ゴーン容疑者らの保釈は何を意味するか
フーテン老人世直し録(411)
極月某日
東京地方裁判所は20日、検察側が求めていたカルロス・ゴーン前日産会長とグレッグ・ケリー前日産代表取締役の拘留延長を却下する決定を下した。2人の容疑者は保釈される可能性が出てきた。
フーテンはこの特捜部の逮捕について数々の疑問を呈してきたが、その立場から言えば日本の司法は遅ればせながらまともな対応をしたことになる。しかしメディアは「東京地検特捜部の拘留延長請求が認められないのは極めて異例」と報じた。フーテンの考える「まともな対応」が「極めて異例」と報道されるところに日本の司法の問題がある。
この事件は、ゴーン容疑者らが2010年から15年までの5年間の有価証券報告書に報酬を過小に記載したという金融商品取引法違反容疑で逮捕したものである。有価証券報告書はゴーン容疑者らが記載するのではなく、日産という会社が作成するのであるから、日産自体が罪に問われるべき事件である。
それが日産からの内部通報で特捜部が動き、司法取引をすることで日産の罪を減じ、ゴーン容疑者らだけを摘発対象にした。そもそもゴーン容疑者らが日産の利益に反することをしたのなら、まずは内部で是正するのが当然である。それを初めから検察の力を借りたところに異常性がある。
従ってフーテンは日産の大株主であるルノーの筆頭株主がフランス政府であることから、フランスのマクロン大統領が日産をルノーの完全子会社にしてフランスに工場を作らせ、雇用と税収を上げようとした計画を阻止するための事件だと考えた。
しかし民間企業に過ぎない日産がフランス政府と渡り合える力があるはずはない。そこで経済産業省を中心に日本政府がバックとなり、東京地検特捜部を動かしてゴーン追放とマクロン大統領の計画阻止を狙ったとみていた。
有価証券報告書の虚偽記載で特捜部が動くというのも異例である。東芝は原発事業から生まれた赤字を株主に隠し、利益があるように見せかけた有価証券報告書を作成して株主を騙してきた。騙した金額は2000億円といわれる。ゴーン容疑者らの虚偽記載とはけた違いの数字だが、東京地検特捜部はピクリとも動いていない。
なぜなら東芝は原発を手掛ける企業で東京電力と同じ性格を持っている。経済産業省がすべてを取り仕切る安倍政権にとって、守るべき対象だからである。今回のゴーン追放劇はそれとは逆にマクロンの計画阻止を国益と考える安倍政権が背後で支えたと考えれば、特捜部が動いたことも納得できる。
しかし「日仏戦争」ともいえる自動車の覇権争いを安倍政権の判断だけで決断できるか。フーテンはそれよりも強い権力の存在を感じていた。それは米国が日本の捜査当局を動かして米国の利益を図ろうとしたのではという疑問である。
米国にとって日本の自動車産業は貿易赤字を生み出す目の敵である。オバマ政権はブレーキの不具合を理由にトヨタを狙い撃ちにし、散々叩いた後になって不具合は嘘だったことを認めた。えげつないことを平気でやる米国は、日産がフランスの支配下に入ることを恐れ、日産を米国の利益のために利用しようとしているのではないか。
マクロンはドイツのメルケルと並んでトランプには目の敵である。独仏両国は欧州軍を創設して米国からの自立を図ろうとし、さらに両国は中国と良好な関係を築いている。トランプには許し難い存在だ。ゴーンがマクロン計画を承認し、さらに中国市場を重視すれば米国の敵になる。それがこの事件の背景にあるとフーテンは考えた。
すると12月1日、米国は中国の通信大手である華為技術(ファーウェイ)の副社長をカナダの空港でカナダの捜査当局に逮捕させた。カナダのトルドー首相は直ちに「米国の要請に従っただけでカナダ政府は関与していない」との声明を出した。中国のIT技術が世界を支配することを恐れる米国は、他国の捜査機関を利用して逮捕劇を世界中に見せつけ、中国製品の締め出しを狙ったのである。
米国は正々堂々と技術競争に勝ち抜くのではなく、情報が盗み出されることを口実に、如何にも犯罪のように思わせているが、米国がいかに他国の情報を盗んでいるかはロシアに亡命した元CIAのスノーデン氏が暴露している。自分を棚に上げて他国を非難するのは米国の昔からのやり口だ。
そしてカナダの捜査当局に逮捕させたやり方は羽田空港で東京地検特捜部がゴーン氏を逮捕した時のことを思い出させた。逮捕された孟晩舟氏に対しカナダの司法当局は11日後の12月12日に保釈を認めた。今後は身柄を米国に引き渡すかどうかが焦点となる。おそらく政治的な取引がその間に行われると思う。
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