ChatGPTでよけいに仕事が増えた?「AI疲れ」するホワイトカラーの現実
AI(人工知能)が急速に私たちの生活と仕事に浸透し、その結果、デジタル化の波は新たなパートナーとしてAIを私たちの隣に持ってきた。
このAIの存在は、業務の効率化を実現し、ビジネスの競争力を飛躍的に向上させることだろう。
だが、少なからず現時点において課題は山積みだ。
実際に、ChatGPTなどの生成AIを活用して、仕事の生産性アップを命じられている現場は、どこもかしこも疲れている。
「素晴らしい可能性を秘めている!」
と、ウキウキ、ワクワクしたのは、最初の3日間ほど。多くのデスクワーカーがAIの存在に悩まされている。高度な技術を駆使したはずの働き方をめざしているはずなのに、なぜか重荷となり、疲労感を覚えているのだ。
原因は、IT化が進んでもなお、日本企業の生産性が一向に上がらないという根本的な問題点にある。
今回のコラムでは、この「AI疲れ」が起こる根本的な原因と、それにどう向き合うべきかを深掘りする。
私たちはAIと共に進化し、そしてそれを乗り越えていくべきだ。それが、真の生産性向上への道となるであろうから。
■「AI疲れ」を促す日本企業3つの原因
では、「AI疲れ」の原因とは何だろうか。私は次の3つがあると考えている。
(1)期待と現実とのギャップ
(2)使用に関する知識不足
(3)手段の目的化の悪癖
まず、過大な期待と現実とのギャップだ。AIはビジネスの効率化や生産性向上に大いに貢献する。しかしAIは、あくまでツールである。必ずしも期待通りにはならない。
ある製造業の営業企画部では、ChatGPTをうまく活用して市場分析をしてほしいと部長が号令を出した。そこで3人の部員がChatGPTを駆使して分析を試みたのだが、今のところ思うようにいっていない。
自社の商品を売るためには、どの市場に対して、どのような切り口で分析したらいいのか。部員たちがわかっていないからだ。
「自社の商品が売れるように市場分析して」
と依頼しても、ChatGPTはどうしたらいいかわからない。
「自社商品とは、どんな商品ですか?」
と返されるだけだ。
これはChatGPTなど、生成AIの問題ではない。分析の仕方、分析のスキルが、人間側にないことが問題なのだ。
続いての原因は、適切な使用方法に関する知識不足だ。正しい知識が足りないから、「AI疲れ」を引き起こしてしまう。
たとえばChatGPTは、よく「超優秀な新社会人」と形容される。
高校や大学では成績優秀。もっともらしいことは何でも知っている。けれども、その職場の特殊な事情、先輩や上司の価値観や思考のクセまでは知らない。
だから、
「自社の商品が売れるように市場分析して」
と伝えたら、教科書的にはやってくれるかもしれない。だが、それでは物足りない。
「そうじゃなくて! うちの業界は特殊なんだから、そういう分析のやり方ではうまくいかないの」
「優秀だと聞いていたけど、イチイチ言わないとわからないのか」
と苦言を呈したくなる。
ただ、それは仕方がないのだ。繰り返すが、AIは「超優秀な新社会人」。これまで一度も出会ったことのないような人種だと受け止めて接しなければいけない。
最後に、多いのが「手段の目的化」だ。
どんなに情報システムを導入して生産性をアップしようとしても、仕事が減らない人、いないだろうか?
どんなにアシスタントを増やして作業分担させても、ほとんど残業が減らない職場、ないだろうか?
私はそのような職場を、かぞえきれないほど見てきた。共通しているのは「手段の目的化」である。
情報システムの導入や、アシスタントの採用が目的になっている。もしくは仕事効率化、生産性アップそのものが目的になっているのだ。
そうなると、なかなか期待通りの成果を手に入れられない。
本来の望ましい姿に正しく焦点を合わせていないからだ。だから、何のためにツールを導入するのか、まるでわからなくなる。
どんなツールを導入するかはともかくとして、最終的にどんな目標をどれぐらいの期間で達成させるのか。それは具体化していこう。そうでない限り、どんなにAIを導入して効率化しても、仕事が増えるばかりである。
「AI疲れ」が蔓延する職場の典型例と言えるだろう。
■「AI疲れ」からどう脱出するのか?
それでは、「AI疲れ」の解決策は何か? 当面は以下2つのことを実践すべきである。
・教育と訓練の強化
AIツールの導入に伴うトレーニングと教育は重要だ。組織メンバーがAIツールを理解し、適切に使用する能力を育てる。
・リアルな期待値の設定
「手段の目的化」にならぬよう、目標、期待値を数字で設定しよう。そして組織全体で共有するのだ。
そして以下のことが真実なら、勇気をもって言うべきである。
「それが期待値なら、AIがなくてもできます」
と。
AIは私たちの仕事を助けるための、強力なツールだ。
そのためにも、AIツールの教育と訓練を強化し、リアルな期待値を設定する必要がある。
そうすることで、AIと共存し、その恩恵を最大限に享受することが可能となる。
この新たな挑戦を恐れず、解決するための道筋をつけていこう。それができないと、本当にAIに仕事を奪われていく。