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値上げする「青春18きっぷ」 価格設定が良心的すぎる

小林拓矢フリーライター
「青春18きっぷ」で各地の鉄道を訪れるのは楽しいものである(写真:アフロ)

 JRグループ各社は、消費税の8%から10%への増税にともない、「青春18きっぷ」などの価格改定を発表した。

 現行の「青春18」は11,850円となっており、次の冬の発売から、12,050円となる。値上げ幅は200円で、1日あたり40円となっている。

 消費増税にともない、鉄道各社は運賃・料金の値上げを行うことになった。JR東海のように消費増税ぶんだけ値上げをする会社もあれば、JR北海道のように近距離を中心に大幅な値上げを行う会社もある。

 JR各社には経営面ではさまざまな事情があり、JR北海道や四国のように厳しい会社もあれば、JR東日本や東海のように状況のいい会社もある。そんな中で、JR各社で使用できる「青春18きっぷ」が消費税の増税分だけ値上げということとなると、極めて良心的というしかない。

値上げの中の「青春18きっぷ」

「青春18」は1982年に「青春18のびのびきっぷ」として発売された。1日券3枚と2日券1枚で8,000円という価格設定だった。その後1日券4枚と2日券1枚で10,000円、1984年には1日券5枚で10,000円となった。1986年に11,000円となり、1989年に消費税が導入されて以降は、消費税の増税分しか値上げをしていない。

 この間、物価水準がそれほど変わっていないという状況があるにせよ、30年以上ほぼ同じ価格で発売し続けているということは奇跡的である。なお、今のような5日分を1枚の券片に収めるようになったのは、1996年からだ。

 初期には値上げこそあったものの、JRになる以前から値上げらしい値上げは行われなくなっており、料金が必要な優等列車は使用できないという条件は変わらないものの、良心的なきっぷであることは変わらないままである。

条件悪化をどう考えるか

 値段が上がらないことをもって「良心的」というと、利便性の高い夜行快速列車の廃止や新幹線並行在来線の第三セクター化という問題はたしかに出てくる。また、青函間の移動が「北海道新幹線オプション券」という大変使いにくいきっぷしかないという問題も発生している。

 確かに、「青春18のびのびきっぷ」が設定された当初は、夜行の普通列車や昼間の長距離普通列車も多くあり、それらの利用を促進するという意図がこのきっぷにはあった。その当時はクロスシートの客車列車も各地に走っており、現在のようにロングシートの列車が地方でも主流になるということは想像していなかった。

 夜行快速列車がほとんどなくなり、新幹線並行在来線の第三セクター化で条件を満たさないと乗ることができないという状況になっている現実は確かにある。「青春18きっぷがなくなるのではないか?」という心配は鉄道ファンの間にもある。

 しかし、利用者にとっての条件が悪化してもなお、「青春18」を使用したいという人もまた多いのである。シーズンになると「青春18」関連の出版物が書店にならぶ状況はいまなお続いている。それを考えていると、「青春18」はよいきっぷである、といえるのだ。

本来ならば値段が上がってもよかった

 JR北海道や四国が厳しい状況となり、そのぶんを「青春18」の値段に転嫁しても問題はなかった、という考えが筆者の中にはある。「青春18」の売上はJR各社に分配されるものであり、JR北海道や四国に手厚い分配がなされてもよかったということも考えている。

 しかし実際には、そういった動きはなかった。JR各社の中で「青春18」の方針を決める際、増税分の値上げだけにしようと判断したことは、比較的良心的だったといえるのではないだろうか。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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