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関西弁でトレンド世界1位。所属14組のドーム公演が証明する新会社STARTOの可能性。

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
(出典:STARTO ENTERTAINMENT)

4月10日に本格的に始動したSTARTO ENTERTAINMENTが、所属する14組が参加するドーム公演を大阪でも2日間にわたって開催し、様々なニュースになっています。

King & Princeの永瀬廉さんが耳のケガにより出演ができなくなるという残念なニュースもありましたが、その穴を他のメンバーが埋めるステージで、たくさんのファンが満足した2日間になったようです。

このライブは、4月10日に東京ドームで開催された初ライブの関西版になりますが、今回のSTARTO ENTERTAINMENTの大阪公演で注目したいのは、様々なSNSやデジタルを組み合わせた新しい挑戦がされていた点です。 

チャリティソングの一曲無料生配信を実施

まず、大阪の初日である5月29日において注目したいのは、20時にチャリティソング「WE ARE」のパフォーマンスのみ、YouTubeでオープンに生配信された点です。

(出典:WE ARE! 公式SNS)
(出典:WE ARE! 公式SNS)

有料でチケットを販売しているライブの一部を、無料でみられるYouTubeで配信するというのは、通常のライブでも珍しい取り組みだと思います。

この一曲無料生配信が告知されたのは、ライブの5日前の24日でしたが、当日は50万人以上の人たちがYouTubeに集まり、大量の歓喜のコメントをされていたのが非常に印象的でした。

この「WE ARE」は、能登半島地震で被災された方々のためのチャリティソングという位置づけであることもあり、今回の一曲無料生配信という判断をされたということのようです。

ライブ開始前の写真撮影を解禁

さらに29日のライブにおいては、ライブの開始前まで場内の様子を写真に撮ってSNSにアップしても良いというアナウンスがされていたようです。

その結果、29日のライブにおいては、ライブ開始直前に多数のSNS投稿が実施されることになります。

「#WEARE」の投稿数推移(出典:Yahoo!リアルタイム検索)
「#WEARE」の投稿数推移(出典:Yahoo!リアルタイム検索)

最終的には前述のYouTubeライブのタイミングに投稿数がピークを迎え、公式ハッシュタグの「#WEARE」がXの日本のトレンド1位を獲得する結果になるわけです。

何しろSTARTO ENTERTAINMENT所属アーティストと言えば、Snow ManにSixTONES、なにわ男子など、冠番組を持っていたり、多数のファンがいるグループばかりですから、当然の現象と言えます。

ただ、実は4月10日の東京ドーム公演の際には、こうした事前撮影や無料生配信がなかったためか、ライブ関連のハッシュタグがトレンド1位になるような現象は起きていなかったことを考えると、1ヶ月前の東京公演と大阪公演の間で、大きな変化を生んだことになります。

こうした撮影OKの取り組みを実施したのも、上記の画像にあるように、「WE ARE」のライブ実施とともに「#頑張ろう能登」の投稿を増やす目的もあったようです。 

関西弁のハッシュタグを開始直前に投稿

しかも、STARTO ENTERTAINMENTの挑戦はこれで終わりません。

大阪のライブ2日目である5月30日のライブにおいては、有料でのネット生配信も実施しています。

この生配信はあくまで、有料の生配信ですので、29日のように無料で誰でも視聴できるものではありません。

ただ、当然京セラドーム大阪に来場している観客以外の、日本中のSTARTO ENTERTAINMENT所属アーティストのファンが視聴できることになりますので、SNS投稿をできる人の裾野も広がることになります。

そして、最大の見どころと言えるのは、ライブ配信開始の30分前の公式Xアカウントの投稿です。

それまでライブの公式タグとして使ってきた「#WEARE」と「#WEARE_STARTO」という二つのタグとは別に、いきなり「#WEARE大阪生配信やで」という関西弁のハッシュタグを投入するのです。 

関西弁のハッシュタグが世界1位に

ライブ開始直前にいきなり投稿された関西弁のハッシュタグに、ファンは敏感に反応します。

特に「#WEARE大阪生配信やで」という、関西のグループメンバーがいかにも言いそうなハッシュタグということもあり、関西のグループのファンを中心に投稿数が増加。

一気に、その日のXの世界のトレンド1位を獲得し、そのままライブの間中、1位の座を確保し続けることになります。

(出典:Twittrend)
(出典:Twittrend)

「#WEARE」の投稿数が29日と30日の2日間で13万件ほどだったのに対して、「#WEARE大阪生配信やで」は30日の1日だけで13万件を超えていると言えば、その勢いの大きさが伝わるでしょうか。

「#WEARE大阪生配信やで」の投稿数推移(出典:Yahoo!リアルタイム検索)
「#WEARE大阪生配信やで」の投稿数推移(出典:Yahoo!リアルタイム検索)

Xのトレンドは新しいキーワードほど、初速が速いキーワードほど、評価がされやすいと言われています。

また一方で最近のXでは、ライブ配信のハッシュタグを事前告知すると、偽アカウントによる偽ライブ配信に誘導しようとする詐欺投稿が大量に投稿される問題があります。

今回のSTARTO ENTERTAINMENTによる「#WEARE大阪生配信やで」の直前投稿は、トレンド1位獲得と、スパム対策を両立した見事な選択だったと言えるでしょう。

日本のファンとXのトレンドの相性の良さ

ライブ配信で世界1位を獲得したと言えば、TOBEの東京ドーム公演を思い出す方もおられると思います。

TOBEのライブは東京ドーム公演に加えてAmazon prime videoでの世界同時配信を実施し、さらにライブの前半は撮影OKでSNSも投稿可能という仕組みで世界1位を獲得していました。

参考:世界トレンド1位を成し遂げた「TOBE」東京ドーム公演は、日本のライブの「常識」を変えるか

今回のSTARTO ENTERTAINMENTのライブでは、ライブ中の撮影は写真も動画も禁止だったようですが、ライブ前の撮影と、応援のテキスト投稿だけで世界1位を獲得したことになります。

やはり日本のXの利用率の高さはもちろんですが、熱量の高い日本のアイドルグループのファンと、ネット配信のライブ観戦との相性の良さが明確になった1日だったと言えるかもしれません。

今後、STARTO ENTERTAINMENTの所属グループやファンの人たちによるSNS投稿が活性化すれば、こうしたライブ当日のトレンド入りは珍しい現象ではなくなってくることが容易に想像できます。

海外展開に向けて進むデジタルシフト

昨年明らかになったジャニー喜多川氏による性加害問題は、間違いなく所属アーティストの活動や精神状態に大きな影響を与える結果となりました。

現在も、まだ被害者の補償問題の決着がついたわけではなく、スマイルアップからSTARTO ENTERTAINMENTへのファンクラブや楽曲などの権利の移管など問題解決への途上という面があるのは事実です。

参考:初ライブが成功し、Number_iとの共演も実現。STARTO社に今後求められること。

しかし、少なくとも喜多川氏の問題から所属アーティストの活動を切り離すために、全くの別会社で新しい再スタートを切るというSTARTO ENTERTAINMENTのスキームは軌道に乗り始めているように見えます。

今回のライブの生配信やSNS投稿にみられたように、従来距離を取っていたSNS活用も着々と進化を遂げていますし、所属アーティストのサブスク解禁も進み始めています。

King & Princeの新曲「halfmoon」がサブスク解禁の好影響もあり、悲願だったビルボードの総合チャート1位を獲得したことが象徴的な出来事と言えるでしょう。

実際にAll Aboutニュースの記事によると、STARTO ENTERTAINMENT社の仕組みは芸能界でも随一の「超絶ホワイト企業」になっているという評価も出てきているようです。

参考:STARTO社は芸能界随一の「超絶ホワイト企業」に!? “攻めの姿勢”を続ける事務所の今後に注目

STARTO ENTERTAINMENTの会社としてのSNSアカウントは、まだ日本向けはYouTubeのみとなっていますが、実は海外向けのXのアカウントが4月10日に始動をしており、今回のライブの間も活発に投稿をされていました。

今年は既にTravis Japanが初のワールドツアーに挑むことが発表されていますし、少しずつSNSやデジタル解禁をしながら進化を遂げていくSTARTO ENTERTAINMENT所属のアーティスト達が、福田社長の公約通りグローバルに活動の場を広げるのは時間の問題と言えるかもしれません。

2023年は、STARTO ENTERTAINMENT所属アーティストとファンの方々にとっては本当に辛い一年であったことは間違いないと思います。


ただ、2024年は、その2023年があったからこその全く新しいスタートを切った一年として、アーティストとファンの方々が振り返れる一年になるように、彼らのこれからの活躍に注目したいと思います。

noteプロデューサー/ブロガー

Yahoo!ニュースでは、日本の「エンタメ」の未来や世界展開を応援すべく、エンタメのデジタルやSNS活用、推し活の進化を感じるニュースを紹介。 普段はnoteで、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についての啓発やサポートを担当。著書に「普通の人のためのSNSの教科書」「デジタルワークスタイル」などがある。

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