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中国山地に残る時が止まった珠玉の木造駅舎 因美線 知和駅(岡山県津山市加茂町)

清水要鉄道ライター
知和駅

鳥取駅と東津山駅を結ぶ因美線はかつて、山陽と山陰を結ぶ「陰陽連絡線」として活況を呈した路線の一つだ。しかしながら、智頭急行線の開業や過疎化の進展に伴い、県境を挟んだ智頭~東津山間は廃止も噂されるような「限界ローカル線」になってしまっている。そんな区間の岡山県側の山間にある駅が知和(ちわ)駅だ。

駅舎
駅舎

知和駅は昭和6(1931)年9月12日、因美南線が美作加茂から美作河井まで延伸した際に開業した。当時の所在地は苫田郡東加茂村で、駅がある小渕地区は明治の町村制までは苫田郡小渕村だった。東加茂村は昭和17(1942)年5月27日に加茂町・西加茂村と合併して加茂町となって消滅している。余談だが、西加茂村は昭和13(1938)年5月21日に起きた津山事件(八つ墓村のモデルと言われる)の起きた村だ。加茂町の合併の歴史はややこしく、昭和26(1951)年1月1日に合併前の加茂町が分離して苫田郡新加茂町となり、昭和29(1954)年4月1日に再び合併するまでは加茂町(東加茂村+西加茂村)と新加茂町(旧:加茂町)が存在していた。加茂町は平成17(2005)年2月28日に津山市に編入されている。

駅舎内
駅舎内

知和駅の駅舎は開業時のもので、今年の9月で93年を迎える。昭和45(1970)年10月1日に無人化されてから55年近くが経とうとしているが、無人化で不要となった窓口跡などが塞がれたり撤去されることなく美しい状態で残っているのがこの駅の特徴だ。改修でアルミサッシにされてしまうことが多い窓口や引き戸なども原型で残されている。しかも一度はアルミサッシに交換した窓枠を木製に戻すこだわりぶりだ。国内に残っている現役の木造駅舎の中では一、二を争うくらい原型に近い木造駅舎だろう。惜しむらくは破損防止のためか引き戸が固定されてしまっていることだ。

改札口
改札口

改札口には木製のラッチが鎮座している。有人駅だったころはここに駅員が立って切符を検札していたのだろう。そのままでも昭和が舞台の映画を撮れそうな雰囲気だ。

事務室
事務室

有人駅時代には駅員が詰めていた事務室もほとんどそのままだ。黒板の文字を見るに地元住民の集会所として定期的に使われているのだろう。

駅舎(ホーム側)
駅舎(ホーム側)

そのままでも絵になる佇まいの知和駅。意外なことに映画のロケ地として使われたことはない模様だが、漫画『のんのんびより』には登場しており、駅ノートには聖地巡礼に訪れたファンの書き込みも見られる。ただしアニメの方には知和駅は登場しておらず、只見線の柿ノ木駅(廃止)が登場している。

ホーム
ホーム

駅舎とホームは少し離れており、そのためか、この規模の駅には珍しくホーム上にも待合室が設置されている。ホーム上の待合室も古いものだがこちらはかなり改修されており、扉や窓枠もアルミサッシだ。

到着した智頭行き
到着した智頭行き

知和駅に停車する列車は一日わずか6往復。津山方面は8時51分の次が13時38分、智頭方面は7時21分の次が12時12分などかなり列車の間隔があく時間帯もあるため、列車での訪問は容易ではない。乗り通すことすら簡単ではない因美線だが、それゆえにこそ列車の組み合わせを工夫して知和駅に降り立ってみれば、達成感もひとしおだろう。

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鉄道ライター

駅に降りることが好きな「降り鉄」で、全駅訪問目指して全国の駅を巡る日々。

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