趣里、初の生演奏での生歌。ステージへのキスと、「終わり」を入れなかった思いを制作統括に聞いた
服部隆之も指揮者として参加
福来スズ子、ラストコンサート。連続テレビ小説「ブギウギ」(NHK)最終回では、「東京ブギウギ」の歌と、それを見守るかつての仲間たちの表情に、走馬灯のように半年間が駆け巡った。
なんだかいつもと違う。それもそのはず、最後の「東京ブギウギ」は生歌、そして初めての生演奏の歌唱だった。服部隆之も指揮者として参加していた。
「非常に気持ちの乗った場面になったと思っております」と制作統括の福岡利武チーフプロデューサーも満足そうだった。
「音響デザインのチーフの伊東俊平が、昨年秋くらいに、生歌・生演奏でやったら本当に感動的になりますよと提案したことが、実現しました。趣里さんには相当な負担になりますし、録音スタッフも多く入れなくてはいけなくて、録音技術的にもかなり大掛かりなことになります。でも伊東の熱い思いを汲んでやってみようと決断しました。確かにその方が、これまでの集大成として、一層気持ちのこもった歌になると思いましたし、実際、挑戦した甲斐がありました」
趣里は全力で、生歌のためのレッスンに励んだ。撮影は午前中で、朝早くからリハーサルをして臨んだ。朝から声を出すことはなかなか大変なことだ。
「従来のいきなり元気に歌いだすものではなく、ゆっくりしたピアノソロからスタートするアレンジは、服部隆之さんのアイデアです。隆之さんにも指揮で参加していただき、映像にも映っています。僕としては最後のステージは服部さんにも出ていただくことで、時空を超えたかのような不思議な印象を感じていただきたいと思っていました。歌い終わり、スズ子、隆之さん、羽鳥とカットが繋がっているのが印象的です。隆之さんは、生演奏の指揮ということで本気に指揮されて、かなりの緊張感もありながらも、とても楽しんでいただけたようです」
本番は一発OK。にもかかわらず、趣里はもう1回やりたいと自ら申し出たという。
「趣里さんにお願いしてよかったです。全力で歌に向き合ってくださいました」
気持ちのこもったステージへのキスになったと思います
歌い終わったあと、スズ子は自分の指先にキスし、その手でステージにそっと触れる。
「舞台演出を担当してくださった荻田浩一さんのアイディアです。ステージに感謝の想いを、あるいはお客さんへの感謝を込めて、キスするのはどうでしょうかと仰っていただいて、すごく感動的ないいアイディアだと思いました。趣里さんも、すごくいいですねと、感謝のステージにしたいのでぜひそうしたいですとおっしゃって、気持ちのこもったステージへのキスになったと思います。撮影が終わった時、趣里さんは感謝の思いで、スタッフやキャストのみんなに頬ずりして回りたいとおっしゃっていました。それだけ、あの場にいたスタッフ、キャストが一丸となってステージシーンを作りあげたんです」
ステージの床にキスの元ネタについて、振り付けの木下菜津子さんのインタビューで語られています。
「あまちゃん」も手掛けた振付家が語る「趣里さんは踊りで芝居ができる人」〈ブギウギ〉ダンスの裏側
歌の途中での回想シーンはこの手の場面ではよくあることだが、ここでは入れないでいくことにしたと福岡CP。
「最後はしっかりスズ子を見届けたい!ということになりました。彼女の歌をたっぷり聞きながら、視聴者の方々がいままで、スズ子は本当に頑張ってきたんだなあということを感じていただければと思いました」
客席には、梅丸少女歌劇団の同期たちや秋山(伊原六花)のみならず、橘アオイ(翼和希)や、松永(新納慎也)、辛島(安井順平)など前半を彩った人たちがいて、彼らの表情が回想シーンの代わりにも見えた。
「翼さんは、再登場をすごく喜んでいましたし、ステージを見つめる眼差しに、先輩としての思いが滲んでいてよかったです」
最終回では回想も入れないうえ、オープニングのタイトルバックも入れなかった。
「劇中で、歌をたっぷりと見せたいという思いと、最後はドラマをじっくりと楽しんでいただければという思いでタイトルバックをカットしました。『東京ブギウギ』はもはや主題歌のようなものでもありますので」
最後の「東京ブギウギ」はまさに“世紀のうた 心のうた”になった。
ステージに感謝の想いを、あるいはお客さんへの感謝を込めて
スズ子の歌手としての引き際は涙と感動を呼んだが、ドラマはそこで終わらなかった。スズ子は世田谷の家で、愛子(このか)や大野(木野花)たちと楽しく生活している。ドラマはなにげない日常のスケッチで終わっていく。
「スズ子が歌を辞めるまでをドラマの終わりにしたいということはだいぶ前から決めていました。モデルの笠置シヅ子さんは歌を辞めてから俳優活動に転向されますが、そこまで描くよりも、歌の物語として終わらせたかったんです。辞めたあと、スズ子と家族たちの日常的なシーンを描きました。そこには『終わり』を打っていません。これからも日常が続いていくと思っていただきたいという思いです」
改めて、『ブギウギ』を振り返って、人気の要因がどこにあったと思うか、という質問に福岡CPはこう答えた。
「ひとりでも多くのかたに喜んでいただきたいという思いで作ったので、多くのかたに楽しんでいただけたことを嬉しく思っています。人気の要因は私にはわかりません。ドラマの仕事を20年ぐらいやっていますが、いつも本当に毎回わからないし、いつも不安でしょうがなくて。ただ、わからないなりに考えると、一番は趣里さんのお芝居と歌と踊りのステージの魅力によるものです。明るくからっとした趣里さんによって本当に気持ちよく見られたのだと思います。これまで彼女が演じてきた役は、陰りのあるものが多かったですが、素顔の趣里さんはいつも笑っていて明るい。そちらの面を出してもらえた役でした。もうひとつは、足立紳さんと櫻井剛さんの脚本が、見ている方に共感していただけたのではないでしょうか。とりわけ、メインライターの足立さんが書こうとしたのは、とにかく頑張ろうとかいうことではなく、頑張っても頑張らなくてもいい、ありのままでいいというような、優しく心温まるメッセージだったと思うんです。それと、誰ひとり見捨てないという考え方も素敵でした。視聴者の皆様にもそこに共感していただけたら嬉しいなあと思っておりました」
連続テレビ小説「ブギウギ」
総合【毎週月曜~土曜】午前8時~8時15分 *土曜は一週間の振り返り
NHKBS【毎週月曜~金曜】午前7時30分~7時45分
NHKBSプレミアム4K【毎週月曜~金曜】午前7時30分~7時45分
【作】足立紳 櫻井剛 <オリジナル作品>
【音楽】服部隆之
【主題歌】「ハッピー☆ブギ」中納良恵 さかいゆう 趣里
【語り】高瀬耕造(NHK大阪放送局アナウンサー)
【出演】趣里 水上恒司 / 草彅剛 菊地凛子 小雪 生瀬勝久 水川あさみ 柳葉敏郎 ほか
【概要】大阪の下町の小さな銭湯の看板娘・福来スズ子(趣里)は歌や踊りが大好きで、道頓堀に新しくできた歌劇団に入団し活躍後、上京。そこで、人気作曲家・羽鳥善一(草彅剛)と出会い、歌手の道を歩みだす。“ブギの女王”と呼ばれた人気歌手・笠置シヅ子をモデルにした、大スター歌手への階段を駆け上がる物語。