山田孝之インタビュー「安心で栄養価の高い野菜をいろんな人に食べてもらいたい」
【山田孝之さんインタビュー】
俳優としてテレビや映画など数々の作品で活躍する山田孝之さんが「生きるスキルを身につけたい」と始めたコミュニティ『原点回帰』。
2021年4月からメンバー募集を始めた『原点回帰』は約1年と4か月が経ち、活動の一環として現在日本各地の畑で野菜作りを実践している。
筆者はことし3月に佐賀県・神埼を訪れ、山田さんや『原点回帰』のメンバー(帰人メンバー)が耕作放棄されていた畑をゼロから耕す様子を取材させていただいた。
それから5か月が経ち、いよいよ野菜を収穫できるようになったと連絡をいただき、再び佐賀の畑を訪ねた。
『原点回帰』の畑を訪れるのは4回目。この日の天気はあいにくの雨。朝10時過ぎに畑に到着したとき、山田さんは畑の中でちょうど作物を収穫していた。
剪定バサミを右手に持ち、ナスやトウモロコシを収穫する山田さん。その顔は喜び、感謝、嬉しさ、優しさといったポジティブな要素に満ち溢れていた。
山田孝之さん(以下:山田さん)「嬉しいですよ。だってこんなに大きく育ってくれたから。『みんなありがとう』って思いながら収穫しています」
今回で4回目の取材ということを伝えると、「いつもありがとうございます」と山田さん。
ことし3月、耕作放棄の状態で空き地だったこの場所を友人の水原希子さんや帰人メンバーと一緒に耕し、畝(うね)作りを行った山田さん。彼が『原点回帰』を通して学んだ「菌ちゃん農法」をみんなで実践し、同じく山田さんが種苗にまつわることで学んだ“固定種”と呼ばれる種を植えていた。
あれからわずか5か月あまり、野菜たちがたくましく育っている畑の様子に正直驚いた。
山田さん「もちろん佐賀の畑はちゃんと雨が降ってくれたり、環境がいいというのもあるんですけど、何よりメンバーが素晴らしいです。毎朝仕事に行かれる前にこの畑に立ち寄って、1時間以上かけて畑に水撒きをされる方がいたり。すごく熱心な方が多くて」
コロナ禍で地方への移住というニュースを見るようになって久しいが、今回九州・佐賀の帰人メンバーと話してみると、東京から佐賀や福岡に移住して、『原点回帰』メンバーに入ったと言う人たちがいた。
山田さん「最近では、ジェニファーというドイツ在住の方で『いずれ日本に行くから』ということでドイツにいる段階でメンバーに入ってオンラインで参加する方もいます」
農業未経験者たちが作った野菜たち
ナス、ゴーヤ、トウモロコシ、ニンジン、野菜を入れるカゴには次々と採れたての野菜たちが運ばれてくる。大豊作だ。ちなみに、九州・佐賀の畑を担当する帰人メンバーは農業未経験者ばかり。
山田さん「僕らが農業を学ばせてただいている『菌ちゃんふぁーむ』の吉田俊道先生に『原点回帰』メンバー用に講演をしていただいていて、メンバーそれぞれに知識を蓄え、全国で実践しているんです」
山田さん「佐賀は畑を管理してくれてるメンバーの方が庭師さんなので、お仕事柄、草とか枝といった有機物が出るんですよね。それをどんどん畑に持ってきて土に入れているんです」
草や木といった有機物を畑に入れることで、糸状(しじょう)菌が増え、作物を作るのに適した土地になるのだそう。
山田さん「普段、僕らは竹を焼いて作った竹炭を使って畝を作っているんですね。佐賀の畑では竹炭は使わず、ススキとかの草を大量に入れて畝を作ったんですが、竹炭を使わなくてもここまで作物ができるってことがわかりました」
移住先の沖縄でも畑作りを実践中
ことし本格的に沖縄県に居を構えた山田さん。沖縄では自分の畑を作り、そこで畝を作っている最中なのだと言う。
山田さん「僕も沖縄の方でいま土を作っているんです。沖縄は粘土質な赤土なんですが、元々竹が全然生えてないんですね。北部とか国立公園の方に行くとあるんですけど、3センチ、4センチとかの細い竹ばかりで。なので竹炭を用意できないって一時期ちょっと焦ってたんです」
今回、佐賀の畑で竹炭を使わなくても作物ができることがわかった。
山田さん「沖縄は半年間夏が続くので、ススキが刈っても刈っても生えてくるから『もうススキを入れ続ければいいや』って思っています。とりあえず5、6畝ぐらいだけですけど、ススキを入れて、水かけて、マルチかけて。それを7月にやったところですね」
『原点回帰』で山田さんに話を聞かせていただくのはこれで4回目だが、回を重ねるごとに山田さんの表情は穏やかに、自信に満ち溢れている。自分の好きなことについて嬉しそうな顔で話せるのは羨ましく感じながら話を聞いていた。
来年のNHK大河ドラマへの出演も発表されるなど、ことしは映画やドラマの撮影が複数入っているとのことだが、どれくらいの頻度で沖縄に帰り、自分の畑を手入れしているのだろう。
山田さん「8月はドラマの撮影が入るので沖縄には3日間しかいれないですね」
沖縄に建てた新居に欲しいもの
沖縄で家族と過ごす貴重な3日間の予定を聞いてみた。
山田さん「釣りに行きます。沖縄にいるときは毎回行ってるんですよ。沖縄に移住して、ようやく家が完成したので色々と買い揃えたいなと思ってます」
ちなみに、「沖縄の自宅にどんな素敵な家具を揃えるのだろう?」と思って何を買うのか訊ねてみた。
山田さん「マイナス60度の冷蔵庫とか(笑)。釣った魚を保存したくて」
そのブレない答えに、メモを取りながら嬉しくなった。
山田さん「真空パックの機械も買いましたね。自分で釣ったカンパチとかイカとかをさばいて、真空パックしてマイナス60度の冷凍庫へ入れておけばだいぶ持つので」
山田さんは、息子をよく釣りに連れていくという。
山田さん「息子も魚を釣って楽しいんですよ。楽しいんだけど、釣った後に『帰って食うぞ』って言ったらたら『僕いらない』とかって言うんです。『もう死んじゃってるからそれはダメ、食べなきゃいけない』『食べないんだったら釣ってすぐリリースするか、もう釣っちゃダメ』と話してます」
山田さん「『俺が捌いて調理もするから食べなさい』と言っています。最近の言葉では食育って言うんですかね。息子には『野菜も生きてる、種から大きくなるわけじゃない。野菜には目も口もないし手も足もないけど、でも同じ全部生き物だから。それをいただいてお前の体ができてるんだから、感謝していただきなさい』と、そこはちょっと口うるさく言ってますね(笑)」
いつからそんなことを意識するようになったのだろう。
山田さん「やっぱり『原点回帰』を始めてから、特に僕の意識もそうなってきたと思います」
『原点回帰』がスタートして一年半。このコミュニティを通していろんな人と出会ったことで大事だと思うようになったことがあるのだそう。
山田さん「僕らは車も乗ってるしスマホも使うし、夏には家でエアコンもつけるという状態の生活の中でですけど、、、(しばし黙考)。野菜を育てるとか、魚を釣るとかっていうことよりもっと先というか、もっと元の部分が大事。人とのつながり、助け合いや思いやりっていうところが一番大事だと感じますね」
「いずれ食糧についての問題は確実に来るんじゃないかと思っています。でも、『原点回帰』の活動を通して、そのことへの答えが超シンプルになりました」と山田さん。
山田さん「例えば、1万円持っているとするじゃないですか。『でも、それ食えないじゃん』それだけです。頑張って働いて1万円を手に入れて、いまは1万円の価値のものを買えるけど、ものが買えなくなった時にその1万円札は食えない。でもニンジンとかは食える」
山田さんが食事をする際に考えていること
今回の収穫イベントで出される料理を食べる際、一人手を合わせる山田さん。どんなことを考えていたのだろう。
山田さん「以前インタビューをしていただいたときにも『いただきます』の話しをしましたけど、最近はもっと具体的になってきていて。『いただきます。海と空と山と大地と太陽の光、雨の恵み、風のチカラ、植物たち、昆虫たち動物たち海の生物たち、人間、もう全て、全て全てに感謝していただきます。ありがとう』みたいな感じになってます」
「佐賀の畑で採れた野菜はえぐみがなくて美味しい」と山田さん。
山田さん「ゴーヤなんか、僕も沖縄に住んでいるのでよく食べますけど。ゴーヤは塩で揉まないと苦くて食べられないだろうって思ってたんですけど、今日は収穫したものは塩揉みしないで炭で焼いただけなのに、えぐみもなくて美味しかったですね。ゴーヤは苦い方が体にいいって思って食べてたけれど。今回収穫した野菜はどれもえぐみがないですね」
『原点回帰』で作った野菜を全国のいろんな人に食べてほしい
「菌ちゃん農法」で畑を耕し、栄養価の高い野菜が採れるようになった。次のステップについて山田さんはどんなことを考えているのか訊ねてみた。
山田さん「ずっと考えてますね。もちろん、収穫とした野菜を売るってなると結構大変じゃないですか。いまは僕の知り合いでも飲食をやってる方が『原点回帰』の存在を知っていてくれてるので『固定種の無農薬野菜を自分の店で使いたい』という話をいただいているんです。『このお店に行けば、原点回帰の野菜が食べられますよ』っていう方がみんながスムーズに動けるかなって考えていて」
山田さん「実際、こうやっていろんな畑でいろんなものが収穫できるようになってきていて。日本のいろんな場所に増えてきた『原点回帰』の畑で、それぞれ何を育てるのがいいのかということもちょっとずつ見えてきたので。どこ畑の何をどのお店に卸すみたいなこととかが少しずつできていけたらいいなっていう感じですね」
山田さん「今日の収穫イベントに参加されているシェフは北九州で『BEKK』というイタリアレストランをやっている方ですけど、『原点回帰』で自分も野菜を育てているんで、それをお店で使いたいと言われてます。今日だってあれだけトウモロコシが採れていますが、食べきれないからお店に持って行ってもらって、夏のいまはトウモロコシの冷製スープなんか作ったら最高なんじゃないですか」
山田さん「自分達で作った野菜を自分達で共有するっていうことも重要ですけど、この『菌ちゃん農法』がもっと広がったらいいのになっていうのは最初からあるので、その良さを知ってもらいたい。『固定種を植えて無農薬で育ててるのね』と知ってもらえたとして、そうやって育てられた野菜を『買ってみよう』ってまで行く人って、たぶん相当数が減ると思うんです」
山田さん「でもレストランでそれらの野菜を使ったメニューが食べられるってなったら、『じゃあ食べに行ってみよう』、食べてみて『確かに美味しい』って思ってもらえたら、そこからでいいと思うんですよね」
『原点回帰』のメンバーが育てた固定種、無農薬の安心安全な野菜を飲食店に卸すことで、その店の集客にもつながる。山田さんはサーキュレーションエコノミー(循環型経済)を目指している。
山田さん「『原点回帰』を運営するためにはお金がかかったり、帰人メンバーも体験と学びをしたいということでお金を払ってこのコミュニティに参加しているわけで。『原点回帰』の野菜をお店に卸すことでお金が動いてきたら、それをみんなで循環できるようにしていけたらいいなと思ってます」
『原点回帰』第5期メンバーを募集
野菜を作り、それを広めていくという次のステップに進み始めた『原点回帰』。現在、第5期メンバーを募集中だ。
山田さん「いま、いろんな畑をそれぞれ管理してるメンバーから『男手が欲しいです!』みたいなことを言われてるんですね。埼玉とか愛知とか」
意外にも現在は女性メンバーの方が多い。
山田さん「愛知県の畑は女性4人でやっていて、人手が足りてないんですよ。二反(600坪)近くある広い畑なので、愛知エリアも一緒に畑をやってくれるメンバーを募集しています。『原点回帰』は生きるスキルを身につけることを目的としたコミュニティで、畑をやるだけの集まりじゃないからですね。畑には来ない人もいるんですよ。オンライン上で楽しむっていう人とか、海外在住で来れない人もいますし」
『原点回帰』の畑は佐賀以外でも、現在は日本のどこに畑があるのだろう。
山田さん「埼玉、千葉、山梨、愛知、石川、大阪、山口、福岡、鹿児島、沖縄ですね。原点回帰のメンバーが『ここにも畑があります』っていう風にどんどん見つけてくるので」
山田さん「『原点回帰』を通して人の思いやりだとか助け合いだとか、そういうことが大事だということにどんどんどんどん気付けてきました。こういう収穫イベントでは、みんなお子さん連れてきて土を触らせるってとってもいい経験じゃないですか。今日は3歳の男の子に『あれニンジンだよ』と教えてあげたんですが『どれ?』ってわからないんですよね。オレンジの部分は土の中で見えてないから。『あの細い葉っぱのやつがニンジンだよ』って教えてあげて。スーパーでは葉っぱが切られて綺麗に洗って売られているから。子供はあまり見たことがないですよね」
最後にこれまでの『原点回帰』の活動を通し、いまどんなことを考えているのか教えていただいた。
山田さん「いまの世の中ではお金っていうものがどうしても付いてくるから必要ではありますが、じゃあお金がないと生きられないのか?って思うんです。『原点回帰』の活動を通して得た仲間達がいると、『お金がないから生きていけない』とはもう思わなくなりました。『原点回帰』のメンバーはみんなそう思ってると思います」
※感染症対策を十分に行った上で撮影をしています。
『原点回帰』 第5期メンバー募集
期間/2022.8.10〜8.24 (水)
応募に必要な書類などを添え、「原点回帰」(https://about.gentenkaiki.jp )からアクセス。
問い合わせ:株式会社 原点回帰
担当・伊月(イヅキ) mail:izuki@gentenkaiki.jp