能登豪雨 「景色を見るのはまだ怖い」輪島漆器で世界に挑む岡垣祐吾さんが、それでも前に進み続ける理由
石川県輪島市で輪島漆器店「岡垣漆器店」を営む岡垣祐吾さん、44歳。
多くの職人達と共に自らの家も、店舗も被災した。
岡垣さんは今年1月、輪島漆器の販路を海外に広げるため、ニューヨークで開かれた北米最大の見本市に参加、挑戦を続けてきた。
輪島漆器の魅力は多くの人たちの心を動かし、来月10月1日より ニューヨークで展示会が開かれ、米国でも注目を集める展開になった。
しかし、再び災害に見舞われた。
「豪雨に関しては、まだ言葉にすることもできないです。輪島の景色を見ることも怖くてできないのが正直なところです。あの地震の時の光景が蘇るようです。またあの状況からやらなくてはいけないのかと」
岡垣さんの職場や職人たちの仮設の工房も今回の豪雨で被害を受けた。「あの時のようなアドレナリンが出ないんだ」そう吐露する職人もいるという。
そうした中、静岡市の百貨店松坂屋で開かれた展示会「第33回 逸品大輪島塗展」。
岡垣さんは準備のため、豪雨のあった土曜日にすでに静岡に入り、漆器の搬入作業に追われていた。
「輪島に戻ろうかとも思いましたが、今、私がやるべきことは、職人のみなさんを支えるため、ここでしっかり漆器を展示し、少しでも将来の販売に繋げること、そう思いとどまることにしました」と、静かに語った。
実は、来月10月1日から米国ニューヨークの大西ギャラリーで、3人の輪島の人間国宝の作品と、地震で被災した14人の作家の作品が展示される輪島塗のチャリティー展覧会「The Spirit of Noto: Urushi Artists of Wajima & Waves of Resilience」が開かれる。
岡垣さんが奮闘する様子を報道で知った、現地の関係者が企画した。 岡垣さんは、漆器の未来そのものを開拓するために、挑戦を続けている。
輪島塗や蒔絵の技術を新たな形で器に取り入れる試みで、海外でも多くの人たちに買われていく「新たな伝統」づくりが岡垣さんの背中を支え、押している。
輪島にいる岡垣さんの家族や、仲間の職人たちの想いがその原動力でもある。
今回のニューヨークには、ガラスの器に蒔絵を施したグラスを展示する。蒔絵の職人たちとともに共同で新たにつくりあげた。
「今は愚痴を言ってもいい、嘆いてもいい、流石に二度も災害に見舞われ、気力も尽き果ててしまうと思います。だからこそ、気持ちを周囲に今はぶつけてもいいんじゃないか、職人さんたちにもそう言っています。話を聞いていただくだけでも力になります。どうか声を聞いてもらえたら、また立ち上がれますので」
岡垣さんは、前を向き、精一杯の笑顔で想いを語ってくれた。
静岡での展示「第33回 逸品大輪島塗展」は来月1日までJR静岡駅前の松坂屋で。
ニューヨークでの展覧会「The Spirit of Noto: Urushi Artists of Wajima & Waves of Resilience」は来月1日から25日までマンハッタンの大西ギャラリーで開かれる。