宮迫博之の地上波復帰消滅の疑問、元テレビ制作者への取材で見えた問題点と「宮迫側、テレビ局側の言い分」
元雨上がり決死隊でタレントの宮迫博之が5月28日、自身のYouTubeチャンネルで約5年ぶりに地上波テレビ番組へ出演することを報告した。
ところが、出演予定だった番組『タレント育成バラエティ―匠の教室―』の放送局である千葉テレビ(チバテレ)は「当番組の放送の予定はありません」と否定し、収録回は“お蔵入り”することになった。
宮迫博之側は「6月3日出演」と主張するも、千葉テレビ側は否定
宮迫博之は『匠の教室』の6月3日放送回にゲスト出演する予定だったとアナウンス。同番組の公式ホームページにも「6月3日 第9回の放送!ゲストとして宮迫博之さんが出演いたします」と明記されていた。
しかし各メディアの報道によると、千葉テレビ側は番組の制作会社によって収録がおこなわれたことを認めながらも、関係者は同放送回の出演者と企画内容について事前に「聞いていなかった」としている。
加えて、宮迫博之が同放送回を“フライング告知”したことが局内で戸惑いを生んだとし、制作会社に事実確認。その上で、千葉テレビ側は5月30日に文書で「放送される番組の内容は事前に当社内で審査をしております。外部の制作会社が制作する番組については、番組の内容や出演者などを事前に通告していただき、当社内にて協議した上で制作していただくことを関係各社にお願いしております」と説明。さらに、テレビ局側は宮迫博之がYouTubeチャンネルで事前告知することなども伝わっていなかったとしている。ちなみに番組のホームページも制作会社が運営しているとのことだ。
“ハレモノ”を扱う上で、テレビ局に話をまったく通さず収録する状況はあり得るのか
それにしても番組放送日まで1週間を切った段階で、片や「出演している」「放送される」、片や「放送予定はない」と主張が食い違うことは起こり得るのだろうか。その点について元テレビ制作者に取材をおこなったところ、「私も聞いたことがない出来事です」として見解を語ってくれた。
元テレビ制作者がまず疑問視したのは、テレビ局側が「出演者や企画の内容をまったく知らないまま話が進んでいた」と声明を出したところ。
「千葉テレビがどういった体制で各番組を作っているのかは分かりませんが」と前置きした上で、「たしかにテレビ局側から番組制作を依頼されている制作会社が主導権を握って番組を作ることはあります。それでも基本的な流れとして、テレビ局内に企画内容がまったく通っていない状況で収録から放送告知まで持っていくというのは、私の経験上ではちょっとあり得ません。言い方は良くないですが、“ハレモノ”として扱われているタレントさんを出す場合は制作会社としても特に慎重になりますし、局の上層部やコンプライアンス部門が目を光らせることも分かっている。よほどイケイケな番組制作者なら独断でやっていく可能性もあるかもしれませんが…。『匠の教室』はTKOの木本武宏さんが出演するなど攻めたキャスティングをしていますが、それでもさすがに宮迫さんとなれば、かなり有名な方でもありますし、世の中の注目度も考えると事前になんらかの話を局に通すのは当たり前。なにもなく収録するのは想像できない。番組を作っていたのが外部の制作会社とは言え、テレビ局側が『事前にまったく聞かされていませんでした』は無理がある気もします」と首をひねる。
ちなみに番組を作るにあたって、プロデューサーという立場は2種類存在するという。一つは現場などの演出面を取り仕切る制作側のプロデューサー、もう一つがコンプライアンスなどをチェックするテレビ局側のプロデューサー。本来であれば企画段階含めてこの両プロデューサーがやりとりをおこなう。番組制作を進行させて良いかどうかは、局内のプロデューサーの判断が重要で(ただ「制作側がベテランのプロデューサーの場合はパワーバランスがそちらに傾く場合もある」という)、そのテレビ局側のプロデューサーが上層部などにも折り合いをつけていく。
また元テレビ制作者曰く「制作会社が直接、自分たちでカメラマンや機材を手配することはあります。一方で普通の流れなら、局の制作部に『この日、これだけの数のカメラが入ります』『ピンマイクはこれだけ用意します』などの話を通したり、申請を出したりします。そこで『この日はこういうゲストを撮ります』と伝えたりします。自分が携わっていたテレビ局はそうでしたし、そういった項目を書いてテレビ局関係者も確認できるようになっていました。もちろん局や番組規模によって異なるところはあるはずですが、でも通常の流れなら『この番組は、この日に、こんな人を撮るんだな』とかなりの関係者が事前に知っていることが多いです」と明かす。
千葉テレビ側の「出演者を聞いていなかった」という理由も納得できる部分はある
元テレビ制作者は、千葉テレビ側が「話を聞いていない」とした理由についても「思い当たることがある」とする。
ポイントは、5月31日に投稿された宮迫博之のYouTubeチャンネルの動画内容だ。同動画では、今回の番組プロデューサーで、番組制作を担当した会社・タレントボックスに所属する“高島さん”(註1)が登場し、“お蔵入り”の経緯を説明した。
註1:“高島さん”の高は正しくは「はしごだか」
元テレビ制作者は、タレントボックスの本業が「芸能タレントコミュニティの運営企画」であるところに着目。その場合、番組制作自体はさらに外部のプロダクションへ委託している場合があるという。タレントボックスに番組を企画・制作する能力があればディレクションや演出は自社でおこなって、撮影などの技術チームは外注する。ただし企画・制作の能力がなければすべて外注ということになる。
そうなってくると、前述したようなテレビ番組では当たり前とされる制作プロセスに“抜け”が出てくることも考えられるそうだ。もし演出やディレクションをするチームが外注である場合は、千葉テレビ側の最終決定が出ていない状況のなか、タレントボックスの指示のもとで制作の作業だけがどんどん進行していき、番組が完成したものの、テレビ局側の最終決定によって“お蔵入り”という可能性も「なきにしもあらず」というわけだ。その“抜け”がたくさんあればあるほど、千葉テレビ側の「聞いていない」「知らなかった」という言い分も信ぴょう性が増すそうだ。
5月31日の投稿動画をさらに検証してもらうと、「番組の収録を4月23日におこない、5月13日にコンプライアンスの会社に番組を納品。高島氏側には同月22日の時点で同局に納品が完了したとなっています。まずコンプライアンスのチェックを千葉テレビが自社でやっていないことにびっくりするのですが、ともあれ、そこの考査は通って千葉テレビ内で最終チェックをした結果、不都合が見つかって放送できなくなったという流れが濃厚です」と分析。
そうなると「余計に『なぜ“お蔵入り”なのか』となるのですが、その点は千葉テレビがきちんとしたコメントを出していないので、なんとも言えないですね」と不可解な点が残るという。
元テレビ制作者「根本的に番組制作の体制自体に問題がある」
また元テレビ制作者は「そうであっても、タレントボックスと千葉テレビがもっと密にやりとりしていれば、こんな騒動は起こらなかった」とする。
「たとえば、台本作成の流れ。私は料理番組の制作に携わっていたことがあるのですが、『こういうシチュエーションならこういう料理を作る』とかの企画なら、出演者になにを作ってもらうか10案くらいこちらでまず考えるんです。そこから5案くらいに絞って台本作成に取り掛かり、できあがったら番組のディレクターや上の立場の方にチェックしてもらい、大きい番組ならさらに番組の作家たちで読み合わせがあって、そして番組のプロデューサーがまた確認する。続いてコンプライアンスのことだったり、『この料理は体に良いとうたっているけど、薬事法的にそれは違う』ということだったり、いろんな指摘が入る。そこまでやってゲストの手に台本が渡って、収録まで持っていけるんです。ですので、その段階までテレビ局側の関係者が一人も出演者や企画内容を知らないだとか、最終的に“お蔵入り”になりましたとかは、根本的に番組制作の体制自体に問題や改善点があると言えます」。
宮迫博之の“フライング告知”と報じられている部分については、「宮迫さんがどんな人間性なのかは分かりませんし、宮迫さんの仁義の切り方が間違っていた可能性も考えられる」としながら、「宮迫さんをかばうわけではないですけど、番組のホームページでも告知されているのだから、『何月何日に告知解禁しましょう』という話があった上で『地上波復帰』と発表しているはず。さすがにそこはちゃんとやると思うのですが。ですので、宮迫さんに対して“フライング告知”と責めるのはかわいそうな気がします」と理解を示した。
なににせよ宮迫博之側、制作会社側はある程度、ゴーサインをもらったという認識のなかで収録をおこない、完パケされ、さらに告知まで持っていったと推察できる。制作会社側に“抜け”があった可能性もあるが、少なくとも宮迫博之はこの件については大きな非はないのではないだろうか。
元テレビ制作者は「間違いなく言えるのは、各部門の責任者たちの連携がしっかりとれていなかったこと。あと、もしかすると局の上層部が、できあがった内容を観たり、宮迫さんが出演告知をした際の反響やリアクションを知ったりして、怖気づく部分があったのかも。やはり放送直前にこういう事態は、本来はあり得ませんから。そうなったとき、テレビ局側としては『放送予定はありません』とアナウンスするのが、話をまとめるためのラインとしては良いのかもしれません」と語ってくれた。
テレビ番組の制作の仕組みや段取りについて取材すればするほど、同件は特殊なケースであると思えた。当記事では、テレビ制作者の目線で「話が通っていないはさすがにないのではないか」という内容となったが、実際にテレビ局側は「知らなかった」かもしれない。どちらが正しいか、間違っているかは判断できない。
重要なのは、元テレビ制作者のコメントにもあるように、大きく取り扱われるニュースになったり、混乱が起きたりしたということは、やはり改善するべき問題点があったのだ。テレビが、たくさんの人が接するメディアである以上、今回の件を踏まえて見直すことがあるのではないだろうか。