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中国メディアがけん制「米軍撤収後のアフガンは台湾の運命の前兆のようなもの」

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
米軍撤収後のアフガンの米空軍基地(写真:ロイター/アフロ)

 アフガニスタンの駐留米軍が完全撤収する前に情勢が急展開し、旧支配勢力タリバンが復権した。中国共産党機関紙・人民日報系「環球時報」は16日、アフガン情勢に台湾問題を絡めた社説を掲載し、「(蔡英文政権が)緊張と不吉さを感じているはずで『米国は頼りにならない』と静かに意識している」と勘ぐり、蔡政権側に方針を転換するよう圧力をかけた。

◇米軍のアフガン撤収ショック

 アフガンのガニ政権崩壊を受け、米国の軍用機が現地の大使館職員らを退避させる様子が世界中に伝えられた。この光景について、社説はベトナム戦争終結(1975年)時の様子などを重ね合わせながら「世界に深い印象を残し、米国の国家的な信用と評判、信頼性に大きな打撃を与えた」と解説した。また、米軍撤収のショックについて「特にアジアの一部地域で強く感じられている」としたうえ「その影響は台湾にも及んでいる」との見方を示している。

 米軍が撤収を始めた今年4月下旬以降、タリバンは攻勢を強め、支配地域を拡大。今月15日には首都カブールを制圧して勝利宣言し、ガニ大統領は国外に脱出したと報じられている。

 社説は、米軍撤収に伴う急展開をとらえて「台湾の運命における何らかの前兆のようなものだろうか」という表現を使いながら、「(蔡政権側は)みな緊張と不吉さを感じているはずだ。米国が『頼りにならない』と静かに意識している」と、一方的な解釈を示した。

◇「米国は費用対効果を考えた」

 アフガニスタンは中国の隣国で、巨大経済圏構想「一帯一路」における重要な中継点だ。中国は米軍撤収後を見据えてタリバンとのパイプづくりを進めてきた。対アフガンでも「内政不干渉」原則を強調しており、今後もタリバン政権との関係強化を図る考えだ。

 アフガンはイランとも国境を接し、ロシアにも近い。環球時報の社説は「米国の三大地政学的ライバル」に近いゆえ、反米イデオロギーの拠点となっていると位置づける。このため、アフガンの地政学的価値を「台湾のそれに劣らない」と強調している。

 社説は米軍撤収の背景にも言及し、「アフガンが重要でないからではなく、米国のプレゼンスが“高すぎる”ためだ。米国が世界の覇権を維持するには、別の方法で資源を使ったほうが費用対効果が良いと考えているのだ」と推測している。

◇「ひとたび台湾海峡で戦争勃発なら台湾側はすぐに降伏」

 さらに社説は、米国のアフガン政策と比較しながら台湾政策に対する批判を繰り返している。

「米国は台湾に軍事的プレゼンスを持たず、台湾側に武器販売や政治的支援、工作を通じて反中政策を促している」。別の言い方をすれば、米国は台湾に武器や牛肉・豚肉を売ってカネを稼ぎ、一銭も使っていない……。「絶対に損をしない地政学的な取引をしている」という一方的な論理で米国の台湾政策を切り捨てている。

 そのうえで台湾側に向けて、次のような理屈を披露している。

「アフガン政権は米国にとって、2000人以上の兵士の命と1兆ドルの価値がある。また小国の抵抗勢力に向き合う際の、米国の威厳というものを感じさせる。だが、米国にとって台湾がどれだけの価値があるか考えてみよ。結局、米国は『一つの中国』を認めている。『台湾独立』のために戦っても、アフガンでのような支援を米国や欧州から得られるだろうか」

 アフガンでの事態をみてわかるのは、ひとたび台湾海峡で本格的な戦争が勃発すれば、台湾軍の抵抗は刻々と崩れ、米国の援軍は来ず、台湾側はすぐに降伏する。政権の高官は飛行機で逃亡する――環球時報の社説は「この局面はきっと起こり得る」と強調している。

 最後は「最良の選択肢」として「米国に頼って中国大陸に対抗する路線」を大幅に軌道修正するよう圧力をかけ、締めくくっている。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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