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始まった「子どもの事故予防地方議員連盟」との協働

山中龍宏小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長
「子どもの事故予防地方議員連盟」設立総会で。筆者撮影。

 同じ事故が、同じように起こり続けている。われわれSafe Kids Japanは、起こりやすい事故、重症化しやすい事故を中心に、その危険性を指摘し続けているが、指摘した通りの事故が起こって子どもが死亡している。

これまでの活動は

 これまでSafe Kids Japanでは、サッカーゴールの転倒による傷害、プールでの溺れ、熱中症などが発生した場合、それらが発生した地域の県知事や市長に傷害予防の対策を求める要望書を送ってきた。時には、教育委員会を直接訪問して予防の必要性を訴えた。それらに対する行政の回答は、「これまでもホームページやチラシ、リーフレット等で水難事故防止の意識向上に努めている」「動画も配信している」「これまで、何回も注意喚起の通達を出した」など「きちんと対応している」というものであった。

 しかし、同じ事故が起こり続けているではないか!管轄している場で注意喚起した事故が発生すれば、それまでの注意喚起は役に立っていないということだ。行政は、注意喚起していれば自分の責任は果たしたと勘違いしているらしい。注意したのに、指摘した通りの事故が起これば、それは消費者側の不注意、保護者の責任だと思っているのだろうか?市長や県知事に要望しても、担当課の机の上でブロックされて何も進まない。このようなアプローチは無効であることがわかった。

どうしたらいいのか?

 ある時、子育て支援の活動をしている女性から、行政への働きかけ方を聞いた。彼女曰く、

・「はい」「いいえ」と決断できる人にしか会わない。

・時間がないという人には、「寝る時間はあるんでしょう?1分でいいから話を聞いて!」とねじ込んで、5分話をする。

・最初に、「前例がない」「予算がない」「担当ではない」の3つは言わないで話をしましょう、と言う。

とのこと。それくらいしないと何も進まない!

市議会議員からのアプローチ

 2018年夏、私が書いたYahoo!ニュース(個人)の記事(お子さんの園バスは安全ですか?〜アメリカのスクールバスに見る「3つのE」〜)を読んだ東京都町田市議の矢口 まゆさんからSafe Kids Japanにメールで問い合わせが来た。「園バスの安全が気になって、何とか取り組みたいと調べていたところ、ぴったりの記事があったので連絡をした」とのことであった。お子さんが乗る園バスにシートベルトがないことを問題視されていた。

 これがきっかけとなり、矢口さんはSafe Kids Japanの講座などに参加されるようになった。議員として、子どもの事故予防に取り組む必要性を強く認識され、2019年5月29日には、仲間を増やすために、東京都議会会議室で『「予防できる重大事故」から子どもたちを守るために』というセミナーを開催された。その後、2019年10月4日には、参議院議員会館内の会議室で「子どもの事故予防地方議員連盟」の設立総会が開かれた。2020年2月29日、Safe Kids Japan主催の「第1回 子どもの傷害予防 全国ネットワーク会議」に16人の地方議員の方々が参加され、「地方議員による子どもの事故予防」について発表していただいた。

子どもの事故予防地方議員連盟の活動

 この議員連盟は、子どもの事故を予防することを目的に、超党派で活動されている。2020年2月末の会員数は38名である。活動内容としては、

 ●専門家を招き、議会での提案や質問に直結する内容の勉強会の開催

 ●SNSグループ等での情報交換や議論

 ●政策提言のための資料の共有や提供

 ●関係各所への働きかけおよびその結果の共有

など、全メンバーが「子どもの事故予防に関する各議会のエキスパート」になることを目指されている。

 具体的な取り組みの例として、保育施設等へ補助金を出す条件に事故予防についての取り組みや安全の基準を独自に加える、事故予防に取り組むための予算を増やす、自治体独自の条例やガイドラインの制定、事故予防について知識のある職員を増やすなどが挙げられた。

具体的な取り組みで協働する

 子どもたちの近くにいる保育や医療の現場から傷害の事例を集める。それをSafe Kids Japanで分析し、データとしてまとめ、具体的な予防策を挙げる。これらの資料を議員の方々に提供し、各自治体の予算委員会や議会で質問してもらう。行政への説明に必要な資料を集め、議会での想定問答集も作成し、科学的な裏付けなどの支援をSafe Kids Japanが行う予定である。行政への対応はどこでも同じはずだ。

 「前例がない」への対応としては、調べれば、日本にはなくても、世界のどこかで必ず取り組んでいるので、それを調べて提示する。

 「予算がない」への対応としては、事故が起こった時に発生する経費(救急隊の出動費、医療費、保護者の交通費、会社を休んだ費用、警察や司法の調査費、裁判費用、損害賠償費など)を算出する。一方、事故を防ぐための安全器具の購入、設置費用も調べ、器具を購入した方が自治体の負担金が少なくなるという費用便益効果を示して予算の問題を検討してもらう。

 「担当がいない」への対応としては、現実に起こっていることに対処するのが行政の仕事なのだから、担当を新たに任命する必要があると指摘する。

おわりに

 これまで、個別の事故について、単発で議員の方から相談を受けたことはあったが、子どもの事故予防ための議員組織は存在しなかった。傷害予防を実現するための新しいアプローチとして、今後の地方議員連盟の活動に大いに期待している。

 これからは、注意喚起ではなく、具体的に実行可能で、予防につながる事故予防活動に継続して取り組んでいただきたい。地方議員のネットワークを日本中に広げて欲しい。そして、事故予防ができたというサクセス・ストーリーを作り、そのサクセス・ストーリーを全国の市町村に広げていただきたい。それらの活動を支援するために、医学や工学などの科学的な見地からSafe Kids Japanも協力させていただく所存である。

 今回、Yahoo!ニュース(個人)で記事を配信させていただいたことが地方議員連盟設立のきっかけとなった。たったひとりでも、強い思いを持ち、自分の立場でできることを追求すれば道は開ける。市民の方々は、この地道な地方議員の方々の活動を評価し、支援して、彼らが継続して活動ができるよう、投票という形で応援しようではないか。

小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長

1974年東京大学医学部卒業。1987年同大学医学部小児科講師。1989年焼津市立総合病院小児科科長。1995年こどもの城小児保健部長を経て、1999年緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。1985年、プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことから事故予防に取り組み始めた。現在、NPO法人Safe Kids Japan理事長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員、国民生活センター商品テスト分析・評価委員会委員、日本スポーツ振興センター学校災害防止調査研究委員会委員。

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