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EURO2020第9日。内容も空気も悪化スペイン、脅威を放置で大敗ポルトガル、3トップ低調のフランス

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
1得点、PK後の空のゴールに決められずモラタの自信は回復せず(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

点が取れず守れないチームへの不信感が高まるスペイン。左サイドの脅威を見せつけられながら放置したポルトガル。自慢の3トップが低調のフランス。「スーパーサタデー」の興奮は強豪のふがいなさゆえだった。

モラタがゴールした→一歩前進。モレーノがPKを外した→一歩後退。空のゴールへのシュートをモラタが外した→一歩後退。また勝てなかった→一歩後退。残り試合が1つ減った→一歩後退。

差し引き三歩後退。これがポーランド戦後のスペインの損得勘定である。

ゴール後にモラタはルイス・エンリケ監督を抱き締めた。信頼に感謝するために。が、また空のゴールへのシュートを外したことで、ご破算になった。彼の自信は回復しないまま、重圧はぬぐえないままだ。

とはいえ、もはやモラタの問題ではない。チーム全体の問題である。

内容はスウェーデン戦よりも悪かった。初戦前半の激しいプレスは姿を消し、ロスト後にすぐに奪い返せず、中盤で潰し合いをする時間が長くなった。潰し合いは体格で優位のポーランドの思う壺である。

ボール支配率は75%から69%に下がり、デュエルでは6勝16敗から6勝25敗へと大きく負けが込んだ。「もっと優勢に進め、ゴールチャンスの数が増えるものと期待していた」というルイス・エンリケの感想は、スペイン人みんなの感想でもある。

■“ラグビー戦法”で心身の弱さが露呈

1つ変わらなかったものがある。

何でもない状況からとてつもないピンチを招くという、もはや動かぬ事実だ。人数はそろっているのに相手の単独・単調な攻撃を止められない。

失点シーンでも、スローインからドリブルされると、それをずっと見守り、センタリングをされて、レバンドフスキと競り合ったラポルトが簡単に倒れて、フリーでシューを打たれた。

以上のアクションに共通しているのは「個としての弱さ」である。人数はそろっているのだから戦術としては成功している。が、個として受け身で他人任せという「精神面での弱さ」に、そもそも劣る「体格面での弱さ」が重なって、何でもないようなプレーで大慌てということになる。

ポーランドの攻め方で注目すべきものがあった。右サイドのセンターラインを少し越えたくらいのエリアに味方の密集を作っておいて、GKからのロングキックでそこを狙うこと。ボールの質は山なりで空中で競れるようにする。ペドリとジョルディ・アルバの低身長・細身のコンビを狙ったのだろう。で、ごりごりと押し込んでボールを拾うとモール状態で前へ向かう。行き詰ったらまたごりごりと押し込む。FKをもらえることもあるし、何よりもカウンターを喰わない。

このパントキックからのラグビー戦法は間違いなくスロバキアもやってくるだろう。

■刺々しい空気を象徴するコメント集

スロバキアに勝てば勝ち上がれる。他の結果次第では首位抜けすら可能だ。だが、チームを包む空気は暗い。セビージャというホームで戦いながら声援が味方になっていない。PK失敗の後スタンドは沈黙した。ファンの心はチームから離れつつあるのだ。

TVのインタビューであるファンが言っていた。

「ポーランド選手はまるで優勝したみたいに応援スタンドへ走り、ファンに感謝し一緒に喜んでいた。うちは即ロッカールームに引っ込んだ。もう少し気持ちを見せてくれてもいいんじゃないか」

モラタは言った。

「ファンには言いたいことを言わせておけばいい。ここは意見するのがタダで簡単過ぎる国だ」

大事な一戦を前に国全体を敵に回してどうする?

ルイス・エンリケのコメントも助けになっていない。

試合前「モラタ+10人で戦う」

モラタ起用への批判が気に入らないのだろうが、こんなことを言っても火に油を注ぐだけ。モラタには重圧がかかるだけ。それで引き分けたので、ルイス・エンリケ采配がさらに問われるだけ。何の得もない。

試合後「ファン? 彼らを慰め励ますのはメディアの役目だろう?」

ちなみに、今日(20日)のメディア対応はない。

■ポルトガル対ドイツ 左サイドの穴放置はなぜ?

ドイツ4点目。ゴセンスをフリーにした責任はセメドにはない。レナトかダニロが下がるべき
ドイツ4点目。ゴセンスをフリーにした責任はセメドにはない。レナトかダニロが下がるべき写真:代表撮影/ロイター/アフロ

ドイツの左サイド、ゴセンスが1ゴール、1ゴール取り消し、2“アシスト”(うち1つはオウンゴールを誘う)と一人でポルトガルを破壊した。

よくわからなかったのは、フェルナンド・サントス監督が、開始5分の取り消されたゴールで兆しが見え、35分のオウンゴールで明確になったこの脅威に対して、何の対策も採らなかったこと。ハーフタイムに投入されたレナトが右サイドの補強かと思われたが、右SBセメドをまったくサポートせぬまま、1アシスト、1ゴールを追加されて勝負はついた。

ただ、まだ30分も残っているのにヒーロー、ゴセンスを下げてファンに拍手させ、緩んだお祭りムードにして、ポルトガルの反撃気運を助けたヨアヒム・レーブ監督の采配にも首を傾げざるを得ない。再び決勝トーナメントで顔を合わせる可能性があるのだから、アクセルを緩めず徹底的に叩いておくべきだった。15分間、交代を待ってもゴセンスのフィジカルには何の影響もなかったと思う。

ポルトガルの方では、先制点でのロナウドの激走はさすがだった。相手のCKをゴール前でクリアしてからシュートまでの13秒間で約100メートルを駆け上がったことになる。クリアボールが味方に渡るのを見て、カウンターのチャンスあり、と足を止めなかった貪欲さは彼ならでは。どんな状況でもゴールのために気を緩めない、走り惜しまない、努力を怠らないプロ意識の高さは、すべてのサッカー選手のお手本だと思う。

■プロだからお遊びは必要?不要?

その反面、あの“ノールック・ヒールパス”はいだだけなかった。ヒールでのパスは意表を突くもので良かったが、もう体勢的にもあそこに出すのは見え見えなのに、首を振ってノールックを演出したのは余計だった。

あれを見て、首を振って観客席を見ながら出したロナウジーニョのノールックを思い出した。観客席を見ても誰も騙されないって!

お飾りや遊びがない方がロナウドらしい、と言う方が大きなお世話か。

■ハンガリー対フランス 

こういうのを闘志と根性で引き分けに持ち込んだ、というのだろう。

前半ロスタイム、早々にイエローをもらっていたパバールのチェックが甘くなり、こぼれたボールからのワンツーがフィオラに渡って独走。えっ、えっ、えっと驚いている間に鋭いシュートがニアに飛び込んだ。

フランスの得点の方はGKがアバウトに蹴った滞空時間の長いボールをハンガリーDFがバウンド後に処理しようとして失敗。エムバペからグリーズマンに渡ってネットを揺らした。絶対にバウンドさせるな、というのは守備の初歩の初歩である。

ともにあまり戦術とか個人技とは関係なく、暑さのせいか、その両面ともに低調なゲームで、優勝候補がグループ最弱と見られたチーム相手に勝ち点を失うかもしれない、という面でのみエモーショナルなゲームだった。

■2種類のドリブルの有効性

水のボトルを吹っ飛ばされた女性記者(右)はさぞや驚いたと思う
水のボトルを吹っ飛ばされた女性記者(右)はさぞや驚いたと思う写真:代表撮影/ロイター/アフロ

ハンガリーが時間を使うのに有効だったのはドリブル。それも相手を抜くためのドリブルではなく、ボールを運ぶためのドリブル。

日本ではともにドリブルだが、スペイン語では、相手を抜く方を「Regate(レガテ)」と呼び、運ぶ方を「Conduccion」(コンドゥクション)と呼ぶ、まったく異なるプレーだ。この2つを区別しないと、子供がそれぞれを使う状況と狙いを理解できないので、日本で指導した時には前もって違いを説明。「コンドゥクション」の場合は「運べ!」と指示していた。

このゲームで言えば、フィオラがゴール前までボールを運んだプレーが「コンドゥクション」で、デンベレ投入で期待されたのが「レガテ」。89分に倒れ込むほど疲労したサライは「コンドゥクション」を繰り返しファウルをもらって、マイボールのまま安全に時計の針を進めていた。一方、単独で抜いて崩すことを託されたデンベレの「レガテ」がさく裂したのは、シュートに持ち込めた1回だけだった。

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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