ガザの人々の声を日本語で届ける『ガザからの手紙』始めた想いとは
「ひと月前に『ガザからの手紙』という、ガザにいる人々へのインタビュー記事の連載を始めたのですが、堀さまにご一読いただけたらと思いました」
7月20日(土)、圓尾絵弥子さんという女性から、市民メディア「8bitNews」にこんなメッセージが寄せられた。
イスラエル軍により、多くの市民が虐殺され続けているパレスチナ・ガザ地区。圓尾さんは、そんなガザに暮らす人々とSNSを通じて交流をもち、彼らのストーリーを日本語に翻訳して発信する「ガザからの手紙」という記事をnoteで連載している。
ガザに暮らす人々が私たちに訴えていること、そして圓尾さんを突き動かした想いとは。8bitNewsが取材した。
堀「まずはどうして連絡をくださったんですか?」
圓尾さん「1ヶ月前に『ガザからの手紙』という、DMなどで繋がった現地の人たちをインタビューして記事にするブログを始めたんですけれど、ぜひ堀さんに読んでいただきたい、拡散していただきたいなと思って、一昨日の夜ご連絡させていただきました」
堀「私もこの間パレスチナのヨルダン川西岸に行きましたが、ガザの中にはなかなか入れず断片的に伝えるしかないので、こうやって連絡を取り続けてらっしゃる圓尾さんの発信が大変貴重だなと思っています。まず最初にどういう経緯で『ガザからの手紙』を始め、どんな発信をしてきたのでしょうか?」
◆主語を小さく 一人一人と向き合う大切さ
圓尾さん「ちょうどひと月ほど前にインスタグラムで繋がったMOEさんという方がいらして。翻訳機を使いながらチャットでインタビューをする記事を拝見したときに、こんな方法があるんだなと。ガザの方から毎日DMをいただくのですが、何人かにお返ししたところ毎日来るようになっちゃって。そうなるとこちらも精神的にも時間的にも難しくなる。そんなときにMOEさんの記事を拝見して、深くお話を伺って1人1人の解像度を高めて伝えると、もしかしたら寄付も増えるんじゃないかなって思ったんです。それですぐに『すいません、丸パクリさせてください』って言って真似させていただいた」
そんな時に出会ったのが「ガザからの手紙」で最初に記事にした、ハタチの大学生でグラフィックデザイナーのヤザンさんだった。圓尾さんは、彼がデザインし売り上げも全額寄付されるTシャツを見つけ購入。その後、圓尾さんが彼にお礼のメールをしたところから二人のやりとりが始まった。
圓尾さん「基本的にインスタグラムのDMで、もし今時間なかったら後で答えを送ってくださいっていう感じでやり取りしてます。次にモハメドというヤザンのお兄さんのインタビューをして、数日前にフサム医師というお医者さんの記事を載せました」
堀「圓尾さんご自身も、ガザの市民という大きな主語ではなくて、小さな主語、1人1人と向き合って色んな発見があったり、新しく感じたこともおありだったんじゃないかなと思います」
圓尾さん「実は彼らとDMで話すまでは、デモに行ったり素人ながら英語を日本語に翻訳してツイートしてみたり、自分にできることをひたすらやってきたんですけど、なんかやっぱり本当に主語が大きいなと。パレスチナのためにって勿論それは一番大事なことなんですけど、なんかどうも大きすぎてどうしようって。虐殺は全然止まらないしって」
◆辛い姿を見せないワケ…「自分を憐れんで欲しく無い」
そんな葛藤を抱えていた圓尾さんだが、自身がグラフィックデザイナーであることを生かし、ヤザンさんと共に何か作ることはできないかと思い立ったという。彼と交流を続ける中、圓尾さんは驚いたことがあった。
圓尾さん「ヤザンは『自分を憐れんで欲しくない』っていうタイプで。初めは正直、彼のインスタグラムのページを見て自撮りがすごく多くて、かっこいい感じで。知り合って2日目ぐらいに、『ちょっと寄付集まらないかもしれないよ、詐欺に思われるかもしれないし』って正直に言ったんですね。そしたら『わかるよ』って言って。『でも、今の惨めな姿をさらすのはつらいんだ』って」
圓尾さん「そのとき、何かちょっと私恥ずかしくなって。勝手になんかプロデューサーみたいな気持ちで。より可哀想なように見せた方が寄付は集まると思うんです、正直。私も子供がいるので、これまで赤ちゃんとか子供がいるお母さんを中心に寄付をシェアしてたんですけど、よく考えたらヤザンも子供だったわけだし年齢関係なく。しかも青年って一番狙われやすいっていうか、攻撃対象ですし。自分がかっこよく見られたい時期なんじゃないかなっていうのを、ハッと気づかされて、申し訳なかったと」
圓尾さん「6月の半ばにイスラム教のお祭りがあって、その日にヤザンがインスタグラムに載せた写真に、青空にピースを突き上げてる写真があったんですね。足元はがれきなんですけどそれは見せないで、青空と自分のピースで笑顔っていうのだけを載せて。『僕はハッピーな人間だし、僕はもっといい人生を送るべき人だと思ってるから、こうやってるんだ』って送ってきてくれて。すごい衝撃を受けて。だから私が完全に学んでいる感じで。寄付っていうか、学び賃みたいな感じです」
堀「(パレスチナの人々は)一方的で暴力的な入植、はっきり言うと略奪、暴力によって土地を奪い取られていくことと向き合ってきた。こうして丁寧にお1人お1人のヒアリングをしてくださってるから、説得力を持って『そうなんだ』という、メッセージに繋がるのかなというのも改めて感じました」
圓尾さん「彼らはあまり苦境を見せたくない感じなので見えにくいのですが、聞き取りをしたところによると、3週間ほど前に皆さんの寄付のおかげで、9ヶ月ぶりに鶏肉が食べられたって言って喜んでました。あとは9ヶ月ぶりにスイカが食べられたとか、それも写真送ってきてくれたりして」
圓尾さん「綺麗な水が今とにかく不足しています。そのせいでたくさんの人が、特に肝炎や皮膚病にかかって、赤ちゃんからみんな苦しんでいます。飲み水もそうですし、体を清潔に保つための水も無いので。あっても高い。そこにアクセスできる人は限られています。そこで寄付が必要みたいで。実はヤザンたちも6月の終わりに肝炎になって重症化して倒れちゃって」
圓尾さん「一時期私ももう駄目かなと思って。それで手当たり次第SNSにいろんなことを載せた中で、インスタグラムで繋がった方が、フサム医師を紹介してくださって、という経緯があるんです。彼らは今何とか回復しています。明るい兄弟なので見えにくいのですが、実は生死を彷徨ったことががありました」
◆「コーヒー1杯分でも寄付が増えると希望が持てる」
堀「一つ一つ順を追ってお話を伺っていくと、何のための寄付が必要なのかとか、誰のための寄付が必要なのか、やっと実感を持って寄付っていうものに向き合えるのかなということも感じました」
圓尾さん「自分もただ寄付してくれって言われても、やっぱりパッとは出せないと思うんですね。どういう人で、どういう暮らしをしてて、今何でこうなってるから必要なんだって。私は10月以降にパレスチナのことを知って。それまで全く知らなかったことに対しての償いというか。知らずに生きてきたのは特権だし、私が買った何か、消費した何かによって回り回って、占領に加担してたかもしれないってすごく思います。私が今何か払っても、また働いてお金を作れる環境にある。でも彼らは今お金がないと死んじゃうから」
堀「寄付が増えていかないときに、ヤザンさん自身はどんな心情だったんですか?」
圓尾さん「やっぱり現実を見ると、インタビューに答えて寄付に繋がるのかなってふとよぎったと思うんですね。彼はみんなが寝ている夜中にインタビューを受けてくれたので、そんな時に暗闇で遠くから爆撃が聞こえて。寄付が増えないと、『ここからもう逃げられないんだ、自分はもう絶対逃げられない。ここでもう死ぬんだな』って思い始めるって言ってました。今も正直そう思ってるって仰ってて。ただ、コーヒー1杯分でも寄付が増えると希望が持てるって教えてくれました」
堀「圓尾さんは、お話を聞いていてどんなことを感じられましたか?」
圓尾さん「こんな状態にこの20歳の人を置いてしまってる、私を含めた世界にすごく怒りというか、何やってんだろうって思いました」
◆葛藤の末に載せた、がれきの写真
堀「『ガザからの手紙』には、”破壊され尽くした自分の街を眺めて立ち尽くすヤザンの後ろ姿”っていうキャプションがついてる写真が。どういうシチュエーションで送られてきたんですか?」
圓尾さん「これは私がもうちょっと現状をがわかるような写真を送ってくれない?ってお願いしたら送ってきてくれたものです。こういうのを初め載せてなかったんですけど、やっぱりこれを見ないと『本当にガザにいるのかな?』と思っちゃう人もいるかもよと言って、お願いして出してもらって。本当は見せたくなかったのかなと。自分で載せるSNSの写真は、がれきが見えない自分のピースと笑顔だけだったりするので。載せるのも申し訳ないなと思いつつ載せさせてもらいました」
堀「圓尾さんもヤザンさんも、いろんな葛藤があってのこの1枚っていうことですよね。そういう重みも含めて皆さんに見てもらえるといいですね。最後にメッセージをお願いします」
圓尾さん「本当に今いろんな支援と、皆さんの関心が必要だと思っています。まず目を向けてほしい。具体的に言うと今ガザでは避難するための費用、綺麗な水にアクセスするための費用、食料のため、医療のため、とにかくお金が必要。いっぱいいろんな人がいるんですけど、1人でもいいので縁があった人とか、ちょっと目が合ってしまった人に対して、少額でもいいので何か送っていただけたらと思っています」
圓尾さんが更新する「ガザからの手紙」はこちらから。
圓尾さんのインタビュー全編はこちらから。
※寄付ページのリンクはインタビュー動画の概要欄にまとめてあります。
取材 ジャーナリスト堀潤(8bitNews)
記事 ジャーナリスト構二葵(8bitNews)