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アメリカ・NWSLで現在、アシストランキング1位。年齢を重ねて輝きを増す川澄奈穂美が目指すもの(1)

松原渓スポーツジャーナリスト
シアトルで目覚ましい活躍を見せる川澄(C)Seattle Reign FC

【トーナメント・オブ・ネーションズで光った、NWSLの選手たちの活躍】

 アメリカで行われた女子サッカーの4カ国対抗戦、「トーナメント・オブ・ネーションズ2017」が、日本時間8月4日(金)に幕を閉じた。

 優勝したのは、11得点3失点で3戦全勝のオーストラリアだ。ここ数年、主力選手を大きく変えることなくチーム作りを進めてきたオーストラリアは、今大会では23人のメンバーのうち、2015年のカナダ女子ワールドカップから17人のメンバーが継続して招集され、見事なコンビネーションと攻撃力を見せつけた。

 次いで、ホスト国のアメリカが、2勝1敗の成績で2位になった。アメリカは、ワールドカップやオリンピックの優勝経験を持つベテランが築き上げた強固な土台をベースに、新戦力を加えながら、新たなチーム作りの過程にある。今大会は、平均20,000人以上の観客の声援をバックに、パワーとスピードを活かしたダイナミックなサッカーを見せ、経験を活かしたゲームコントロールや1対1の駆け引きのうまさも随所に見せた。

 4位のブラジルは、昨年8月のリオデジャネイロ・オリンピック後に、同代表史上初めての女性監督であるエミリー・リマ新監督を迎えた。そして、過去にFIFA女子年間最優秀選手を5年連続で受賞したFWマルタ・ビエイラ・ダ・シルバを中心に、前線のタレントを活かした攻撃的なサッカーを見せたが、結果は1分2敗。3試合で11失点と、守備の綻びが目立った。

 

 そんな中、日本はA代表出場試合数が「10」以下の選手が過半数を占める初々しいメンバー構成で臨んだが、結果は1分2敗で、1勝もせずに、3位で大会を終えた。

 今大会を振り返ると、アメリカ女子プロサッカーリーグ(以下:NWSL)で活躍する選手たちの活躍が光った。

 NWSLには、21カ国から代表クラスの選手たちが集まっており、アメリカ代表は、今大会に出場した23人中、20人がNWSLでプレーしている。オーストラリア代表では、今大会で攻撃の中心となったFWサマンサ・カー(スカイ・ブルーFC)や、守備の軸となったDFステファニ・キャトレイとDFアランナ・ケネディ(共にオーランド・プライド)など、6人の選手がNWSLのチームに所属している。また、ブラジル代表のマルタ(オーランド・プライド)も、今シーズンから同リーグに活躍の場を移した。

 日本人では、今大会に出場したMF宇津木瑠美(シアトル・レインFC)と、FW川澄奈穂美(シアトル・レインFC)、FW永里優季(シカゴ・レッドスターズ)、DF川村優理(ノースカロライナ・カレッジ)ら、合計4選手がNWSLでプレーしている。

***

 今大会の1戦目が行われたシアトルの会場で、4カ国の対戦を、熱い眼差しで見つめる1人の日本人選手がいた。

 昨シーズン、INAC(神戸レオネッサ)からNWSLのシアトル・レイン(FC)に完全移籍した川澄奈穂美だ。

 2014年のシーズンにもシアトル・レインでプレーし、今年で3度目のシーズンを迎えている川澄の活躍は目覚ましい。2017年8月9日現在、川澄はNWSLで16試合中15試合に先発し、4ゴール7アシストを記録、アシストランキングではリーグトップに立っている。

 第5節のワシントン・スピリット戦(◯6-2)では1ゴール4アシストでチームの勝利に貢献し、SNSを通じて全世界から投票される、NWSLのプレイヤー・オブ・ザ・マンス(月間MVP)に輝いた。

 

 現在、シアトル・レインは16試合を終えて、6勝6分け4敗、首位に勝ち点「6」差の4位につけている。リーグトップの30ゴールというチームの得点力を支えているのは、アメリカ代表のFWで、NWSLの得点ランキングトップに立つメーガン・ラピノーだ。川澄にとっては同い年のライバルでもあり、2人の息の合った連携は、チームの強力なホットラインになっている。

 川澄は、今年の9月で32歳になる。

「今が一番、自分のサッカー人生の中で、サッカーが上手だと思っているんですよ。 年を重ねて、新しい自分に日々、出会えています。20代の時にはなかった感覚なので、ここからさらにうまくなれるんだろうな、と思います」(川澄)

 と、その大きな瞳を輝かせた。

 2014年のシーズンには、NWSLの年間ベストイレブンにも選ばれた川澄は、シアトル・レインでの3度目のシーズンを、どのように過ごしているのか。

 7月末、シアトルで川澄に会い、話を聞いた。

参照記事:

川澄奈穂美、2度目のアメリカ挑戦へ。揺るぎない覚悟と神戸への思い

出典:https://news.yahoo.co.jp/byline/matsubarakei/20160701-00059476/

シアトル・レインFCで「らしさ」が復活 。移籍後5試合で川澄奈穂美が見せた躍動感溢れるプレー

出典:https://news.yahoo.co.jp/byline/matsubarakei/20160825-00061510/

 

インタビュー@シアトル(2017年7月末)

【今シーズン、躍進の理由】

ーー今シーズンは、開幕戦から先発で試合に出続け、結果もコンスタントに残しています。7月末現在、4ゴール7アシスト。アシストだけでなく、間接的に得点に絡む形も多いですね。

川澄:コンディションはすごくいいですね。去年、NWSLのシーズン後にINACにレンタル移籍させてもらったのですが、皇后杯ではほとんど試合に出ていなかったので、今シーズンの始めは90分間プレーするのがかなり久しぶりだったんです。「どんなものかな?」と、最初は不安もあったのですが、想像していた以上に動けるな、と感じています。

これまでは、攻撃しながらも、次のプレーを気にしすぎていたんです。私はフォワードのなのに、意外とボールを獲られた後の守備やリスク管理を考えてしまう性格なので(笑)。でも、アメリカでは「今は点を決めることだけに集中して、ゴール前に突っ込む。それでダメだったら、全力でまた戻る」という感じで、一つひとつのプレーを全力でやらないと点が獲れないし、チャンスも生まれない。日本では、70〜90%ぐらいの力でゴール前に飛び込んでも間に合ったり、走り込んだ場所にパスをもらえることがありましたが、その感覚は、ここでは通用しません。

とにかく、すべてのプレーを100%でやりながら、攻守の切り替えも100%でやるようにしています。

ーー相当な運動量が必要ですね。映像で見ていると、足下に深いスライディングを受ける場面もよくありますが、ケガをしないために注意していることはありますか?

川澄:たしかに、このリーグは球際もかなり強いですし、ハードではあります。ただ、日本では味わえない感覚だと思いながらやっているし、「慣れ」もありますね。サッカーは対人のスポーツなので、絶対にケガをしない方法はないのですが、そもそも、相手が自分に触れないような位置に立っていれば(接触は)避けられる。周りをよく見て、ポジショニングやボールを受ける前にいい準備をすることは、最大限に意識しています。それに、自分が良いところに立ってさえいればどんどんパスを出してもらえるので、練習から、出し手がパスを出したいな、と思えるポジショニングを取るようにしています。

シュートへの意識も高い(C)Seattle Reign FC
シュートへの意識も高い(C)Seattle Reign FC

ーー得点に関してはどうですか?第14節のボストン・ブレイカーズ戦(7月15日△1-1)で決めた、ゴールまで25メートルぐらいの距離からのミドルシュートは印象的でした。

川澄:試合を見に来てくれた友達も「あのシュートすごかったね」と。でも、自分では実感がないんですよ。打った瞬間はキーパーが前に出ていて、バックステップを踏むのが見えたし、ゴールが空いていました。イメージ的には、2011年のドイツワールドカップ準決勝のスウェーデン戦で決めたゴールとタイミングが似ていました。試合後に映像で見たら、意外と距離があったんだなぁ、と。 

ーー現在、NWSL全般やシアトル・レインのサッカーに対して、どのような印象を持っていますか?

川澄:日本にいる時は、アメリカといえば「スピード、フィジカル、ロングボールを(縦に)蹴る」というイメージでしたが、(シアトル・)レインのサッカーを見て、その印象が変わりました。フィジカル的な要素を活かしながら、技術を駆使したサッカーをするんだな、と。

今年は、昨年まで主力級だった選手が抜けた中でも、監督がやるサッカーを表現できる選手が揃っているので、やっていて面白いですね。

ーーローラ・ハービー監督がやりたいサッカーは、現在、どのぐらい表現できているんでしょうか?

川澄:今の順位がそのままなので、イメージとしては6、7割、良く評価して8割ぐらいですね。ただ、連敗がなく、開幕当初に比べるとチームの起伏は少なくなってきました。リーグ戦の最初の頃は、先に失点してしまうと追いつけない雰囲気があったんですが、最近は失点しても落ち着いてゲーム運びができるようになってきました。

ーー第15節のスカイ・ブルーFC戦(7月22日)は、4点リードしながら一度は追いつかれ、最後は勝ち越して5-4という派手なスコアになりました。「点を獲られても獲り返せばいい」、という感覚もあるのでしょうか?

川澄:それは、ありますね。あの試合には「最後に勝てばいいんでしょ」、という、アメリカらしい感覚が凝縮されていたなと思います。まぁ、4-0の状況から4点追いつかれるというのはかなり問題なんですけど(笑)。4点差を追いつかれたあの状況は、普通に考えたら逆転される勢いだったと思いますが、最後はうちのエースのラピノーの決定力(この試合はハットトリックを達成)と、ホームの強みで勝ちきれました。最後に勝てばいい、というところは、アメリカのサッカーの面白さの一つだと思いますね。

ーーアメリカのサッカーファンがスタジアムで応援する雰囲気は、どんな感じですか?

川澄:ホームの応援がすごいので、すごく力になります。だから逆に、アウェーのチームがうちのホームで決めても、うちがアウェーで点を決めても、観客は何事もなかったかのようにシーンとしていて、あれ?ってなるんです(笑)。そこが徹底している感じがたまらなくいいですよね。

(2)【「ここからもっと上手くなれる」と感じています】

(3)【スポーツ大国、アメリカが教えてくれた「観戦」の楽しさ】

に続く

NWSL公式サイト

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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