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国民民主党に騙されたくないのは誰だったのか

鳥海不二夫東京大学大学院工学系研究科教授
選挙キャンペーンをX上で行う人(ChatGPT4oで筆者が作成)

2024年10月15日に第50回衆議院議員総選挙が公示され,10月27日に投票日が迫ってきています.

ネット選挙が解禁されて以来,ネット上でも多くの選挙活動が行われるようになりました.その中でも日本ではXの利用が多いようで,多くの候補者や支持者がX上で衆議院選挙に関する議論を行っています.

そこで,公示日である2024年10月15日から21日までの各政党の言及数をXから取得してみました.

その結果がこちら.

各政党の言及回数(筆者作成)
各政党の言及回数(筆者作成)

政権与党である自民党に関するポストが最も多かったことが分かります.続いては,野党第一党である立憲民主党でした.こう見るとX上での言及数については,順当であるといえそうです.

国民民主党に騙されるな

ところで,選挙ということになると支持政党に関するポストなどが増加しますが,同時に支持政党以外への攻撃的なポストも増加します.

そのような中で,国民民主党の玉木代表がこんなポストを行っていました.

そりゃ色々あるよね.と思うのですが,せっかくなので

#国民民主党に騙されるな

についてX上のポストを調べてみました.

データ概要

10月1日~21日までに「#国民民主党に騙されるな」が含まれるポストは,合計19,700ポスト,うちオリジナルポストが738でした.オリジナルポスト率が3.7%程度ということで,主にリポストで拡散したことが分かります.通常のキーワードで分析した場合,オリジナルポスト率が10%程度のことが多いので,リポストが極めて多かったことが分かります.なお,拡散に関わったアカウント数は10,082でした.このうち10%にあたる1002アカウントによって,27.4%にあたる6651回のリポストが行われていました.このハッシュタグは,特に一部のアカウントが活躍したわけではないといえそうです.

ちなみに,1日あたりのポスト数を確認したところこんな感じでした.

1日ごとのハッシュタグ拡散数(筆者作成)
1日ごとのハッシュタグ拡散数(筆者作成)

どうやら10月21日から急激に使われるようになったハッシュタグのようです.ハッシュタグを使ったキャンペーンの一環と考えてよさそうです.

党派性分析

さて,このハッシュタグはどのようなアカウントによって拡散したものでしょうか.

今回は衆議院選挙の真っ最中ということで,党派性の強いことは想像に難くありませんので,拡散したアカウントがどのような政党をフォローしているかを確認してみました.各政党の公式アカウントをフォローしているアカウントがどの程度だったかを算出してみました.その結果がこちらです.

ハッシュタグを拡散したアカウントの政党公式アカウントフォロー率(筆者作成)
ハッシュタグを拡散したアカウントの政党公式アカウントフォロー率(筆者作成)

この結果から,れいわ新選組公式アカウントのフォロワーが34.2%,共産党公式アカウントのフォロワーが22.4%などとなっていることが分かりました.

ただし,いくつかの公式アカウントを同時にフォローしているアカウントも多数ありますし,公式アカウントをフォローしているからといって,当該政党の支持者というわけではないことには注意が必要です.また,当該ハッシュタグを含むポストをしたり拡散したからといってこのハッシュタグに同意しているわけでもないということにも注意が必要です.

何せ,国民民主党の公式アカウントフォロワーも2.2%程度含まれているくらいですから.

なお,れいわ新選組の公式アカウントフォロワーの34.2%が当該ハッシュタグを拡散しているわけでもないことに注意してください.れいわ新選組の公式アカウントフォロワーの中で当該ハッシュタグを利用したアカウントの割合は2.2%であり,れいわ新選組の公式アカウントフォロワーのほとんどが拡散しているというわけではありません.

インフルエンサー分析

次に,このハッシュタグを使ったオリジナルポストを行ったアカウントに注目してみました.特にオリジナルポストの拡散数上位10アカウントに注目して,その拡散数を見たものがこちらです.

拡散数上位10アカウントの拡散数(筆者作成)
拡散数上位10アカウントの拡散数(筆者作成)

ここから,上位5アカウントがかなりの拡散を担っていたことが分かります.上位5アカウントからの合計拡散数は83.5%に上ることが分かりました.要するにこの5アカウントのインフルエンサーによって拡散のほとんどが説明できるということになります.

この辺を見ると,トレンドに乗るほど拡散しても必ずしも大勢が使っているとは限らないということに注意が必要なことが分かります.

なお,この上位5アカウントがフォローしている政党公式アカウントを確認したところ,5アカウントがれいわ新選組,4アカウントが共産党,3アカウントが立憲民主党,2アカウントが社会民主党,1アカウントが保守党,参政党をそれぞれフォローしていました.また,上位10位まで見ると,9アカウントがれいわ新選組の公式アカウントをフォローしていましたので,れいわ新選組のコミュニティがハッシュタグの利用を始めたのではないかと推測されます.

れいわ新選組は選挙のたびにX(旧Twitter)で積極的に活動していますので今回のハッシュタグもその一環だったのではないでしょうか.トレンドにきっちりのせて,国民民主党党首の玉木氏の言及まで引き出したということで,ハッシュタグキャンペーンは一定の成功をおさめたといってもよさそうです.

まとめ

というわけで,

#国民民主党に騙されるな

というタグがどのように拡散したのかをデータから分析してみました.

個人的には,それほど驚きの結果ではありませんでしたが,玉木氏のポストへの返信を見ていると「別の政党が行ったキャンペーンではないか」と考えている方もいたようですので,やはりデータで確認することは大切かなと思います.

しかし,今回の件は小規模な拡散だったため分析できましたが,衆議院選挙全体を分析するとなると現在のXのAPIの仕様ではかなり難しい状況です(主に金銭的な意味で).

今回の選挙期間中(に限りませんが)に,データに基づかない憶測で誤った軋轢が生じたりしないことを祈るのみです.

東京大学大学院工学系研究科教授

2004年東京工業大学大学院理工学研究科機械制御システム工学専攻博士課程修了(博士(工学)),2012年より東京大学大学院工学系研究科准教授,2021年より現職.計算社会科学,人工知能技術の社会応用などの研究に従事.計算社会科学会副会長,情報法制研究所理事,人工知能学会前編集委員長.人工知能学会,電子情報通信学会,情報処理学会,日本社会情報学会,AAAI各会員.「科学技術への顕著な貢献2018(ナイスステップな研究者)」

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