アメリカ・NWSLで現在、アシストランキング1位。年齢を重ねて輝きを増す川澄奈穂美が目指すもの(3)
チームメートが決めたゴールを弾けるような笑顔で祝福し、自ら点を決めた後にはチームメートに飛びつき、ハグされる。
アメリカの女子プロサッカーリーグ(以下:NWSL)のシアトル・レイン(FC)で3度目のシーズンを過ごしているFW川澄奈穂美は、ピッチ上で、喜びをストレートに表現する。
周囲を笑顔にするその明るいキャラクターと、チームに勝利をもたらす実力は、シアトルでの川澄の人気を一層、高めている。
チーム広報に聞いた話によると、昨年6月に川澄がシアトル・レインに移籍してからのユニフォームの売上集計は、リーグ屈指の人気選手であるアメリカ代表のFWメーガン・ラピノーを上回り、チームトップだという。
試合後、サインを求めて駆けつける大勢のファン、一人ひとりに丁寧に応じる姿勢は、日本でもアメリカでも変わらない。
アメリカでは、日々、各地で様々なスポーツイベントが開催されている。そんな中で川澄が実感したスポーツ観戦の楽しさや、アメリカの女子サッカー人気を支えるNWSLの取り組みについて、独自の視点で話してくれた。
アメリカ・NWSLで現在、アシストランキング1位。年齢を重ねて輝きを増す川澄奈穂美が目指すもの(1) (2)
インタビュー@シアトル(2017年7月末)
【スポーツ大国、アメリカが教えてくれた「観戦」の楽しさ】
ーーシアトル・レインはゴールを決めた後に、全員が得点者に飛びついて祝福しています。ゴールを決めた選手がパフォーマンスをしたり、喜び方が弾けていますよね。ああいう表現は自然と出てくるものなんですか?
川澄:そうだと思います。みんな、点を獲ったら嬉しくて仕方ないんでしょうね。でも、チームが点を獲るって嬉しいじゃないですか。それを素直に爆発させられるのはいいな、と思いますし、私もそういう気持ちになります。サッカーは1点の重みが大きいスポーツだからこそ、点を決めたら思いっきり喜びたい。その方が見ている方も楽しいだろうなと思うんです。
アメリカでは、スポーツをプレーすることと同じように、観戦することも文化になっているんだな、と感じます。私もいろいろなスポーツを観に行きましたが、実際、すごく楽しいんですよ。「地元のチームだから応援したい」というのもあるし、たとえば、普段は見に行かないようなスポーツの会場に、いきなりポン、と行っても楽しめる。極端なことを言えば、どのチームとどのチームが対戦しているのかわからないけど、その場の雰囲気を味わえることが楽しい。コアなサポーターでなくても楽しめるところが、いいんですよね。
ーー実際に観戦して、特に面白かったスポーツは何ですか?
川澄:最近だと、シアトルで(7月)22日に行われたWNBA(アメリカ女子プロバスケットボールリーグ)のオールスター戦を観に行ったんですよ。自分たち(シアトル・レイン)の試合が夜だったので、その日のお昼に行ったんです。シアトル・ストームというチームでプレーしている日本人選手の渡嘉敷来夢(とかしき・らむ)選手の試合をよく観に行くので、知っている選手も結構いました。みんな、アメリカ代表のような華やかな雰囲気で、会場も盛り上がっていました。
ーー違うスポーツの選手同士が交流して、お互いの魅力を語り合えるのもいいですね。NWSLは全チームがプロとして活動していますが、空いた時間はどのようなことをしているのでしょうか?
川澄:ツイッターを見ていると、それぞれのチームが「今日はどこそこの小学校に行きました」とか、「こういうイベントに参加しました」ということを、積極的に発信しています。そういう普及活動はすごく大事だと思いますし、アメリカはボランティアが当たり前の国なので、そういう意識も高いのかな、と思います。日本ではINAC(神戸レオネッサ)も積極的に地域貢献活動をしていますよね。INACは地域密着を目指していますし、最近は、老人ホームや施設などに定期的に行って、お年寄りの方々と交流を楽しんだりもしているそうです。
ーーNWSLでは、プレイヤー・オブ・ザ・ウィークやゴール・オブ・ザ・ウィークなど、いろいろな賞を設けていますよね。川澄選手も何回か受賞していますが、受賞すると何かもらえるのですか?
川澄:残念ながら、モノとかお金を貰えるわけではないんですよ(笑)。ただ、リーグ側が、ファンを惹きつけるための努力をすごくしているな、と思います。これだけSNSが普及している時代ですから、いろいろな情報を発信できるし、動画だってどんどん流せる。なでしこリーグも参考にできることがあるんじゃないかな?と思いますね。たとえば、NWSLでは「ゴール・オブ・ザ・ウィーク」も、「セーブ・オブ・ザ・ウィーク」も毎週、4人がノミネートされて、ツイッターで投票できるんです。それは楽しいことだし、思わず見てしまいますよね。それも、世界中から投票できる。「すごいな、この選手!」と思ったら、見に行こうかな、と会場に足を運ぶ人も増える。リーグのホームページも充実しています(※)。
女子サッカーの発展を願う者として、日本でもぜひ、そういうことを試みてほしいなと願っています。
(※)NWSLでは、公式サイトの他に、ツイッター、インスタグラム、フェイスブック、公式ユーチューブなどでも情報を発信している。各試合は公式サイトでライブ配信されているほか、ハイライト動画や、その週のファインプレーなども、バックナンバーを含めて視聴することができる。
最後に、3度目のシーズンを迎えたシアトルでの生活、そして、今後の展望についても話を聞いた。
【目標】
ーーアメリカは国土が広い分、アウェイの試合は移動時間も長くなりますが、川澄選手にとっての息抜きは何ですか?
川澄:私は息抜きが必要ない人間なんですよ。好きなサッカーができているし、あとは、与えられたことの中で自分を合わせていけますから。試合のたびに移動してからのホテル詰めが窮屈だと思うこともないですし、その場、その場で楽しめれば良いと思っています。ストレスもまったく感じないですね。
本当によく食べるし、本当によく寝ているし、練習もちゃんとやる。どれも大切ですし、全力でやっています。だから移動中は、ほぼ寝てますね。時差ボケがあって寝られない、ということはないです。どこでも、目をつぶったら寝られるんですよ(笑)。
ーーそれはすごい。海外生活をする上では、環境に自分を合わせていく適応力も重要ですね。シアトルの良さは、どんなところだと思いますか?
川澄:西海岸から見える海もあるし、街も賑やかですよ。街にはカフェが沢山ありますし、シアトル最大の観光名所と言われている「パイクプレイス・マーケット」という市場までは、(シアトル・レインの)練習場から10分ぐらい。
夜景もすごく綺麗です。船に乗らなくても、ウエストシアトルというビーチから、ダウンタウンまでが綺麗に見られるんです。あとは、車で1時間以内のところに滝があったり、とにかく観光スポットがいっぱいあるので、友達が来た時にはいろんなところに連れて行けるんです。
ーー最後の質問ですが、現在、一番の目標は何ですか?
川澄:とにかく、もっとうまくなりたい、という気持ちは常に持っています。ワールドカップやオリンピックに出場するために、代表でプレーしたいという気持ちは今も変わりません。
今、アメリカで試合に出て、すごく楽しくサッカーができている。ある程度、結果も出している手ごたえがあります。今、自分が代表に入ることができたら、どういうプレーができるだろうか、と想像もします。他の国の代表と戦う楽しさも知っていますし、その目標は絶対にブレないですね。
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今シーズン、アメリカでのリーグが終わった後の予定は、まだ決めていないという。日本に帰るかもしれないし、日本とシーズンが重ならないオーストラリアや、それ以外の国のリーグに行く可能性もある、と話した。
「どんな時も、最後は直感で決めるタイプなので」(川澄)
2014年にシアトル・レインに移籍することを決めた時と同じ、迷いのない口調で、川澄はそう言った。
様々な逆境をはね返してきたチャレンジャー精神と経験を活かし、アメリカでさらに成長している川澄は、今後、どのようなキャリアを積んでいくのだろうか。
NWSLのレギュラーシーズンは、残り8試合。
全24節を終えて上位4位以内に入ったチームが、その後に行われるプレーオフに進出し、今シーズンのNWSL女王の座を争うチャンピオンシップ決勝に出場することになる。シアトル・レインは現在、首位に勝ち点「6」差の4位。プレーオフ進出なるか、注目だ。