「伝えていくことは民族浄化に抗うこと」ガザに暮らす人々の声を伝え続ける『ガザからの手紙』
イスラエル軍による虐殺によって、多くの市民の命が奪われているパレスチナ・ガザ地区。そんなガザで避難生活を続ける人々の声を日本語に翻訳して発信する、noteの連載記事「ガザからの手紙」を知っているだろうか。
1人1人と向き合いながら記事を書いて発信を続ける圓尾絵弥子さんに、8bitNewsが話をきいた。今回は家族3人で避難生活を続ける女性バラーアさんと、近隣の450世帯にパンと水を配ったムハンマドさんの話を紹介してもらった。
◆刺繍が大好きなバラーアさん 夢だったスタジオは破壊された
圓尾さん「バラーアさんという27歳のお母さんは、私がガザの方とやり取りをした最初の方で、それ以来ずっとDMでお互いの近況を伝え合ったりしてきました。2歳になるハムザくんというすごくかわいい男の子がいまして、夫のモハメドさんと一緒に避難生活を送っています」
圓尾さん「彼女は刺繍がすごく得意で、趣味が高じてお仕事になってて、インスタグラムのページで本当に素敵な温かい刺繍の数々を見て。私も物を作る仕事、活版印刷とかやってるんですけど、それでスッと共感できたんですね。DMの内容はすごく切迫していました。今爆撃されてるし、食べ物もないから寄付をしてほしいという内容だったので、わかりましたと言って私ができる範囲で寄付をさせていただいて。インスタグラムで寄付を呼びかけたり、翻訳したり」
構「刺繍を見ていると本当にお上手で、お仕事にもされてるんですね」
圓尾さん「そうですね。『ガザからの手紙』に書けたかわからないんですけど、侵攻が始まる前に自分の刺繍と縫い物のスタジオを作られたんです。でも新しく作ったお店が侵攻後に爆撃されちゃって、瓦礫の山になった。一生懸命作って、小さいけれども整っていて、お花が生けてあって夢いっぱいのスタジオでした。これから幸せいっぱいで行こうって思ったときに、侵攻が始まって虐殺がずっと続いてるので、どんな気持ちかなっていつも思っています」
◆侵攻前と侵攻後で表情が大きく変わってしまったハムザくん
構「そして『ガザからの手紙』を見ていた中ですごく衝撃的だったのが、ハムザくんの変わりようですよね」
圓尾さん「ハムザくんはポチャっとしてて、いつも笑ってたってDMで教えてくれて。でも今はもう24時間殺人ドローンがずっと鳴ってる状態で。それも慣れたって言ってたんですけど、たまに本当に爆撃してきたり、空爆されたり。大人ですら精神的におかしくなってしまうのに、ちっちゃい子たちが慣れるわけがない。ハムザくんの様子は写真でしかわからないんですが、他にもひきつけを起こしたり、言葉が喋れなくなったり、そういう赤ちゃんや子供たちもいっぱい動画や写真が出回ってます。やっぱり1歳の小さな子でも様々に感じることがあるんだなって。こんなにも表情って変わってしまうのかって…」
圓尾さん「もちろん子供たち自身もすごく辛いんですけど、それを見てる大人達の辛さも想像すると…。「辛い」「お腹すいた」「喉渇いた」って言われたときに、何も飲ませる水がなくて、あったとしても海水とか汚い水だったり。それで骨と皮になって飢えて死んでいくっていう。勿論見たい人はいないと思うんですけど、でも彼らだって見せたくないんですよ。自分の子供の飢えていく姿なんて絶対に晒したくないと思うんですけど、やっぱりそうでもしないと誰も見てくれない」
構「圓尾さんご自身もお子さんがいらっしゃるという意味で、バラーアさんに思いを寄せる理由もあるんじゃないでしょうか?」
圓尾さん「そうですね、バラーアさんのインスタグラムを見た時にハムザくんが出てきて、何てかわいいの!って、本当一瞬で共感というか。やっぱりどうしても自分に重ね合わせて考えてしまって。もっと色んなことを知りたくなったんですね、バラーアさんについて。今でこそ「ガザからの手紙」という記事を書くようになったけど、知り合った頃はSNSで交流してただけなので。記事にするとかじゃなくて個人的に本当に知りたいと思って、たくさん質問してました」
構「やり取りの中で共感したエピソードはありますか?」
圓尾さん「1歳の子のお母さんなのですごく忙しい感じで、バラーアさんは(やりとりが)ぶつ切りなんですね。質問してもひとこと単語で返ってくる。それを繋ぎ合わせてる感じなんですけど、やっぱりハムザくんのことを聞くと、ちょっと長くなるんですね。『インスタグラムのストーリーズに女の子と一緒に写ってたけど、あれは誰?』って聞いたら、『あれは久しぶりに避難所でたまたま再会した従姉妹なの』って教えてくれて。すごくかわいい面倒見のいいお姉ちゃんで、『ハムザもいつもその女の子といるとニコニコしてる』という話はいつもより長めにしてくれます」
圓尾さん「何も食料がない中でも皆さん工夫されてて。バラーアさんも料理がクリエイティブ。小麦粉と水でパンを丸くしてこねて、それをハムザくんがお手伝いしてる動画を送ってくれて。私も息子と一緒にたまにパンを作るけど、過酷な状況下でもやるんだなと思って。お母さんってどこでもそういうことをしたいんだとか、そういう工夫をするんだな、というのは感動しました」
構「私達が触れる情報は、本当に厳しい映像ばかりだったりするので。『そっか私達と同じ生活してるんだよね。同じく子育てしてるんだよね』というところで一気に自分事として思いを寄せることができる。圓尾さんを通じてガザの皆さんの声を聞かせていただくことで、すごく近づくなと感じます」
圓尾さん「すごく嬉しいです。この間のヤザン達もそうですけど(ヤザンさんたちの記事はこちら)、人間ってどんなに悲惨な状況でも、笑いとか、ちょっとでも美しくありたいとか、生活を楽しみたいという気持ちがあるんだなと感じますね。24時間ドローンが飛んでるからって、自分たちもそれに合わせて暗い顔してなきゃいけないわけじゃないっていう。そういう姿勢を感じます」
◆食料・水不足で広がる病気と生活物資の高騰
構「バラーアさんたちが今望んでることは何ですか?」
圓尾さん「検問所が開いたらエジプトに避難したいんですけれど、水も食べ物も無い状態。水の汚染などによって肝炎が流行ってたり、テントの中が暑いので皮膚病が広がってる。『ハムザくんは大丈夫?』と聞いたら、『大丈夫、私が絶対に守る。そこはtake careしてる(気をつけてる)』って言ってて。『すごいね!お母さんの愛だね』って送ったんです。とはいえこの間、薬を買いに行ってくると教えてくれたり。大きな目的は避難することですけど、日々生き延びていくために、今日は何かを買いに行くとか、そういう話を教えてくれます」
圓尾さん「寄付のページに書いてある金額は、集まりやすくするために最低限である場合が多くて。避難するためのお金を募っていても、結局水だったり食料だったり、肝炎とか皮膚病の治療薬だったりに使わなきゃいけなくて。電気もないので。みんなインターネットが繋がってて、それでやり取りしてるわけなんですが、それも充電するのに充電器が必要で。そうするとただ日々暮らすだけで、すごくお金がかかる。本来避難用として集めたお金が全然貯まらないという状態があります」
圓尾さん「テントの中が暑すぎて皮膚病になったから、扇風機を買いたい人もすごく多くて。結構皆さん扇風機とバッテリーっていうセットで。電気がないのでバッテリーが必要なんです。いくらするの?と聞いたら、扇風機だけで500ドルでバッテリーが400ドルとか。大体900ドルとかで、どんな立派なものなんだろうって見ると、日本だったら数千円だろうなっていう。とにかく物資が入ってこないために値段がどんどん吊り上がっている。特にバッテリーは高いって言ってました」
◆”スイッチ”が入った瞬間 安堵してしまうことへの罪の意識
圓尾さん「5月の終わりに今度はそっちが安全って言うから、アルマワシに行くんだという話をチャットでしてて。その次の日に爆撃があった。(SNSでは)お父さんが自分の子供を抱えてる映像が出てきて、頭が吹き飛んだっていうんですね。その映像を見ても誰なのかわからない。次の日ぐらいには実はこういう子でしたという写真が出てきて。それはハムザくんではなかったんですが、全然有り得たことで。本当にたまたま逃れたというか、全然いつどこに行ってもそういうことが起こり得るんだなっていうのを、そのとき初めて実感したんです。なのでニュースを見たときに、もっと寄付を集めたり停戦を呼びかけたり、私にできることは本気でやんなきゃとスイッチが入ったんです」
圓尾さん「一瞬『違った…』ってホッとしちゃったんですね。バラーアさんも昨日インスタグラムが消えちゃったので、何があったんだろうと。電話ごと飛ばされちゃったのかなとか、やっぱりどうしても考えちゃって。でも連絡がついたときにほっとして。ただ誰かが犠牲になってるのは間違いがないので、その人たちと繋がってるご家族だったり友達だったり、それが私になる可能性もある。本当にその気持ちは全然慣れることはないなって思います」
◆「民族浄化に抗う」ために書き続ける
構「『話を聞き取って、書く』ことの意味を、圓尾さんは改めてどのように感じてますか?」
圓尾さん「これはMOEさん(noteはこちら)が仰ってたんですけど、1人1人同じ人はいなくて、話してみると全然違う人たちで。『そういう人たちの話をなるべく深く聞かせてもらい、伝えていくことは、民族浄化に抗うことになるんじゃないか』ってMOEさんが言ってて。本当にそうだと思って。要は消し去りたいんですね、こういう民族の人たちは一切いなかったよって言って、更地にしてその上に何か新しいビルとか建てて、そんな過去はなかったってしたいと思うんですけど。いやいやいたからって。今いるし。確実に存在しますっていうのを発信できたらなとすごく思います。しかも過去じゃなくて、今記事にしてる人たちはみんな今生きてるので。この記事を読んで、寄付をしていただきたいなっていうのはお願いしたい」
◆寄付のその先…避難民キャンプで配られたパンと水
圓尾さんは、もう一人支援を続けているムハンマドさんという男性についても紹介してくれた。ガザで避難を続ける21歳のムハンマドさんは、この状況下でも野良犬や野良猫のことも放って置けない3児の父親。圓尾さんは普段、旧TwitterのXで、#ムハンマド日記 というハッシュタグをつけその様子を投稿してきた。圓尾さんが忙しくなり、なかなかムハンマドさんに連絡を取れない間も、誰かしらが連絡をとってくれていたという。
圓尾さん「すごいほっとしたんですよね。吉田さんっていう方がいらして、その方は私が寄付を募ると、必ず何か支援してくださる。例えば扇風機を買いたいキャンペーンをスタートすると、『足りない分はおいくらですか?』とかそういう感じで。吉田さん曰く、ギリギリらしいんですけど、そうしてあげたいと。一昨日ですかね、吉田さんからご連絡があって。ムハンマドからの提案で、近隣の200世帯に水とパンを配りたいって言い出したので、支援させていただきましたって。ただその時は本当にやんのかな?って。勿論信じてはいるけども、人によって自分で貰っちゃう人もいるかもしれない。ムハンマドに翌日聞いたら、やったよと言って、すごい量の写真を送ってきてくれました」
圓尾さん「近隣の子供たちがパンと水を配給されて、笑顔で『吉田さんありがとう』って紙を持ってる写真がいっぱい。吉田さんが持ってと言ったわけじゃなくて、現地の方が『こうした寄付でこういうことができました』って証明するためのものらしいんです。個人の寄付でこんなことができるの?とすごく衝撃を受けて。まず200世帯にパンを配って。次の日にムハンマドがさらに隣のキャンプの250世帯にパンと水を配ったらしいです。(追加の分については)吉田さんは聞いてなかったけど、もう仕方ないって感じで何とか支援されたみたいで」
構「吉田さんは450世帯分のパンと水が渡せるように寄付されたんですね」
圓尾さん「吉田さんも仰ってたんですけど、これが1回きりかもしれなくて意味があるのかなと。ずっと続けられたら勿論いいけど、個人では無理だし。ただ、焼け石に水かもしれないけど、この瞬間この子たちがパンを食べられて水が飲めたわけで。もしお金に余裕がある方は、是非こういうこともできるということを知っていただきたいです」
構「こうして寄付したお金が使われるのを見ることで伝わるものがあったと思います。最後に伝えたいメッセージがあればお願いします」
圓尾さん「ムハンマドに英語で『I proud of you』って、誇りに思うよってつい言っちゃったんですけど、そしたらサラッとぶっきらぼうな感じで、『It's my duty』って。『俺は何もしてなくて、まず吉田さんがやってくれて、これはただの義務で、使命だから』って言ったんですね。すごいなと思って。彼も子供が3人いて皮膚炎になったりして。やっぱり寄付は必要なので、できればサポートしていただけたらと。勿論、停戦が一番大事で。(停戦しないと)焼け石に水なので。ただ今繋げる命を繋げるためには、寄付がどうしても必要なのでお願いします」
圓尾さんが更新する「ガザからの手紙」はこちらから。
圓尾さんのインタビュー全編はこちらから。
※寄付ページのリンクはインタビュー動画の概要欄にまとめてあります。
取材・記事 ジャーナリスト構二葵(8bitNews)