっていますよ」
「そのうち田んぼが増えて量が確保できるようになったら、『原点回帰の米が欲しい』というお店にも分けたりできたらいいなと思います」と山田さん。
山田さん「こういう昔ながらの作り方をみんなでできていけることは、本当に素敵なことですから、『それを広めたい』っていう気持ちがあってこの『原点回帰』というコミュニティを始めたんです。たまたまそのお店を訪れた人が、僕らの作った野菜や米を食べたことによって『こんな味なんだ』とか、『自分でもやってみたいな』って思ってもらえたら。同じように『固定種で無農薬無肥料で家庭菜園から始めてみよう』っていう風になったら、もうそれが本望ですね」
最後に、山田さんにとって米とはどんな存在かをあらためて聞いてみた。
山田さん「お米って、芋とか豆とはまた違いますよね。日本人の主食ですからね。少なくとも僕や両親、祖父母も米が主食なので、やっぱり日本人に合ってるっていうことだと思うので、これからも食べ続けたいし、それをもっと知るためにはやっぱ自分達で育ててみたい。よかったら是非一緒にお米を作りましょう」
『原点回帰』 第6期メンバー募集
期間/2023.1.20(金)〜1.29(日)
応募に必要な書類などを添え、「原点回帰」(https://about.gentenkaiki.jp )からアクセス。
問い合わせ:株式会社 原点回帰
担当・伊月(イヅキ) mail:izuki@gentenkaiki.jp
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