ポーランドへのミサイル着弾はウクライナ迎撃ミサイルの迷走か:残骸部品からのOSINT分析
11月16日(現地時間15日)、ウクライナ国境に近いポーランドのプシェボドゥフ(Przewodów)にミサイルが着弾し2名が死亡しました。事件発生当初はロシア軍の巡航ミサイルだとAP通信などが報じていましたが、しばらく後になってアメリカ政府は「ミサイルはロシアから発射された可能性は低い」としています。
現在ウクライナとロシアは戦争中であり、ポーランドにミサイルが落下した原因は発生当初から可能性が二つありました。どちらも意図しない事故である可能性です。
- ロシア軍の巡航ミサイルの迷走
- ウクライナ軍の地対空ミサイルの迷走
アメリカは事故発生から数時間後にはロシアの巡航ミサイルの可能性は低いという見解を出しましたが、ポーランドは初期にロシア製の巡航ミサイルだと断定した後に確定ではないと主張を後退させ、ただしウクライナはまだロシアの巡航ミサイルであるという立場を変えていません。
追記:ポーランドもロシア巡航ミサイル説を否定してウクライナ地対空ミサイル説に見解を変更。
ですが、事故発生当初に現場から報告されたミサイルの残骸を見たOSINT専門家の間では、かなり早い段階から「ウクライナ軍のS-300防空システムの5V55迎撃ミサイルの破片の可能性が高い」という分析報告が、事故発生の第一報から数十分後には既に幾つも出ていました。これはアメリカのバイデン大統領がロシアの巡航ミサイルの可能性は低いという見解を出す7時間以上も前です。
※OSINT(オープン・ソース・インテリジェンス、公開された情報からの分析手法)
ポーランドで発見された残骸とウクライナの戦争で過去に発見されたミサイルの残骸と照らし合わせると、S-300防空システムの5V55K迎撃ミサイルだという指摘が日本時間の午前4時前にはもう出ています。事故発生の第一報は日本時間の午前3時前後です。なお5V55系の迎撃ミサイルは幾つか改良型があり5V55Kはその一つになります。
左側の過去に発見された部品と見比べると、側面のボルト穴やその下の2本の溝、垂直方向の雌ネジの山など、細かい特徴も一致しています。
この部品は5V55迎撃ミサイルの固体燃料ロケットモーターケースの鏡板かノズルの付近の部品である可能性があります。殻にある程度の厚みがあり狭い間隔でボルト穴が大量に開いており、高い圧力が掛かる場所で強固に取り付ける必要がある部品だという指摘がありました。
ウクライナの戦場では過去にS-300防空システムの5V55迎撃ミサイルの固体燃料ロケットモーターケースが何度も丸ごと発見されています。そのため、OSINTの専門家たちの間では見慣れた部品だったのです。事故発生の第一報が伝わって1時間も経たずに、OSINT専門家が気付いて数十分で地対空ミサイルの部品だと判断されています。
ポーランドで発見されたミサイルの残骸はS-300防空システムの5V55迎撃ミサイルの48D6固体燃料ロケットのモーターケースのノズル付近の部品(エンドシール)であり、ウクライナから発射された可能性が高いという結論の分析になります。
なお射程の問題からロシア軍がS-300防空システムを地対地攻撃モードで発射した可能性はほぼありません。地対空ミサイルで対地攻撃する手法はウクライナでの戦争の以前から珍しくはありませんが(アメリカ軍の古いナイキ・ハーキュリーズ地対空ミサイルでも地対地攻撃モードがあった)、完全な弾道飛行ではなく途中まで地対空ミサイルとして管制する準弾道飛行であり、途中までレーダー指令する必要から有効射程はあまり長くはないのです。
アメリカ側の「ミサイルはロシアから発射された可能性は低い」とする予備段階での指摘からも、ロシア軍がS-300防空システムを地対地攻撃モードで発射した可能性を否定しています。ロシアないしベラルーシから発射した可能性は低いでしょう。
なお現在までにポーランドの事故現場からはS-300防空システムの5V55迎撃ミサイルの部品と推定されるもの以外のものは出てきていません。巡航ミサイルの部品は発見されていません。
今回の事故はウクライナのS-300防空システムが対空戦闘中に発射した5V55迎撃ミサイルが迷走しポーランドに着弾した可能性が高いと言えます。
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