サイドバック論とウィングバック論。現代サッカーを席巻する、両翼の支配者たち。
サイドバックとは、そもそも、4バックの一角である。
右SB、右CB、左CB、左SB。このような形で4バックが形成される。その先の並びは「4−2」であれ、「3−3」であれ、変わらない。それが、基本の型だった。
しかし、現代フットボールにおいて、その常識は覆ろうとしている。
■2−3−5のシステムとブラジル代表
少し時を遡る。20世紀初頭。時代は【2−3−5】が主流だった。
ただ、そこから、時を経てサイドの選手が徐々に下がってくる。配置が低くなるにつれ、彼らのタスクは守備の比重が大きくなった。
例外的に、いや、“はしり”と言えるかもしれないが、1958年のワールドカップのブラジル代表が挙げられる。ニウトンとジャルマ・サントス、2人のサイドバックが積極的に攻撃参加するスタイルは当時、フットボール界に大きなインパクトを残したといわれている。
そして、こんにち、その比重は逆転したように見える。
サイドバックは上がる。インナーラップとオーバーラップを使い分け、コンスタントにウィングの選手をサポートする。
攻撃の局面で、サイドバックの選手は、パス、ドリブル、クロス、シュートという選択肢を持つ。また、ポケットへの侵入においても大事な役割が与えられ、時にパスでそこを攻略し、時に自らのランニングで攻め落とす。
どのプレーを選ぶか、判断が重要だ。当然、クロスの質というのは求められる。加えて、突破力、1対1の強さ、あらゆる面で能力の高い選手であることが要求される。
また、サイドバックは、サイドチェンジを受け、チームに幅をもたらす存在でもある。ウィングの選手がボールを受けやすいように、相手のマークを引っ張る必要がある。サイドバックからサイドバックにサイドチェンジ→ウィングがフリー、というシチュエーションは、現在、日常的に見られる光景だ。
■レヴァークーゼン グリマルドとフリンポン
今季、欧州で注目のチームと言えば、レヴァークーゼンだ。そのレヴァークーゼンで、アレハンドロ・グリマルドとジェレミー・フリンポンは必要不可欠なピースとなっている。
先述の通り、サイドバックの役割は、時間の経過と共に変化してきた。レヴァークーゼンでは、グリマルドとフリンポンはウィングバック。否、ウィングバックともサイドバックとも言えないポジションでプレーしている。
グリマルドは今季、公式戦37試合で11得点15アシスト。フリンポンは33試合で11得点11アシストを記録している。数字は3月のインターナショナルウィーク前のものだが、今季のレヴァークーゼンのソリッドなチーム状態に顧みて、このペースが落ちることは考えにくいだろう。
ダビド・ラウム(ライプツィヒ)、フェデリコ・ディマルコ(インテル)、ダニ・カルバハル(レアル・マドリー)…。ヨーロッパには、素晴らしいサイドバックがいる。だが彼らとて、10ゴールそこそこに絡むのが精一杯で、グリマルドやフリンポンのように20ゴール以上に絡むサイドバック/ウィングバックの選手は見当たらない。
フットボールの近代史を紐解いても、数多くない。
個人の選手でいえば、ダニ・アウベス(4得点・21アシスト/2010―2011シーズン)、ロベルト・カルロス(8得点・13アシスト/1999―2000シーズン)くらいだろう。
パレハ(2人組)で考えるなら、トレント・アレクサンダー・アーノルドとアンドリュー・ロバートソン(31ゴール演出/6得点・25アシスト/2019−20シーズン/リヴァプール)、D・アウベスとマクスウェル(30ゴール演出/2010−11シーズン/バルセロナ)、カルバハルとマルセロ(28ゴール演出/2016−17シーズン/レアル・マドリー)が挙げられる。
(全2111文字)
■グリマルドとフリンポンの特徴
スタッツ面では似通っている。だがグリマルドとフリンポンは異なるプレースタイルで、チームに貢献している。
グリマルドはテクニック、キープ力、キック精度を売りにしている。ハーフスペースで中継役を務めることができて、セットプレーのプレースキッカーとしても活躍する。フリンポンはフィジカルベースが高い。最高時速35.96Kmのスピードは、ブンデスリーガ、いや欧州随一だ。
この記事は有料です。
誰かに話したくなるサッカー戦術分析のバックナンバーをお申し込みください。
誰かに話したくなるサッカー戦術分析のバックナンバー 2024年4月
税込550円(記事11本)
2024年4月号の有料記事一覧
※すでに購入済みの方はログインしてください。