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山田孝之「最終目標は“理想の島探し”。僕も学べて、共有する場所を作りたい」

秋吉健太編集者

【 山田孝之さんインタビュー 】

俳優・山田孝之さんが“帰長”となり、いろんな人が集まれる場所を用意。参加者それぞれのアイデアや経験を活かし、誰もが学んで体験できる場を提供することを目指すコミュニティサイト『原点回帰』が4月よりスタートする。

オンラインだけでなく、山梨県の専用農場などのオフラインでも集い、一緒に様々なことを学んでいく。最終目標は“理想の島探し”。

島作りに必要な知識を学び、実践していくために、まず始めに山梨県の畑で農業をスタートさせた山田孝之さんに話を聞くことができた。

4月初旬、筆者が予定より2時間早く畑に着いた時には、山田孝之さんはすでに汗びっしょりになりながら、黙々と畑を耕していた。

開口一番、「天気がよかったら、この畑からは向こうに綺麗な富士山が見えるんですよ」と山田孝之さんは教えてくれた。

耕運機を操作し畑を耕す。この日、誰よりも汗をかいて作業をしていた
耕運機を操作し畑を耕す。この日、誰よりも汗をかいて作業をしていた

「自分で野菜を作ることで、“いただきます”の意味をしっかり感じたい」

「“いただきます”という言葉が、僕は大好きなんです」と山田孝之さん。畑仕事の合間、首にかけたタオルで額の汗を拭きながら、一つ一つ丁寧に筆者の質問に答えてくれた。

「育ってくれた農作物があって、それを作った方、レストランだったら運んでくれた方、調理してくれる方がいる。それら全てに対して『いただきます』と言っているじゃないですか。僕はそのことをもっと身近に感じたいし、いろんな人がその意味をもっと感じるべきじゃないかと思っていたので、まずは自分で野菜を作って、もっとちゃんと“いただきます”の意味を自分でもしっかり感じられるようになりたいと思っていたんです」

「生きることってすごくシンプルなことなんじゃないかって思うんです。みんなシンプルに生きればいい。僕は『食べ物』と『家』があればOKだと思ったんです」
「生きることってすごくシンプルなことなんじゃないかって思うんです。みんなシンプルに生きればいい。僕は『食べ物』と『家』があればOKだと思ったんです」

「一年の半分は好きなことをやろうと」

2019年、“AVの帝王”と呼ばれた村西とおるを演じたNetflixオリジナルシリーズ『全裸監督』は全世界190か国で配信され、日本では社会現象を巻き起こした。

先日、シーズン2が2021年に配信スタートすることが発表され、大きな話題となった。間違いなく日本を代表する俳優のひとりである彼が、なぜ今回このプロジェクトをスタートするのだろう。

「俳優仲間と話していて誰もがそう言うんですけど、俳優業はちゃんと役を作って取り組むとしたら、年間2本くらいの作品に出るのがちょうどいいんですよ。でも、実際はそうもいかなくて、みんな年間に4役も5役もやったりするんですよね。僕は俳優として22年間やってきて、そろそろ疲れて嫌になってしまう前に『ペースを変えよう』と思って。俳優業は一年のうち半分にして、残りの半分は好きなことをやってみようと」

小雨の中、ショベルを使い土の中に竹炭を混ぜる
小雨の中、ショベルを使い土の中に竹炭を混ぜる

「もちろん芝居は好きですが、余計なものが多すぎるなと思っていて。例えば“育てる”とか、“狩りをする”とか、“生きるためにしか行動しない”。そういうシンプルな生き方がしたいなぁと昔から思っていたんです」

『原点回帰』に対する思い

「コミュニティを作るなら、そこで出会った人たちからいろんなことを僕が学んで、それをまた誰かに伝えて同じように学んでもらえたら、やる意味があるなと思って」と山田孝之さん。

理想の島を探すことを最終目標とした『原点回帰』では、島作りのために様々なことを学び、実践していく。

「『生きるために何が必要なんだろう』と考えて、余計なものを引いていったら、『食べ物と、雨風をしのげる住居さえあれば、人は生きていけるじゃないか』と思って。だからまずはじめに、食べ物を自分の力でちゃんと作りたいと思ったんです」

山梨県富士川町にある畑の周りには桜やタンポポ、土筆、水蓮の花などが咲いていた
山梨県富士川町にある畑の周りには桜やタンポポ、土筆、水蓮の花などが咲いていた

自分が理想とする農作物の育て方を学ぶ

それから山田孝之さんは農業を学ぶため、長崎や高知、埼玉などを巡り、自分が理想とする自然農法を実践している先駆者・達人の元を訪ね歩いたという。

「最初に長崎で『菌ちゃんふぁーむ』をやられている、有機野菜農家の吉田俊道先生に無農薬有機栽培ついてお話をうかがって、その次は高知の『いちえん農場』で循環型農業について教えていただきました。『いちえん農場』は『土佐ジロー』という鶏を飼って、鶏たちのフンを肥料として利用されていたり、蜂の力で果物に受粉させるために養蜂もやられていたり。農薬や化学肥料を使わず、自然の循環サイクルを活かした循環型農業に取り組まれていました」 

長崎県佐世保市にある「菌ちゃんふぁーむ」にて。吉田俊道先生から農業に関わる菌の働きなどを学ぶ
長崎県佐世保市にある「菌ちゃんふぁーむ」にて。吉田俊道先生から農業に関わる菌の働きなどを学ぶ

「いま作業している、竹を焼いて作った炭を畑の土に混ぜて、雑草を使って畝(うね)を作るやり方は『菌ちゃんふぁーむ』の吉田先生に教えていただいたもので、それを実践しています」

畑のある集落の竹林にて倒れていたり放置されている竹を集め、畑に撒くための竹炭を作っているところ
畑のある集落の竹林にて倒れていたり放置されている竹を集め、畑に撒くための竹炭を作っているところ

「畑に植える種は、日本で唯一固定種の種を売り続けている埼玉の『野口のタネ』で購入した固定種です。代表の野口勲さんは漫画『火の鳥』の初代編集者だった方で、今回のプロジェクトをきっかけに対談させていただきました」 

出来上がった竹炭を畑の土に混ぜていく
出来上がった竹炭を畑の土に混ぜていく

「そうやって学んだことを、今回の畑で実践していきます。吉田先生の『菌ちゃん農法』で耕した土に、『野口のタネ』で手に入れた固定種の種、葉物、トマト、キュウリ、ニンジンなどを植えてみます」

今回、農業を学ぶために実際にお会いした方々の共通点を訊ねてみた。

「皆さん、すごく元気ですね。元気で下ネタ好き(笑)。やっぱり元気だからなんでしょうね(笑)」

理想の島作りのために学んだことが、俳優業へも生きてくる

「ひたすら石をとる、草を刈るという作業をしていると、なんか違う感覚が出てくるんです。僕がいま住んでいる東京って、自宅で座っているだけでもまわりに情報がたくさんあるじゃないですか。でも畑で作業をしていると、目の前に石や草しかないから、いろんなことを考えるんですよね。それってとても貴重な時間です」と山田孝之さん。

畝に使うための草刈りを終えたところ。「やっていくうちにどんどん効率が良くなっていくので楽しいです」
畝に使うための草刈りを終えたところ。「やっていくうちにどんどん効率が良くなっていくので楽しいです」

理想の島作りのためにまず最初に取り組んだ、農業をやることは俳優としてはどんな影響があるのだろうか。

「俳優業って、人の人生を考えて、その人の気持ちになって役を作るので、全ての経験が自分に帰ってくるんです。僕がこうやって畑を耕すことで何かを考えて、これまでとは異なる気持ちが生まれたきたとすると、それは次に役作りをするときに何かしら役に立ってくると思います」

草刈り機で刈った草をトラックで畑に運び、畝を作る
草刈り機で刈った草をトラックで畑に運び、畝を作る

アート、音楽、いろんなことを共有したい

山田孝之さんが『原点回帰』で目標とする理想の島は、自分たちの力で自給自足をすること。

「目標である完全自給自足の島となると、養鶏や養蜂とかまでやる、循環型農業をやっていくことになると思うんです。それをやる上で島に宿泊施設を作って、宿泊してくれた人たちが例えば農業を体験しながら学んで、いずれ自分たちでも農業を始められるようになれたらいいなと思っているんです」

山田孝之さんはアートに関心があり、日頃からインスタグラムをチェックし日本ではあまり知られていない海外のアーティストの作品を購入したりしているのだそう。

「現代アーティストの井田幸昌君と仲がいいんですけど、島の話をしたら彼に『アートビレッジにしてくださいよ』と言われて、それっていいねと思って。自分の気に入ったアーティストを島に招いて、しばらく絵を描きなら宿泊施設に滞在していただいて、最後に帰るときにそこで描いた作品を一点だけ置いていってもらえれば、どんどんアート作品が島に溜まっていく。そしたら素敵な島になるんじゃないかと思っています」

「僕の周りのメンバーでも農業を始めたり、移住している人も多いですね。柴咲コウちゃんとか、北海道にも拠点を作ってますよね」
「僕の周りのメンバーでも農業を始めたり、移住している人も多いですね。柴咲コウちゃんとか、北海道にも拠点を作ってますよね」

山田孝之さん流・美味しいテキーラの飲み方

「『原点回帰』をスタートする上で、まず最初に農業について教えていただきましたが、アートや映画について教えていただいたり、誰かと対談してみたり。いろんなことをやりたいです」と山田孝之さん。

『原点回帰』でやりたい、“いろんなこと”についてもう少し話を聞いてみた。

「例えば、僕はテキーラが好きなので『テキーラ部』を作りたいと思っています。テキーラって“罰ゲーム”の記憶がある人も多いじゃないですか。『うわっ、テキーラ』みたいな(笑)。飲み会などで飲まされて大変な目に遭ったりして、残念な記憶と繋がっていたり。でも、テキーラも飲み方次第で美味しく飲めるんですよ。僕のおすすめは、と言ってもソーダで割るだけなんですけどね(笑)。そんなに高くない、ひと瓶数千円くらいのもので、十分美味しく飲めるんです。みなさんに僕流のテキーラの楽しみ方をご紹介して、一緒に飲んでみたりしても楽しいかなと思っています」

畑の中の石を拾う。地道な作業も黙々と取り組んでいた
畑の中の石を拾う。地道な作業も黙々と取り組んでいた

「ほかには『みんなで海苔食おう』という『海苔部』を作りたい(笑)。僕は海苔が大好きで、家で晩酌しながら海苔をひたすら食べてるんです(笑)。他にもパワースポットや祭りとか、僕の知らないことがたくさんあるので、『それ好きだったらこんな人と会ってみたらどうですか』とか、そういったことをいろんな人から教えていただいて、みんなでシェアしたり、一緒に楽しむことができればと思っています」

「島ができたら、そこでアートを見て、みんなで焚き火をしながら音楽を聴いてチルしよう、みたいなことも考えています」
「島ができたら、そこでアートを見て、みんなで焚き火をしながら音楽を聴いてチルしよう、みたいなことも考えています」

コロナ禍で生活様式や価値観が変わってしまったいま、山田孝之さんにこれから少し先の未来について訊ねてみた。

「これからは小さなコミュニティが繋がっていく世の中になるんじゃないですかね」と山田孝之さん。

「参加いただく方にこちらから望むものはないんです。『原点回帰』という場を用意するので、そこに興味を持ってやってきていただいた人たちと一緒にそこで何が生まれるのか、いまから楽しみで。これから何が起きるかわからないから、僕は本当にワクワクしています」

『原点回帰』

応募期間:4月12日(月)〜25日(日)。応募に必要な書類などを添え、「原点回帰」(https://about.gentenkaiki.jp )からアクセス。
本件に関する問い合わせ:株式会社 原点回帰
担当・伊月(イヅキ) mail:izuki@gentenkaiki.jp

編集者

編集者としてのキャリアは出版、web合わせて約30年。雑誌「東京ウォーカー」「九州ウォーカー」、webメディア「Yahoo!ライフマガジン」など雑誌・webメディアの編集長を歴任。街ネタやおすすめの新スポットなどユーザーニーズを意識した情報を、それらの合わせ持つストーリーと共にお届けします。

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