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「安心して食べられるものを作りたい」俳優・山田孝之の生き方

秋吉健太編集者/コンテンツプロデューサー

【 山田孝之さんインタビュー 】

俳優・山田孝之さんが帰長(きちょう)として全国各地を訪れ、農業をはじめとした様々な分野の達人たちからスキルを学び、それをメンバーにシェアするコミュニティサイト「原点回帰」。ことし4月にスタートして半年が過ぎ、再び彼に話を聞くことができた。

山口県沖に浮かぶ島で野菜作りをスタート

「海にいると地球の存在を感じますよね。『自分たちはこんな大きなところで生かさせていただいてるんだなぁ、ありがたいなぁ』と思います」

山口県のとある港から船に乗り、約40分。沖合に浮かぶ島に向かう途中、山田孝之さんはそう語ってくれた。

俳優である山田さんが帰長となり、自然農法などの生きるためのスキルを学び、実践していく「原点回帰」。今回、彼が向かったのは山口県沖に浮かぶ島。「原点回帰」のメンバーと一緒にその島を訪れ、畑を作るための作業をする様子を取材させていただいた。

今回の目的地は山口県沖合にある島。毎回港から船で約40分かけて島へ渡る
今回の目的地は山口県沖合にある島。毎回港から船で約40分かけて島へ渡る

畑の土から作る自然農法への取り組み

ことし4月に取材させていただいた時点では、山田孝之さんは自然農法を学ぶため「菌ちゃん農法」の吉田俊道さん、「いちえん農家」の一圓信明さんの元で学び、「固定種」という品種改良していない種を取り扱う野口勲さんの「野口のタネ」で手に入れた種を使って山梨県の畑で自然農法への取り組みをスタートしていた。あれからどんなものを育てたのだろう。

「原点回帰」がスタートして約半年、これまでどのような経験をしてきたのだろう
「原点回帰」がスタートして約半年、これまでどのような経験をしてきたのだろう

「夏野菜はもう収穫もして。キュウリ、パクチー、空芯菜。トウモロコシはキツネが全部食べてて、よほど美味しいんだなと(笑)」



この夏、実際に収穫した野菜の話になると、山田さんは満面の笑みを浮かべた。

菌ちゃん農法で畝を作った畑で夏野菜を収穫
菌ちゃん農法で畝を作った畑で夏野菜を収穫

「トウモロコシについては、ネットを張ってキツネに食べられないようにするというのは僕らの感覚では『ちょっと違うな』というものがあるので、じゃあトウモロコシ以外で何か挑戦してみようって言って枝豆とかゴマとかも育てていました」

畑で育てたパクチーをその場で摘んで食べてみた時はその味に驚いたという。

「びっくりしました、パクチーが本当に甘くて。摘んですぐ食べるとこんな味なんだと。自分たちが手をかけた分、畑の野菜たちが元気に育ってくれたことが単純に嬉しいです。何か愛情や愛着をすごく感じるんですよね。子供って感じで」

自分たちの力で育て上げたキュウリやパクチー、空芯菜
自分たちの力で育て上げたキュウリやパクチー、空芯菜

毎月一人の達人から生きるためのスキルを学ぶ

「原点回帰」の活動で、山田さんは毎月一人のペースで全国各地にいる様々な分野の達人の元を訪れ、生きるスキルを学んでいる。

「以前、インタビューしていただいたときからいろんな所に行きましたね。岩手では木炭を作っている炭職人の七戸 智さん、京都で和蝋燭を作っている田川広一さんのところに行ったり。あとは高知県で完全天日塩を作っている「田野屋塩二郎」の佐藤京二郎さん、沖縄県のプロの釣り師・高橋名人、新潟では無農薬で雑穀を作られている大島 勉さんのところに行かせていただきました」

達人たちからは毎回いろんなことを学び、「原点回帰」のメンバーにシェアしているのだそう。

「京都で和蝋燭作り体験させていただきましたけど、知らなかったことが沢山ありました。和蝋燭は櫨(はぜ)という木の実から作るんですけど、100%植物でできているんですよ。そういうものは世界中を探してみても日本にしかなかったという。その背景には『殺傷せずに』という仏教の教えもあったり」

京都・伏見で和蝋燭を作る田川広一さんの元を訪ねた
京都・伏見で和蝋燭を作る田川広一さんの元を訪ねた

灯りにもなり、時計にもなり、非常食にもなる和蝋燭

「原点回帰」の活動を通し、世の中には自分の知らないことが沢山あることを知る。それがとても面白く、山田さんをワクワクさせてくれるのだそう。

「和蝋燭って全部時間が書いてあるんですよ。1時間、30分とか、燃えていくうちに時間がわかるんです。例えば、米を炊く時とか、和蝋燭に火をつけるとどこまで燃えたかで時間の経過を知ることができるんです。和蝋燭は灯りにもなるし、時計にもなるし、櫨の実から作られているから非常食にもなるんです」

和蝋燭は広葉樹・櫨の実から蝋を採取して作る日本独自のもの
和蝋燭は広葉樹・櫨の実から蝋を採取して作る日本独自のもの

0→1になる瞬間を楽しむ

「『原点回帰』でいろんなことを体験させていただいていますけど、何をやっても全部が初めてのことなので。初めてのことって数十分やっていると、0から1になる瞬間を体験できるんです。1から100になるのは大変ですけど」

例えば草刈機で草を切るなど、初めてのことを試行錯誤しながら何度何度も繰り返す。すると、ふとした瞬間にさっきよりも上手くできていることに気づくのだそう。

「やったことがないことを0からスタートすると、ちょっとずつ上手くなっていくのがわかるんですよ。どんどん効率が良くなっていく、0から1になるのがわかるんです。それが実感できると嬉しいんですよね。『お、もうコツを掴んできたぞ』みたいな(笑)」

みんなで生きるためのスキルを身につけたい

山田さんが達人たちから学んだことは、彼の活動に共感した「原点回帰」のメンバーに動画などを使いシェアをしている。

「僕一人が学んでも何もできないので(笑)。僕がいろんな方から生きるスキルを学んで、その動画を『原点回帰』のコミュニティでシェアしています。そうやってみんなもスキルアップしていけたら。1%でも食料の自給率を上げるために何かできればと思っています」

沖縄ではプロの釣り師・高橋名人から釣りを学んだ
沖縄ではプロの釣り師・高橋名人から釣りを学んだ

安心して食べられるものを作りたい

ことし6月24日からはNetflixオリジナルシリーズ『全裸監督 シーズン2』が配信され話題を呼ぶなど、俳優としても第一線で活躍する山田さん。なぜ、自然農法などの生きるスキルを身につけようとするのだろう。

「いまは仕事して、お金稼いで食料を買えばいいですけど、災害があったりして収穫量が変わったり、いろいろあるじゃないですか。例えば東京という街は人も多いから、ちょっと何かあるとコンビニやスーパーで物が一気に無くなったりとか。そういうことに備えて、自分一人というわけでなくて、自分たちの力で生きていけるようにしたい。そういう力をみんなでつけるために、一緒に学びながら、助けあって成長していきたい。イメージとして『原点回帰』はフリースクールのような、学校みたいな感じです」

今回は島での作業の合間にインタビューさせていただいた
今回は島での作業の合間にインタビューさせていただいた

「単純に『安心して口の中に入れて自分の身になるものを作りたいよね』というところと、食品なんかでいくとやはり輸入品が多いじゃないですか。もしそういうものが減ったり止まったりしたらどうするの、ということを考えてます」

日本のいろんな場所で「安心して食べられるものを作ることができれば」と山田さんは考えている。

「自分たちの国というか、いろんな場所でもある程度作物を作ったりできるようになっておかないと。『お金はあるけれど、誰も食料を売ってくれない』という状況になったら、死んでしまいますからね(笑)」

草刈りの途中。「原点回帰」の帰人メンバーと
草刈りの途中。「原点回帰」の帰人メンバーと

自分の住む世界とは全く違う、頼もしい人々との出会い

1999年、16歳の時にドラマ『サイコメトラーEIJI2』で俳優としてデビュー、それから現在まで数々の映画やドラマなどに出演している山田さんだが、「原点回帰」のメンバーはこれまでとは全く異なる世界の人ばかりだという。

「これまでとは全然違う世界の人しかいないですよ(笑)。もともと農業をやられているプロの方もいらっしゃいますし、スキルも知識もみんなそれぞれなので、一つ課題があるとみんなでアイデアを出しあっています。皆さんめちゃくちゃ頼もしいですよ、やっぱり」

これから山口県にある島で畑づくりに挑戦

山口県のとある港から船で約40分。現在山田さんはこの島に定期的に通い、畑を作るための作業を続けている。

「かつてご自身が住まれていたこちらの島に船で通い、農業をされてる山根さんのお手伝いをさせていただいています。山根さんは甘夏を育てていらっしゃるんですけれど、収穫の時はアルバイトの方にお金をお支払いして雇われていたみたいなんですね。僕らのコミュニティではそんな最高の学びの場はないので、『是非、手伝わせてください!』とお願いしたんです」

無人化した島内の土地を所有する山根さんと
無人化した島内の土地を所有する山根さんと

「みんな夏みかんの収穫なんかしたことないから、それを手伝わせていただけたらいろんなことが学べるし、嬉しいんじゃないかと思います。そうやってサポートさせていただく中で、これだけ土地がある島なので『空いた土地の中で畑をやっていいよ』と言ってくださるので、ここでも畑をやらせていただくことに」

誰も住んでいない島での挑戦

いまは誰も住んでいないこの島に最初に降り立った時の気持ちはどういうものだったのだろう。

「最初に訪れた時、とても暑かったのを覚えています。山根さんの船でここに連れてきていただいて。島に上陸したら誰も人がいなくて、廃墟がいくつかあって。人がいないところって本当に怖いんだなと思いましたね」

いまから数十年前までは、島には10世帯ほどがあったという。これから、この島で山田さんはどんなことをやっていくのだろう。

「幸いここは昔は有人島だったので電気が通ってるんです。ただ、農業水が確保できていないので、これから農作業をやっていくとなるとトイレの確保や寝泊まりする場所の確保なども必要になってきます」

途中ホームセンターなどで揃えた道具を装備し現場へと向かう
途中ホームセンターなどで揃えた道具を装備し現場へと向かう

これからこの島で農業をやっていくためにも、「原点回帰」で学んだ生きるためのスキルや知恵を駆使して仲間と力を合わせていく。

「ここに畑を作りたいとは考えているんですが、現時点では草が至る所に生えていて、どこに何があるかわからない状況なんですね。なので時間を見つけて船で島にやってきて、草を刈っている状況です。先日来た時も草を刈っていたらいきなりスズメバチに刺されて、『まだ来るな』と言われてるのかなと思ったり(笑)」

草刈機を操り除草をする様子
草刈機を操り除草をする様子

実際に作業する様子を取材させていただいた。約40分の船旅を終えて島に着いた後は、軽トラックで5分ほど移動、山田さんは「原点回帰」メンバーと一緒に手袋やゴーグルなどを装着し、草刈機を操り除草作業に取り組んでいた。

「最初は怖かったですよ、(草刈機を使うと)石が飛んでくるとかも聞いたこともあったから。でも、それもなんとなくわかるようになってきたし。ただ草を刈るんではなくて、刈ったあと植物が何センチも残っていると見た目土地は開けているんですけど、実際は足を取られて歩けないので、今日はそこを歩けるようにもっと細かいところまで植物を刈り込むということをやっていました。作業をやっているときにグラっと倒れたりしたら危ないからですね」

ナタやノコギリなども携帯し、現場でのあらゆる作業に備える
ナタやノコギリなども携帯し、現場でのあらゆる作業に備える

「以前、畝を作るときに草刈りをやった際に学んだんですが、その場所をきちんと歩けるように草刈りをやらないと奥に進むうちに後からどんどん大変になってくるんですね。最初から人が通るところはちゃんとやっていかなきゃと思ってます」

今回の無人島での取材で山田さんと一緒に行動できたのは1日だったが、島で実際に作業する彼の行動には必ず意味があり、発言を聞いているうちに、これが生きるスキルを身につけるということかと思い、訊ねてみた。

「どうでしょうね。0.1%アップくらいじゃないですか(笑)。今のところ教えていただくことばかりで、まだ実践ができてないですからね。全部が教えてもらったところから、みんなで実験している、試している段階ですね」

びっしりと生えたセイタカアワダチソウ
びっしりと生えたセイタカアワダチソウ

「原点回帰」メンバーとのコミュニケーション

以前「原点回帰」をスタートするタイミングでのインタビューでは「僕はテキーラが好きなのでテキーラ部を作りたい」と言っていた山田さん。あれからその想いは実現したのだろうか。

「一回だけですが、Zoomで集まって『夜、みんなで飲もうぜ』と言ってテキーラを飲んだことありますよ(笑)。50人くらいいたんじゃないかな? 『なんでもいいから一緒に飲んで、色々話してみましょう』みたいな感じでやりましたね。『なぜそんなにテキーラが嫌いですか?』と僕が聞いたりとか。大体みんなテキーラには苦い思い出があるので(笑)。そういう方にはお酒が悪いんじゃなくて飲み方が良くないんですよ、ということを話したりしています」

作業を終えて。この日は船が港に向けて出発するまでの約4時間作業を行なった
作業を終えて。この日は船が港に向けて出発するまでの約4時間作業を行なった

全国のいろんな場所にコミュニティが生まれていく

コロナ禍でテレワークが浸透し、デジタルツールを通して離れた距離に暮らす人々とも気軽にコミュニケーションを取れるようになった現代。「原点回帰」メンバーには日本だけでなく海外から参加している人もいるのだそう。

「まだ自然農法を始めたばかりなので売るほどの量まではないですけれども、土地によって育ちやすい作物は違うので、『全国にいるメンバーそれぞれが収穫したものをメンバー間で送りあって食べたりとかできたらいいよね』という話をしてますね。安心して食べられるものが全国に増えていくといいなと思っています」



そして「原点回帰」はこの秋に新しくメンバーを募集する。

「この山口県の島で畑ができることになり、さらにもう一つ大阪の方で畑ができる場所が見つかったので、西日本、九州、四国、中国地方に住まれている方で一緒にやっていただける人たちに集まっていただけたら、より畑とかいろんなことができるようになるなと思って。それで今回第三期メンバーを募集させていただきます」

「僕が達人たちから学び、それをシェアすることでみんなが生きるために助け合うという状況が作れたら」と山田さん。

「僕らはいま人の作った社会で生きているんですけども、それよりもまず先に、それぞれが一つの生命体として地球の上で生かさせていただいているということを常々実感しながら生きていくことが大事だと思っていて、それは忘れちゃいけないことだと思っています」

『原点回帰』

第三期応募期間:2021年11月6日(土) 〜16日(火)。応募に必要な書類などを添え、「原点回帰」(https://about.gentenkaiki.jp )からアクセス。
本件に関する問い合わせ:株式会社 原点回帰
担当・伊月(イヅキ) mail:izuki@gentenkaiki.jp

【山田孝之さんインタビュー】
山田孝之「最終目標は“理想の島探し”。僕も学べて、共有する場所を作りたい」

編集者/コンテンツプロデューサー

編集者としてのキャリアは出版、web合わせて約30年。雑誌「東京ウォーカー」「九州ウォーカー」、webメディア「Yahoo!ライフマガジン」など雑誌・webメディアの編集長を歴任。街ネタやおすすめの新スポットなどユーザーニーズを意識した情報を、それらの合わせ持つストーリーと共にお届けします。

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