国会はあってなきがごとしの平成の終わり
フーテン老人世直し録(408)
極月某日
10月24日に召集された197臨時国会は、12月8日の午前4時過ぎに参議院本会議で外国人労働者の受け入れ拡大を図る入管法改正案を可決成立させて山場を越えた。会期延長をすることもなく予定通り10日に閉幕する。
将来の国の姿に大きく影響する改正入管法は、具体的中身をこれから政府が作成するというのだから、まず国会に白紙委任状を出させ、それから政府が思い通りに国の姿を描こうとするものである。
政府が作る法案は、条文の字句の一つ一つを吟味していかないと、拡大解釈されたり、落とし穴があるもので、下手をすると法律の謳い文句で国民を騙し、政府が恣意的に運用する恐れもある。
それをチェックするために、これまではまず与党が政府に説明をさせて事前審査を行い、与党が了承しなければ国会に提出することが出来なかった。与党の了承が得られてはじめて法案は国会に提出され、そこで今度は野党のチェックを受けるのである。
事前審査の段階は公開されず、国民に公開されるのは国会に提出された後の段階である。そして議院内閣制では国会で多数を占めるのが与党なので、事前に与党が了承したものはほぼ確実に成立する。
つまり国民が国会で見ている法案審議は、成立を前提にした最後のチェックを受けているところである。そこでは多くの時間が「質疑」に当てられる。「質疑」とは法案の字句の一つ一つを吟味することで、説明のつかないことが出てくれば、法案は撤回や修正に追い込まれる。あるいは「付帯決議」と言って国会が法案の運用に注文を付けることもある。
ところが改正入管法はそもそも法案の枠組みが示されただけで具体的中身は省令で決めるとされた。省令とは各役所の大臣が発する命令で法律より格下である。法律のように事前に与党や国会からチェックを受けることも、罰則や義務が課されることもない。
具体的中身が省令で決まるのだから国会で「質疑」をする意味がない。何を聞いても「これから検討する」という答えしかない。審議時間が短いという批判もあるが、与党が了承してしまった以上、意味のない審議が続くだけだ。フーテンは移民制度に反対の多い自民党がよく了承したとそのことに驚いている。
改正入管法の成立は、具体的中身を与党の事前審査も野党のチェックも受けることのない法律が成立したことを意味する。しかも法律の施行は来年4月1日と期日が明示された。大島衆議院議長の取り計らいでそれまでに法律の詳細を国会に報告することになっているが、施行までにチェックする時間はなく、見切り発車になると予想される。
なぜこれほどまでに急ぐのか、菅官房長官からの強い進言とか堺屋太一氏の要求など諸説あるが、フーテンはそれだけではない「何か裏がある」と前に書いた。まだ裏が何かは読み切れていないが、それにしても国会があってなきがごとしのこの改正入管法の成立は歴史的な出来事だと思う。
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