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道長に引導を渡した藤原公任 望月の歌をどう思っていたのか町田啓太の解釈は「光る君へ」

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
「光る君へ」より公任(町田啓太) 写真提供:NHK

道長に引導を渡す役を引き受けた公任

大河ドラマ「光る君へ」(NHK)で町田啓太さんが演じている藤原公任は音曲、漢詩、和歌などに秀でた教養の高い人物。ドラマでは、序盤はいいポジションについていたが、父親の引退で後ろ盾がなくなり出世コースから外れてしまった。

一方、道長は当初、仲間うちでは頼りなかったのが、最も出世してしまう。それでもずっと道長の気のおけない仲間として接してきた。その公任がついに道長に物申したのが第44回。これからクライマックスに向けて公任と道長の関係には変化が起きるのだろうか。町田さんに公任への思いを聞いた。

「第44回では道長が摂政と左大臣を両方やったら権力が集中しすぎるからと、左大臣を辞めるように促します。公任としては、道長への気持ちは若い頃から変わっていないと僕は思って演じました。友情もあるし敬意も持っています。僕の勝手な解釈ですが、道長は頑張りすぎて、何にでも首を突っ込んでいる。皆の意見にすべて耳を傾け、希望に沿うのは土台無理で、皆にいい顔をしていたら、政治は回らなくなってしまいます。道長の子たちも育って、高い地位も得ているから、任せられるところは任せたほうがいいと思ったのではないでしょうか」

町田さんの解釈では、四納言たちと話して、公任が代表で引導を渡したのだろうというものだった。

「斉信(金田哲)や行成(渡辺大知)、源俊賢(本田大輔)たちと相談して、公任が代表して言うことになったのではないかなと思います。仲間のなかで、公任が一番言いにくいことも言えるということなのではないでしょうか」

あくまで公任は道長を思いやっている。

年をとって立場は変わっても、昔から行動を共にしていたからこその独特の関係性は残っているのだ。

「第44回で、みんなで道長の和歌(望月の歌)を朗唱する場面は印象的でした。道長に昔の面影が見えた感じがしました。三郎時代の、ちょっとぼーっとしている感じ(笑)がして。素直に道長のいまの心のなかにあるものが出てきただけと思って、公任はホッとしたんじゃないでしょうか」

「光る君へ」より 望月の歌を唱歌する公任たち 写真提供:NHK
「光る君へ」より 望月の歌を唱歌する公任たち 写真提供:NHK

みんな同じ髪型になっていって……

序盤からF4と呼ばれて、雅さとユーモアを担ってきた貴族仲間たち。次第に雅さよりもユーモラスな会話場面が増えたような気もするが……。

「貴族たちの会話のシーンは楽しかったです。毎回ライブ感がありました。とくに斉信役の金田さんが面白くて。毎回、斉信トラップというものがありまして、若干セリフが違うんですよ。意識してやってるのか無意識なのかわからないのですが、いつ斉信トラップが出るかといつも気が気じゃなかったです(笑)」

町田さんは公任を演じるにあたり、柄本佑さんや秋山竜次さんなどと共に、髪を伸ばしてきた。

「回を追うごとにどんどんみんな同じような髪型になっていったことが可笑しくて(笑)。僕はいままでこんなに髪を長く伸ばしたこともなかったから、髪のケアの仕方がわからず、キャストの皆さんとどうしているかよく話しました。寝るとき大変だよね、暑いよね、と、そういう話をしていたことがいまとなっては懐かしいです」

平安貴族は心身共に大丈夫かと思うくらい忙しい

公任たちはしょっちゅう集まって噂話などをしている場面が多かったが、のんきにおしゃべりしているだけでは決してなく、実は平安貴族はすごく忙しい。それを知った町田さんはとても驚いたと言う。

「残されている絵巻物どのイメージで、日がな一日、風雅にゆったり過ごしているように思うと、全然そうじゃないんです。心身共に大丈夫かと思うくらい忙しいんですよ。毎日のスケジュールがびっしり決まっていて、その記録を見ると驚きますよ。会合や行事のために、毎回準備もしないとならないのだから、休む間がなかったのではないかと、平安貴族のイメージを改めました」

あれだけ歌を詠めるのも勉強や研鑽の賜物であろう。公任は貴族然としながら、心のなかでは葛藤もあっただろうと町田さんは考えていた。

「早々に出世争いからは引かざるを得なかったのでしょう。父の頼忠(橋爪淳)が政治の世界から引退してひとりで頑張るしかなくなったのと、その後、つき従う人を間違えたことも不運でした。哀しいかな、自分の能力とは関係ない部分で優遇されたりされなかったりすることがあるんですよね。ただ、公任はとても優秀な人物で、学問や芸事に関しても、とても秀でた才能を持っていたので政治とは関係ないところで才能を活かすことができた。持って生まれた才能のみならず努力もしていたと思います。ドラマでは描かれていませんが、彼にはどももいて。自分は父の死の後に苦労したから、自分の子たちにはある程度ちゃんとレールが残されるように考えて動いていたのではないかと思います」

俺たち(道長と公任)付き合っていたっけ?

史実では、公任は道長の死後、13年ほど長生きする。四納言のなかでは一番長生きである。最終回までに公任のエピソードもまだ残っている。

「柄本佑さんと、俺たち(道長と公任)付き合っていたっけ?と笑い合ってしまった場面があります(笑)。それだけ、公任は道長を最後まで信頼し続けていたのだということがわかる場面です。公任もなんだかんだ言いながら、道長が自分たちを頼ってくれていると自負して、そこにちょっとした誇りも持っていたと思うんですよね」

「光る君へ」より 写真提供:NHK
「光る君へ」より 写真提供:NHK

取材の前に、公任の最後のシーンのリハーサルをやってきたという町田さん。

「だからちょっといま、本当に終わるんだなとしみじみしてしまって……。1年半は、僕にとっては非常に長かったですし、公任は常に何かを考えていたので、僕もまた公任と共に考えていた1年半でした。最後をしっかりと締めくくれるよう、最後まで考え続けながらやりたいと思います」

大河ドラマ「光る君へ」(NHK)
【総合】日曜 午後8時00分 / 再放送 翌週土曜 午後1時05分【BS・BSP4K】日曜 午後6時00分 【BSP4K】日曜 午後0時15分
【作】大石静
【音楽】冬野ユミ
【語り】伊東敏恵アナウンサー
【主演】吉高由里子
【スタッフ】
制作統括:内田ゆき、松園武大 
プロデューサー:葛西勇也、大越大士、高橋優香子
広報プロデューサー:川口俊介
演出:中島由貴、佐々木善春、中泉慧、黛りんたろう ほか

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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