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松平健さん演じる永吉はなぜ暴れん坊なのか 永吉はギャルマインドの持ち主

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
「おむすび」より 写真提供:NHK

朝ドラこと連続テレビ小説「おむすび」(NHK)の第7週で糸島編がクライマックスを迎えた。

結(橋本環奈)と米田家は阪神・淡路大震災で受けた傷が癒えないまま糸島で暮らしていたが、それぞれの気持ちの決着をつけるべく神戸に戻ることに。

第35回で永吉(松平健)に報告しようとあたふたする聖人(北村有起哉)たちの場面から畑での別れまでが笑いありしんみりありで、味わい深かった。糸島の山と畑の風景も絵になった。

第7週を担当したチーフプロデューサーの野田雄介さんに糸島のこと、糸島篇の象徴のような永吉を演じた松平健さんのことなどを聞いた。

偶然、糸島の美しい風景を撮ることができた

「第7週は言ってみれば糸島編の総決算でした。第4、5、6週で描いた震災編が終わり、これまで夢や将来を諦めていた主人公の結がようやく大きな壁を外すことができて次のステップへ向かいました。やや重いムードだった第4、5.6週と比べ、第7週は全体的なタッチとしては、とても明るく、作家の根本ノンジさんの本来得意としている、少しクスッとしたシーンを散りばめた構成になりました」

「おむすび」より 素朴な結と四ツ木の恋  写真提供:NHK
「おむすび」より 素朴な結と四ツ木の恋  写真提供:NHK

結と四ツ木(佐野勇斗)のまだ恋に不慣れで不器用で真面目な高校生同士の恋はとても素朴だった。

「演出的にもこねくり回さず、素直にやりました。非常にロケーションも良かったので、糸島のすてきな風景のなかに立ってもらうだけで説得力がありました」

自然の風景はそれだけで饒舌だが、天候の変化との戦いでもある。

「雨が降ったり止んだりして、雨の合間を縫いながらなかなか長いシーン(第34回)を撮影するときは、2人の気持ちがキープできるか心配しましたが、ちゃんと明るくハッピーに取り切ることができてよかったなと思います」

第1週からずっと、糸島の山や畑や夕暮れの空等、染み入るようないい風景だった。

「いわゆる巨匠が映画を撮るような環境ではないので、空の風景を選んだり待ったりすることはできないんです。そういうなかできれいな空や風景が撮れたことは偶然の産物です。最初に糸島のいろいろなロケ地を決めるためのロケハンで糸島中をずっと回って、気に入った場所がいくつもあり、その場所をうまくそれぞれのシーンで使うことができました。雷山、可也山、といった糸島を代表する山々と、その裾野に広がる田畑は、糸島の象徴的な風景だと思っています。朝、昼、夕とどの時間帯もとても美しいです」

孫の歩や結にも永吉のマインドが浸透している


第7週、米田家であたふたしたあと、山が遠くにある畑のシーンでの別れの場面、この流れでは、米田家の人々を演じる誰もが芸達者なところを見せていた。なかでも永吉役の松平健さん。糸島篇のキーマンだったと感じる。


「永吉というキャラクターを作るとき、テレビを見ている現代の人たちが憧れるような、自由な生き方をしてきた人物にしようというのが私たち演出やプロデューサー、および脚本家の狙いでありました。昭和から平成にかけて、本当に自由に生きた人物を作りたかった私たちの思いを松平さんがしっかり受け止めてくださって、ものすごく楽しく、僕らが思っている以上の永吉にしてくださった。世間では“松平健”さんという確たるイメージができあがっているにもかかわらず、それを打ち壊してくれました。僕らも松平さんだから、主演の時代劇のように、もっとビシビシと芝居を決めてくるのかなと思ったら、柔らかい表現を思い切って作ることを楽しんでくださっていました」

糸島フェスでは少女が優勝したとき、俺が優勝じゃないのかと場をかっさらってしまうような永吉。朝ドラのおじいちゃんはたいてい孫に影響を与える立派な人だが、今回はホラ吹き設定もあり、ユニークだ。

「永吉さんが一番、ギャルマインドを持っていると僕は思っています。たいていの人は、忖度しながら、いろんなことを飲み込んで、相手の気持ちを慮った言動をとりますが、永吉さんはそうではない。思ったとおりに話したり行動したりします。そういうことに誰しも憧れるのではないでしょうか。そういうふうに生きられたらいいなという憧れを永吉さんが体現してくれているんです。そんな永吉さんが米田家を引っ張っていて、孫の歩や結にも彼のマインドが浸透しているというイメージでドラマを作っています。松平さんのおかげで明確にそう見えていると思います」

永吉はいたらいたで困ったキャラだが、神戸篇になると彼の不在がさみしくなりそうだ。

「今後も、永吉さん、そして佳代さんは、物語のココという大切な場面で登場します。結や歩、そして聖人や愛子らが人生の大切な局面にぶつかる時、底抜けに明るく励ましてくれたり、そっと背中を押してくれたりします。そして、今まで永吉さんや佳代さんに関して撒かれている種明かしもされていくのでご期待ください」

さて、四ツ木との恋を通して、結が栄養を意識するようになり、それが栄養士への道につながっていく。その流れにつれて、第6週、7週と美味しそうな料理が出てきた。野田さん自身、料理は得意なのだろうか。


「コロナ禍を境に、少しやるようにはなりました。でもレパートリーがとても少なくて、いつもぐるぐるとメニューを回している感じですね」

料理を撮るのは風景を撮るより難しいかもしれないと言う。

「もしかしたら料理は風景を撮るより難しいかもしれないですね。温度や香りはカメラに収められないので、それを感じられるようにできればと思っています。今回に限ったことではありませんし、基本的なところですが、おいしく見えるよう、つやを出すことに気を配ります。とくに今回は、栄養や食事のドラマですから、僕が言わなくても、スタッフが率先して意識してやってくれていますので、これから登場する料理も楽しみに見ていただければと思います」

連続テレビ小説「おむすび」
毎週月~土曜 午前 8時00分(総合)※土曜は一週間を振り返ります

/ 毎週月~金曜 午前 7時30分(NHKBS・BSP4K)

【作】 根本ノンジ

【主題歌】 B’z 「イルミネーション」

【語り】 リリー・フランキー

【音楽】 堤博明

【出演】 橋本環奈 仲里依紗 佐野勇斗 麻生久美子 宮崎美子 北村有起哉 松平健 ほか

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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