竹がないのに竹富島? カチューユ・うっちん・ウキムルーなど沖縄食材の美食を味わえる有名ホテルは?
沖縄が過去最高の入域観光客数を記録
全国でまん延防止等重点措置も解除され、観光業も少しずつ元気を取り戻し始めました。思い返してみれば、2019年の訪日外国人数は3188万人と過去最高を記録。東京だけではなく大阪や千葉、京都などに訪日外国人が足を伸ばしていました。
訪日外国人の多くは日本の都市部を訪れているようですが、日本国内ではリゾートの人気が高いです。
特に人気となっているのは、やはり沖縄。国内の入域観光客数は2019年に過去最高の723万3900人を記録し、対前年比で29万人、4.2%の増加となりました。
離島も人気
沖縄は日本の最南西端に位置し、47の有人島と113の無人島から構成されており、美しい海や豊かな自然、独特の食文化が魅力です。
人口の9割が集中する沖縄本島もよい観光地ですが、特別な体験ができるということで離島へ訪れる人も少なくありません。
トリップアドバイザーの口コミで選んだ人気急上昇中の観光都市ランキングでは、2018年に沖縄の離島、石垣市が世界1位に輝いたほどです。
・令和元年(暦年)入域観光客統計概況(令和2年1月23日発表)
・石垣市が世界一! 2018 人気上昇中の観光都市ランキング
観光客を制限する西表島
沖縄にはたくさんの離島がありますが、注目したいのが竹富町。
「日本最南端のまち」と謳われている竹富町は、日本最南端の有人島である波照間島を含む八重山諸島に属する9の有人島と7の無人島から構成されています。
地区別の人口は次の通り。
竹富町の地区別人口(2022年2月末時点)
全体 4295人
・竹富地区/344人
・黒島地区/230人
・小浜地区/727人
・新城地区/11人
・西表島東部地区/940人
・西表島西部地区/1,500人
・鳩間地区/60人
・波照間島/483人
西表島は、東洋のガラパゴスとも呼ばれ、天然記念物のイリオモテヤマネコが生息することでも有名。国指定文化財もたくさんあり、西表島と石垣島が取り囲むサンゴ礁、石西礁湖の海域に点在する黒島、竹富島、小浜島、新城島、仲之御神島が国立公園に指定されているなど、豊沃な自然については枚挙に暇がありません。
2021年7月26日には「生物多様性上重要な地域」であることが認められて、西表島は奄美大島、徳之島、沖縄島北部とともに世界自然遺産に登録されました。
食も充実する竹富町
竹富町は海や動物などの自然が豊かというだけではなく、農業、畜産業、水産業も充実しており、食も魅力的です。
食に関しては以下のような特産物があります。
竹富町の特産物
・石垣牛
・パイナップル
・アップルマンゴー
・バナナ
・赤パパイヤ
・青パパイヤ
・サトウキビ
・黒糖
・モズク
・アーサー(ヒトエグサ)
・イラブチャー
・アーラミーバイ
・グルクン
・ハマダイ
・アオダイ
・ワモンダコ
・シマタコ
・テナガダコ
石垣牛は年間出荷頭数が700頭程度の希少な黒毛和牛です。人口の10倍もの牛がいる黒島では、たくさんの石垣牛の素牛が育てられています。
沖縄が日本で生産量ほぼ100%を誇るパイナップルも、竹富町の特産物。気候が温暖で太陽の日射しが強く、日照時間も長いので、マンゴーは最高品質といわれています。バナナは日本でのシェア66%で、小さくてしっかりとした甘味が特徴。
生産量99%を誇るモズク、アーサーと呼ばれるヒトエグサ、イラブチャーやグルクンといった地魚、アーラミーバイやハマダイ、アオダイといった沖縄の高級魚、ワモンダコ、シマタコ、タナガダコといったタコなど、海産物も非常に豊富です。
星のや竹富島
こういった竹富町や沖縄の豊かな食材を用いて素晴しい料理を創り出しているホテルがあります。
それは、2012年6月1日に開業した星のや竹富島。
竹富島は、珊瑚礁が隆起してできた周囲約9km の小さな島であり、年間平均気温24度の温暖な気候です。
星のや竹富島は、島の東に位置し、約2万坪もの敷地を有しています。ここで是非とも体験しておきたいのが、フレンチの技法で沖縄食材の魅力が味わえる「琉球ヌーヴェル」。
ヌーヴェルはフランス語で新しいを意味する言葉なので、新しい沖縄料理であると解釈すればよいでしょう。
総料理長は実力派の中洲達郎氏
星のや竹富島で総料理長を務めるのは中洲達郎氏。中洲氏は2011年にボキューズ・ドール国際料理コンクール日本大会で優勝し、世界大会でも入賞した指折りの料理人。ホテルブレストンコートで料理長を務めた後、星のや竹富島の開業時に総料理長へ就任しました。
実力派の中洲氏が驚いたのは、沖縄にある食材の豊富さとユニークさ。沖縄は内地と気温差があることから、冬にも魅力的な味わいの野菜があったり、フレンチで一般的なジビエも狩猟できたりします。こういった食材が持つおいしさを、中洲氏がフレンチの技法によって引き出しているのです。
「琉球ヌーヴェル」の内容
「琉球ヌーヴェル」(14,520円、税・サ込)はディナーに提供されるコース。島で育つ伝統食材の野菜やハーブ、豊かな海産物をふんだんに用いて、オリジナルのフレンチに仕上げています。
コース内容はこちら。
「琉球ヌーヴェル」春のディナーコース
・ヤイトカツオのタルティーヌとカチューユ
・シェーブルのクスクスサラダ仕立て パッションの香り
・車エビとアーサーのフリット うっちんとマンゴーのソース
・島菜のスープ サザエのフランを忍ばせて
・ウキムルーのパン粉焼き 青豆の軽い煮込みと共に
・和牛の泡盛酒粕クルート包み焼き or 豚ロース肉のグリル バナナのピューレを添えて
・ジーマミーのブランマンジェ 甘い香りに包まれて
・パイナップルのバシュラン仕立て ココナッツとスパイスのアクセント
アーサーや島菜、ウキムルー、ジーマミーなど、沖縄食材がたくさん見かけられます。料理の構成も、冷前菜、温前菜、魚料理、肉料理、プレデセールにデセールと、フレンチに則ったものです。まさに新しい沖縄らしいフランス料理であるといえます。
コースの中で、象徴的な料理をご紹介しましょう。
ヤイトカツオのタルティーヌとカチューユ
桜の木のチップで瞬間燻製したカツオに、命草(ぬちぐさ)のクルトン、カツオの血合いを用いたブーダンと合わせています。
クローシュに用いたグラスには鰹節のスープである「カチューユ」をもとにしたコンソメが注がれます。体が温まるスープなので、先に飲んでからタルティーヌを食べるとよいでしょう。
シェーブルのクスクスサラダ仕立て パッションの香り
低温調理した仔ヤギのタルタルは、ヤギの風味が内包されていながらも、穏やかな味わい。その上には、フーチバー(ヨモギ)を練り込んだクスクス、ヤギのチーズであるシェーブルチーズのクリームを重ねています。
トップにはチーズとクミンのチュイールがあり、周りにはパッションフルーツのソース。全てを混ぜてから食べると、様々な味わいが広がり、異国情緒感に溢れた風味となります。
車エビとアーサーのフリット うっちんとマンゴーのソース
竹富島産のクルマエビを頭と身に分けて、どちらともカラっとしたフリットに。バジルもフリットされており、香ばしくサクサクになっています。マンゴーソースとうっちん(ウコン)ソースが添えられ、沖縄風らしい仕上がりに。
島菜のスープ サザエのフランを忍ばせて
シマ菜(カラシ菜)を用いたスープです。サザエの身を加えており、底にはサザエの肝を使ったフラン。すくって食べると、渾然一体となって、よりおいしく食べられるでしょう。
ウキムルーのパン粉焼き 青豆の軽い煮込みと共に
ウキムルー(カンパチ)にパン粉をまとわせて包み焼きにしました。蒸し焼きのようになり、中はしっとりとしてジューシーに。アオマメとソラマメの煮込みには滋味があり、一番外側の円環には、甘い島ニンジンのピューレがあしらわれています。
和牛の泡盛酒粕クルート包み焼き
和牛はパイに包まれたまま持って来てもらえ、その後にパイが取り外され、提供されました。
泡盛酒粕の甘い香りをまとい、力強い和牛香がふんわりとした穏やかな風味に。肉はやわらかくジューシーに仕上げられ、旨味も閉じ込められています。
周りには、和牛のジュと赤ワインのソースと、バターと卵黄のベアルネーズソース。ガルニチュールはタマネギ、島ラッキョウ、アカヤマイモのピクルスです。
パイナップルのバシュラン仕立て ココナッツとスパイスのアクセント
フランス伝統菓子バシュランをアレンジした一品で、メレンゲがサンゴに見立てられています。ココナッツのメレンゲに、パイナップルやパルメザンチーズなど複雑な味わいです。
柑橘薫る島鍋
「琉球ヌーヴェル」は沖縄食材をモダンなフランス料理に仕上げた素晴しいコースでした。他にも体験していただきたい料理がたくさんあります。
客室で寛ぎながら食べられるディナーの「柑橘薫る島鍋」(29,040円、税・サ込、2人~)も出色のメニュー。柑橘の香る出汁が素材の旨みを引き立てる、しゃぶしゃぶ仕立ての鍋になっています。
豚肉、牛肉、島豆腐、野菜8種、八重山そば、季節の柑橘、ご飯といった構成で、暖かい沖縄にぴったりな鍋に仕上げました。シークワサーのポン酢、シークワサーの胡椒、ショウガ、島胡椒といったコンディメントも独特。
この島鍋には、ヴァイツェン、マリン、黒と3種類の石垣島地ビールがぴったりです。
和朝食
朝食と昼食も充実しています。
「和朝食」(4,235円、税・サ込)はいくつか用意されており、定番は「島の九品朝食」。沖縄伝統の重箱料理「御三味(うさんみ)」をアレ ンジし、素材の旨味や琉球の食材を生かした小鉢を詰めた和朝食です。重箱料理9種、沖縄の炊き込みご飯であるジューシー、香の物、車麩の味噌汁とバラエティに富んでいます。
「ゆし豆腐粥朝食」も沖縄らしい朝食で、ゆし豆腐は大豆の味わいが濃厚。アーサー、イカの紅麹漬け、もずくの佃煮、卵黄漬け、ゴーヤの佃煮といった5種の小鉢は、お粥との相性が抜群です。沖縄のハタ=ミーバイを用いた「ミーバイと車エビのマース煮」は朝から活力がみなぎる主菜でしょう。
洋朝食
「洋朝食」(4,235円、税・サ込)では竹富島らしさを味わえる「海風ブレックファスト」と、八重山で親しまれる五穀に優しい味わいのフルーツを添えた「シリアルブレックファスト」が用意されています。
「海風ブレックファスト」は、魚介の旨味たっぷりのブイヤベース、長命草やハンダマなどの命草サラダ、5種のパンとボリューム満点。南フランスの漁師料理を沖縄風にアレンジした洋朝食です。
竹富島の文化を体験
星のや竹富島では、竹富島の文化を体験できるアクティビティも豊富に用意されています。
・宵のひととき
・島のひととき
・畑文化を味わう
宵のひととき
泡盛を楽しめる、夜に行われている無料イベントです。「八重泉」や「玉の露」など泡盛は全6種のうち2種、シロップは全4種のうち2種が用意されており、自分で自由に組み合わせて飲むことができます。
島のひととき
午後に行われている無料のおもてなし。揚げたての紅芋のお菓子「うむくじアンダギー」とアイスクリームをいただけます。ほっと落ち着けるひとときであるといえるでしょう。
畑文化を味わう
午前中から行われている有料の体験プログラム。施設内の畑のハーブをスタッフと一緒に収穫し、フリットにしてもらえ食べられます。沖縄野菜に対する知見も深められることでしょう。
テロワールを伝える
竹富島には竹がないのに、なぜ竹が富むと書くのでしょうか。
沖縄本島から渡来して村を開き、6つの聖地「六山(ムーヤマ)」のひとつである花城御嶽(ハナックオン)に祀られている海の神タキンドゥン(タガニドゥン、他金殿)が由来とされています。タキンドゥン島が時代を経てタキドゥン島となり、そこから今の竹富島になりました。
この神話に彩られた竹富島に上陸する観光客を対象に、2019年9月1日から1人300円の任意の入島料の徴収が開始されました。2015年に施行された自然環境を保全する地域自然資産法に基づく取り組みで、全国で初めてのことです。
星のや竹富島は島内の家々と同じように「竹富島景観形成マニュアル」に従って伝統の景観美を遵守しています。それに加えて、この竹富島でしか体験できない味や香りのテロワールを表現し、その素晴らしさを伝えていることは、竹富島が誇る貴重な自然資産を守るのと同じくらい重要なことではないでしょうか。