薬のシートの「ミシン目」はなぜ変わったのか? やってはいけない1錠ずつの切り離し
PTPという言葉をご存知でしょうか?
PTPとは"press through pack"の略で、錠剤をプラスチックとアルミではさんだシート状の包装のことです(上の写真参照)。
プラスチックの部分を強く押すと裏側のアルミが破れ、薬が1錠ずつ取り出せる仕組みになっています。
実はこのPTP、昔から非常にトラブルが多いことで知られているのです。
PTPには事故のリスクがある
1996年以前のPTPは、以下のイラストのように縦と横にミシン目が入っていて、1錠ずつ簡単に切り離せる構造になっていました。
ところが、現在のPTPはミシン目の入り方が変わっています。
お持ちのPTPを見てみてください。
ミシン目は、縦か横の一方向にしか入っていないはずです。
なぜ、このような変更がなされたのでしょうか?
実は、1錠単位に切り離したPTPを、そのまま飲み込むリスクがあるからです。
PTP誤飲の恐ろしさ
1錠単位に切り離したPTPを誤飲してしまう事故は後を絶ちません。
今ではミシン目がなくなっても、結局患者さんがハサミで切り離してしまうため、依然として誤飲事故が起こっているのです。
特に目立つのが高齢者の事故です。
PTPを誤飲すると、何が問題なのでしょうか?
まず、一錠ずつ切り離されたPTPは、角が鋭利です。
そのまま飲み込むと喉や食道などが傷ついて出血したり、胃や十二指腸に孔(あな)が空いたりしてしまい、手術が必要になるケースもあります。
本人や家族が誤飲したことに気づけば、病院で内視鏡(胃カメラ)などを用いて取り出す処置を受けることになります。
しかし問題は、本人はいつも通り薬を飲んだつもりでいて、誤飲したことに気付きにくいということです。
しばらく日が経ってから、
「どうも体調がすぐれない」
「胸やお腹に痛みや違和感がある」
といった症状で受診しても、誤飲のエピソードを聞かされない限り、医師もなかなかその原因に気付けません。
PTPの素材はレントゲンでも写りにくく、たとえ検査をしても発見されにくいからです。
そして、発見が遅れると重症化してしまう恐れがあります。
では、事故を防ぐためには、どんな対策をすべきでしょうか?
誤飲事故を防ぐ方法は?
当然ですが、「PTPを1錠ずつに切り離さないこと」を徹底するのが最も有効です。
とはいえ、1日にたくさんの種類の薬を飲まねばならない高齢の患者さんにとって、薬の管理は大変です。
飲み忘れがないよう、朝・昼・晩と飲む薬を区別したり、日付・曜日ごとに必要な薬を分けて収納したりしたいと考えるのは当然で、1錠ずつ切り離したくなるものです。
また外出の際も、1錠ずつだと持ち運びがしやすいと考える患者さんもいるでしょう。
その場合は、「一包化」という方法がお勧めです。
一包化とは、1回分ずつの薬を小さな袋で包装された状態でもらう方法です。
もちろん、中には一包化できない薬もあります。
希望される場合は、一度、医師や薬剤師に相談していただければと思います。
ただし、一包化にも欠点があります。
PTPがないため、何の薬を飲んでいるかが分かりにくくなるのです。
錠剤やカプセルだけを見て、色や形から薬の名前を想像するのは極めて困難です。
医師に一包化された薬だけを見せても、内容を正確に分かってもらうのは難しいでしょう。
必ずお薬手帳や薬の説明書を保管し、「袋の中に何の薬が入っているか」をすぐに参照できるようにしておかねばなりません。
また、薬の処方に変更があった場合(種類が増えたり減ったりなど)、調整がしにくいという欠点や、薬局で一包化するために待ち時間が長くなる、といった欠点もあります。
医師や薬剤師とよく相談の上で、採用すべきかどうかを判断していただきたいと思います。
また、飲み忘れを防ぐ方法としては、PTPシートに直接日付を書き込むのも有効です。
薬の知識を分かりやすく紹介する漫画「マンガでわかる薬剤師」の作者、油沼さん(@minddive_9)は、この方法を漫画でとても分かりやすく解説されています。
PTP誤飲のリスクを十分に知っていただき、本人だけでなく、ご家族が一緒に気を配り、事故の防止に努めていただきたいと思います。
なお、自著「患者の心得〜高齢者とその家族が病院に行く前に知っておくこと」(10月28日発売)でも、このような薬の知識、検査、診察などに関して意外に知られていない情報を分かりやすくまとめています。
ぜひご覧ください。
(参考)独立行政法人国民生活センターHP