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花火の有料観覧席の是非:いっそ花火はもう止めてみては?

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:アフロ)

さて、NHKが花火大会の有料席設置に関して大きく報じていますが、これに関して「夜の経済」の専門家として少し論評を書こうと思います。以下、大本となっているNHKのビジネス特集へのリンク。

花火大会に異変… 存続へ大きな決断に市民から戸惑いの声も

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230804/k10014151871000.html

これは拙著「夜遊びの経済学」でも書いたことですが、イルミネーションや花火など「無料で観覧できる」夜のエンタメというのは、経済的な波及効果がとても低く、近年では複数のイベントが中止に追い込まれる(理由:スポンサーが集まらない)事態となっています。

花火の魅力は、直ぐに燃え尽きてしまう「一瞬の煌めき」にあり、そこに「美しさ」を感じることはとても日本的ではありますが、その経済効果もまた文字通り「一瞬の煌めき」で終わります。沢山の観客を一か所に大量に集める効果はあるのですが、その効果は持続的ではなく単発のもの。対して、地域の商業というのは、単日で捌けるお客様の数には限界がありますから、開催日当日にどんなに営業が100%稼働しようとも、そこから得られる商業的利益には限界があります。

逆に言えば、地域の商業施設に収容できず、そこからあぶれた観客はすべて路上に放り出されるわけで、その観客が路上にゴミをまき散らし、トイレを探して彷徨い住宅地域にまで侵入し、酔っ払い同士が喧嘩をはじめ…と様々な外部不経済を生み出す。結果的に、イベント開催から地域が享受する便益とコストのバランスが取れなくなり、地域住民からは迷惑イベントとして評価をされ始めます。そうなると、スポンサーも集まらなくなりイベントそのものの維持が難しくなり…という負の循環が多くの同種のイベントによって発生しています。

その様な状況から脱却する為に、近年多くの花火大会で導入され始めているのが冒頭でご紹介したNHKの報じた有料観覧席の導入で、地域の既存商業施設に収容しきれない観客を受け入れる一時施設を作り、そこから収益を生み出し、不足する財源を補完しようとする「三方良し」のアイデア。私の立場は、現在の状況下で花火大会を維持したいのであれば「それも仕方ない」というものです。

ただ冒頭でも開設した通り、基本的に私は花火というイベントは経済効果を期待するには「あまり好ましくない性質」を持ったアトラクションであるというスタンスです。地域商業がこの種のイベントから経済効果を得るには、短時間で大量に人を地域に寄せる様なイベントではなく、規模は小さくても継続的に客が集まるアトラクションの方がお金をかける意義がある。

例えば、熱海市は同じ花火大会でも単発で大きなイベントを実施するのではなく、小さな規模のモノを年間通して20回弱、断続的に行っています。熱海の旅館ではイベント実施日の前後になると花火が見える部屋が高値で稼働し、地元業者はそこから継続的な売上増が見込める。その様な継続的な売上が見込めるとなると、商業者も積極的にそこに開発投資を行うことが可能となり、客室を更新し、花火の見えるレストランを開発し…と更なる経済波及が期待できる。

これは必ずしも花火の様な夜のアトラクションだけに限らず、観光や商業全般にいえることではありますが、ドでかい集客が単発(もしくは低頻度)で発生するアトラクションよりも、派手さはなくとも小さく確実な効果が継続する施策の方が「商業的には」価値がある。観光振興や地域商業の振興を考えるときに非常に大事なヒントがそこにあります。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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