データを操作してまで米国経済に組み込まれたい安倍政権
フーテン老人世直し録(355)
如月某日
安倍政権が今国会の最重要法案と位置付けた「働き方改革」を巡り、厚生労働省が作成した裁量労働制拡大のための資料にインチキがあった。
「2013年度労働時間実態調査」で厚生労働省は、一般の「最長労働時間」と裁量労働制の「平均労働時間」を比較するという意図的としか思えない操作で、裁量労働制の方が一般より労働時間が短いという資料を作った。
その資料を基に国会で答弁した安倍総理は、答弁を撤回するとともに陳謝したが、裁量労働制拡大を関連法案から切り離せと迫る野党の要求を拒否し、法案は一括して今国会で成立させ、しかし裁量労働制拡大の実施時期を来年でなく再来年にすることで乗り切る構えである。
なぜ意図的としか思えないことをやって安倍政権は裁量労働制拡大をやろうとしているのか。その背景に何があるかが最大の問題である。フーテンは冷戦後の米国が、世界最大の債権国に上り詰めた日本経済を解体し、米国経済に組み込もうとしていることが背景にあると思う。
そもそも裁量労働制の「裁量」の主体は労働者である。ある仕事をするのにどういう働き方をするかは労働者に委ねられ、企業は労働者との間であらかじめ決めた労働時間に応じた賃金を支払う。その労働時間以上働いても残業代は出ない。しかし労働者が短時間で仕事を終えれば自分の自由時間を増やすことが出来る。
労働者が「裁量」するのであれば労働者にとって悪い制度ではない。これまでの日本の「働き方」とは真逆で、高度成長期の「働き方」が「社畜」という言葉を生み出したように、会社によって家畜のように飼いならされ自分の意思も自由も失っていた姿とは異なる。
しかし裁量労働制に反対する声を聴くと、日本では「裁量」するのが労働者ではなく企業側になり、むしろますます労働者は奴隷にさせられるというのである。つまり米国が日本型資本主義を解体し米国型に替えさせようとしていることが逆の結果を生むというのだ。
日本の労働者が「社畜」と呼ばれた時代が暗くて惨めだったかと言えばそうではない。むしろ今より将来に対する不安はなかった。会社は社員に忠誠心を求めるが、その代わり家族を含めて面倒を見る仕組みがあった。
社員の家族が安く利用できる医療施設や保養所や社宅が用意され、何よりも滅多なことでは解雇されない終身雇用制と年功序列賃金、そして老後の面倒まで見てくれる企業年金によって「社畜」は将来の安定を保障された。
戦前の軍国主義に代わり「24時間戦います」と寝食を忘れて会社のために戦う「企業戦士」が現れて日本は高度経済成長を実現する。ただ日本の戦い方は利幅を1%程度に抑えてシェア(市場占有率)拡大を狙う「薄利多売」方式であった。これに欧米、とりわけ米国企業が打撃を受けた。
米国議会は「日本企業がコスト割れの安売りを仕掛け、米国企業を倒産させて米国民を失業させ、その損失を日本国内で高く売ることでカバーしている」と非難したが、確かにその頃の日本製品は海外で買う方が日本より安く、世界一と言われた日本の物価高は年々上がる賃金のおかげで誰も文句を言わなかった。
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