ケンカをせず内向的で調整役に徹してきた細田前衆議院議長は晩節を汚したまま急死した
フーテン老人世直し録(724)
霜月某日
子ども政策に力を入れて全国から注目された泉房穂前明石市長は、市長を辞めてから精力的に言論活動を行っているが、その主張を『政治はケンカだ!』(講談社)という本にまとめた。
他人から嫌われることを恐れたら政治家などできない、政治は闘争の連続だというのが泉氏の主張である。市民を幸せにしようと思えば、議会とも官僚ともマスコミとも闘わなければならない。
ところがこの世にはそれとは真逆の政治家がいる。「ケンカをしない、内向的で表に出たがらない、調整役に徹する」政治家だ。その典型とフーテンが思ったのは細田博之前衆議院議長だった。その細田前議長が今月突然に帰らぬ人となった。
かつてフーテンは国会の全ての委員会を放送する「国会テレビ」を自民党に提案したことがある。それに賛同した衆議院議員たちが国会の中に「衆議院国会テレビ中継小委員会」を作り、超党派の議員が検討を重ね、国民に開かれた国会を実現しようとした。
96年に実現の方向となったが、最後の最後にそれまでの議論を覆し実現させなくしたのは、同じ派閥で一期先輩の町村信孝氏が推薦した細田博之小委員長である。それがなぜかを本人は語らないが、フーテンの見方は衆議院の野中広務、参議院の村上正邦という2大実力者とケンカできず、言いなりになった結果だと思う。
フーテンが政治記者になったばかりの頃、清話会(福田派)の幹部だった父親の細田吉蔵氏は記者たちから「ホソキチ」と呼ばれて人気があった。それに比べて当時通産省の役人だった息子の博之氏は線の細い官僚に見え、インテリとしては申し分ないが、父親を継ぐ政治家が務まるだろうかとフーテンは思っていた。
ところが政治家になると、官房長官、幹事長など父親を超える要職を次々に務め、自民党最大派閥である清話会会長から衆議院議長という三権の長にまで上り詰めた。若い頃に政治家に向かないと思った人物がこうなるのだから、人の世は分からないものだとフーテンは思った。
しかしその政治スタイルはあくまでも『政治はケンカだ!』の逆で、つまり同じ派閥の小泉純一郎氏や安倍晋三氏とも真逆である。政治家としての欲を感じさせないから、都合の良い人物、裏切らない人物として要職を任されてきたとも考えられる。
その政治家らしくない人物が、死の直前に「旧統一教会との関係」や「女性ハラスメント」の疑惑で晩節を汚した。これもフーテンには驚きで、2つの疑惑と博之氏はフーテンの中では結びつかない。
深い付き合いをしたわけではないので断言はできないが、晩節を汚す報道が出てきたのには何か裏がありそうな気がする。旧統一教会と自民党の関係の中心はあくまでも安倍家三代で、細田氏はその周囲にいたから無関係ではありえなかった。
細田派の会長と言っても事実上の安倍派だったから、旧統一教会の会合で講演を依頼されればそれを断れない。だから衆議院議長として説明しろと言われても説明できない。女性ハラスメントの真偽も三権の長である衆議院議長としては説明できない。
議長を辞めるしかないので、夏ごろから体調不良を訴え、入院するなどして辞任の準備を整えたと思う。しかしそれは議長を辞任するためだけの病気だから議員辞職はせず、次の総選挙に出馬することを表明し、さらに批判を浴びた。晩節はますます汚れることになった。
ところが辞任のための病気だと思っていたのが、細田氏は辞任会見から1か月も経たないうちに突然死んだ。この急な死に方にフーテンの頭は整理がつかない。中川一郎、昭一親子の謎の死や、細田氏の前任者である最大派閥会長町村信孝氏が、自民党総裁選挙の最中に体調不良を訴え、その後衆議院議長に就任するも半年で脳梗塞で死去したことなどが頭の中を駆け巡る。
細田氏によって実現を阻まれたフーテンの「国会テレビ」構想は、同じ清話会の坂井隆憲・衆議院国会テレビ中継小委員長の手で96年夏に実現の運びとなった。事業主体は株式会社だが、教育目的の非営利法人に近いので、衆参両院が年間4億円の資金提供を行い、CSで衆参それぞれ1チャンネルの「国会テレビ」が放送されることになった。
しかし参議院の了承を得て実現するはずが、参議院の天皇と呼ばれた村上正邦参議院議員によって構想は変更された。村上氏は国会の敷地内にビルを建設し、そこにヘリポートと迎賓館を作って外国からの賓客を迎え、その一角に国営放送で「国会テレビ」を作る計画を準備していると噂された。
それを衆議院で後押ししていたのが野中広務自民党幹事長で、野中氏は郵政族のドンとして郵政省内に絶大な力を維持していた。その手先となって細田氏に注文をつけたのが当時参議院1年生議員の荒井広幸氏である。衆参両院による4億円の資金提供をやめさせ、国営放送で行うことを可能にする方針に変更させた。
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