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「おむすび」第2章の舞台は神戸。出演者に兵庫県出身者を多数そろえた意図は「手触り」

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
神戸出身の新納慎也さん 「おむすび」より 写真提供:NHK

「神戸を舞台に、夢を追う人々の姿を描きます」

朝ドラこと連続テレビ小説「おむすび」(NHK)の第8週は「第2章の始まりです」と制作統括の宇佐川隆史チーフプロデューサーは説明する。

「神戸を舞台に、夢を追う人々の姿を描きます」と言う。

 結(橋本環奈)が栄養士を目指して入学した専門学校には個性的な同級生がいて、みんなそれぞれの背景を持ちながら栄養士を目指している。

「なかには四十代の中年男性(小手伸也)もいますが、夢や挑戦に年齢は関係ないということも第2章のテーマのひとつです」と宇佐川さん。

 老いも若きも夢に向かう姿に視聴者もきっと励まされる。そういえば、愛子(麻生久美子)は高校生で歩(仲里依紗)を身ごもったのでほかに何もできなかったと第33回で言っていたが、彼女も好きな絵を描いてブロクをせっせとやっている。きっと彼女にもまた夢が拓けてくるのではないか(想像)。

「地元の力や地元の思いを大事にしています」

 さて。神戸編では、専門学校の生徒役の平祐奈さん(明石出身)、先生役の相武紗季さん(宝塚市出身)、神戸の中華店の店主役の堀内正美さん(神戸出身)など兵庫県出身者が参加した。すでに出演しているキムラ緑子さん(洲本市)、新納慎也さん(神戸出身)も兵庫出身である。避難所でおむすびを配っていた地元の人物・雅美役の安藤千代子(神戸出身)もそうだ。

明石出身の平祐奈さん「おむすび」より 写真提供:NHK
明石出身の平祐奈さん「おむすび」より 写真提供:NHK

宝塚出身の相武紗季さん 「おむすび」より 写真提供:NHK
宝塚出身の相武紗季さん 「おむすび」より 写真提供:NHK

 朝ドラではその地域出身者を登場させることは少なくないが、今回は兵庫出身(とくに神戸)が多いのは気のせいだろうか。

「単純に地域ご出身だから、というだけで選んでいるわけではないのですが、今作はとりわけ、やはり、地元の力や地元の思いを大事にはしています。戦前、戦後とは違って、近現代――私たちに身近な歴史を描くにあたり、俳優部の皆さんの生きてきた歴史も十二分に生かしてもらえると思うんです。実感が伴うものですから。今回、地元の記憶があることはすごく大事ではないかと思い、いつも以上に地元ご出身の俳優さん、何かその時代や場所に思いがある俳優さんを意識しております」

 

自分がその立場だったらどうしたか

土地や時代の実感を宇佐川さんは「手触り」と言った。

「神戸にゆかりの方々とお話すると、阪神・淡路大震災の当時、こんなことをしていた、考えていたという記憶をお持ちで、聞いているほうもその時の手触りを感じることができます。きっと手触りは日本全国の視聴者の方々に、自分の場合はどうだったか、その立場だったらどうしたか、というふうに具体を伴って置き換え考えてもらえると思います。せっかく手触りがある時代のドラマをやるなら、手触りのあることをしっかりと伝えていくことを意識したい。神戸の方々だけでなくても、阪神・淡路大震災のとき、自分はどうだったか、思い返していただければ」

 もちろん、身近で体験したからといって、誰もが実感を伝えられるというわけではない。逆に悩む俳優もいたという。

「キムラ緑子さんは、当時、ご自身が被害の大きな場所にいたわけではなかったことから、逆に自分が演じていいのかというためらいがあるとお話されていました。ほかの俳優の方々も含め、震災に関する葛藤もありながら、私たち制作側の、伝えていこうとする思いを受け取ってくださり、ご自身の地元の記憶や現場でも当事者の方にお話を聞きながら演じてくださっていると思います」

洲本出身のキムラ緑子さん 「おむすび」より 写真提供:NHK
洲本出身のキムラ緑子さん 「おむすび」より 写真提供:NHK

たまり場はバーバーヨネダ、憩いの場の太極軒

中華店・太極軒の店主・明石太一役の堀内正美さんは震災に関する活動を行っている。阪神・淡路大震災で被災された直後、神戸市民の合言葉となった「がんばろう!!神戸」を発案したと、NHK更生文化事業団のサイトのインタビューでお話されている。「喪失、悲嘆、希望 阪神淡路大震災 その先に」という著書を上梓したばかりだ。堀内さんにオファーしたのは第8週のディレクターである盆子原誠さんだ。

「盆子原は以前、『20歳と一匹」』いう阪神・淡路大震災から20年目のドラマで演出を担当。その時の取材で堀内さんと出会い、その時にも出演をして頂いていました。堀内さんはお芝居もご本人もとても上品なお方で、『中華屋のおやじさんとして鍋を振っていたら面白い』ということ。そして、今回の私たちの思いにご賛同頂けるのでは、という思いからお願い致しました。堀内さんのお芝居は実に温かく、また震災支援のお話もして頂きながら、このドラマの多大なる支えとなって頂きました。心から感謝しています」

堀内さんは、知的な教授や博士のような役に定評があり、町・中華の店の大将は新鮮だ。太極軒は憩いの場のひとつになりそうで、今後も時々登場すると宇佐川さん。店主・明石さんはきっと神戸の復興の様子を見て来た人なのだと思って見たい。ちなみに朝ドラ名物・たまり場はヘアサロンヨネダである。

神戸出身の堀内正美さん 「おむすび」より写真提供:NHK
神戸出身の堀内正美さん 「おむすび」より写真提供:NHK

連続テレビ小説「おむすび」
毎週月~土曜 午前 8時00分(総合)※土曜は一週間を振り返ります

/ 毎週月~金曜 午前 7時30分(NHKBS・BSP4K)

【作】 根本ノンジ

【主題歌】 B’z 「イルミネーション」

【語り】 リリー・フランキー

【音楽】 堤博明

【出演】 橋本環奈 仲里依紗 佐野勇斗 麻生久美子 宮崎美子 北村有起哉 松平健 ほか

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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