ZOZO前澤氏の理想「仕事を楽しむ労働者を増やしたい」を本気で目指してほしい
NPO法人ほっとプラス代表理事で生活困窮者支援を行うソーシャルワーカーである藤田孝典氏による、株式会社ZOZOおよびそのトップ 前澤友作氏への批判が話題になっています。
ネット上では藤田氏を支持する意見が多数出ている一方、「非正規社員の多さや待遇の悪さはZOZOだけの問題じゃない」とか「前澤氏の私財の使い方まであれこれ言うのはおかしい」といった批判も出ています。
そういった意見も一理ありますが、私は藤田氏の一連の記事を読んで気付かされたところがあり、彼があえてZOZOを槍玉に挙げるのには意味があると感じました。
■ZOZOは違法行為や極端に非道徳的な行為をしているわけではない
まず論争になるのが、「ZOZOや前澤氏はそんなに悪いの?」という点です。
これについては、違法行為をしているわけではないし、世の常識に照らしてものすごく非道徳的なことをしているわけではないと、私は思います(あくまで今、分かる範囲では)。
藤田氏は、(1)ZOZOBASEという同社の物流倉庫で働く派遣労働者の待遇と、(2)同社の非正規労働者の割合の高さの2点を問題にしています。
(1)派遣労働者の待遇について
藤田氏はZOZOで働く派遣労働者から「業務内容に比例して賃金があまりにも安い」という匿名相談を受け、昨年末にZOZOBASEがある新習志野に出向いて多くの派遣労働者の話を聴き、訴えの信憑性を確かめたとのことです。
なお、ZOZOの採用情報のページを見ると、ZOZOが直接雇用するアルバイトでもZOZOBASEで働く人を募集しており、2019年1月のみの短期バイト(勤務地はつくば)は時給1,300円、3ヶ月以上の長期バイトは習志野で時給1,000円~1,200円(アルバイトリーダーは時給1,200円)、つくばで時給1,000円となっていました。
また、ネット上の求人情報を検索できるindeedで「ZOZOBASE」をキーワードに検索してみると、パート・アルバイトや派遣の求人がたくさん出てきます。時給1,000円が多く、中には1,000〜1,300円などもありました。
千葉県の最低賃金は895円ですが、indeedで千葉県の「物流倉庫」の仕事を検索してみると、時給1,000円というのは「安いほう」といった感じです。
賃金が妥当かどうかは仕事の内容やその他の条件次第ですが、藤田氏が問題にしているのは1,000円というのがそもそも働く人の生活を支えるには安すぎるということ、ZOZOBASEで働く人の中に「任されている仕事の割には安い」「何年も働き続けても給料が上がらない」という不満をもつ人たちが実際にいるという点だと思います。匿名で相談を寄せた人は「3年間働いても1000円のまま」だそうです。
これに関して、ZOZOは決して褒められるような状態ではないですが、そういう仕事を仲介している派遣会社にも大きな責任があります。(ZOZOが直接雇用しているパート・アルバイトの待遇に関しては、仕事の中身や昇給の状況が不明なのでなんとも言えません)
(2)非正規労働者の割合について
藤田氏は、ZOZOの有価証券報告書の記載内容から非正規社員の割合を67%と推定し、「極めて高い」「派遣労働、非正規雇用に依存している経営」と断罪しています。
藤田氏も触れている、「非正社員の多い会社」トップ500ランキング(東洋経済)を見ると、小売や物流業界では67%というのが極端に高い割合ではないことが分かります。
ただ、藤田氏が問題にしているのは「企業による非正社員、派遣労働の拡大は確実にワーキングプアや子どもの貧困を生み出し、社会に深刻なダメージを与え続けている」ということであり、その深刻なダメージの片棒を担ぐようなことをするな、と訴えているわけなので、ZOZOだけじゃないからいいじゃないか、ということにはならないでしょう(それゆえに、「なぜZOZOだけ攻撃するのか」という批判につながるわけですが)。
私は、非正規社員が多いことそのものは、悪いことだとは思いません。小売や物流といった繁閑の差がある仕事をすべて無期雇用の正社員でやるというのは無理があります。あえて非正規で働きたい人もいます。問題なのは、非正社員だという理由でひどい労働条件で働かせることや、長期で雇い続ける場合も不安定な待遇のままで働かせること、そしてそれを助長するような派遣のシステムなどです。
■なぜZOZOを槍玉に挙げるのか
違法なことをしているわけでもなく、他にも非正規社員を安く使っている会社はあるのに、なぜZOZOばかりを槍玉に挙げるのか。
ひとつは藤田氏の戦略だと思います。今日公開された藤田氏の記事「ZOZOTOWNが象徴する日本の低賃金労働ー個別の労働問題から産業全体の働きやすい仕組みづくりへー」には、ZOZOを追及する理由として、会社が増益を続けても非正規労働者の時給は据え置きのままという「現代の雇用構造の欠陥を端的に表してくれているから」とあります。
藤田氏はソーシャルワーカーとして生活困窮者の支援をしながら、その問題の根源にある社会システムの変革を目指して活動する社会運動家でもあるので、世の中の注目度の高い経営者、問題の構造がわかりやすい会社を批判して世論を喚起するのは理にかなっています。
もうひとつは、前澤氏の言動やZOZOのこれまでの情報発信が、働くひとに対して優しい会社であるとか、先進的な働き方を推進する良会社というイメージを世間に浸透させている面があるので、その矛盾を指摘して注意を促すという点があるでしょう。
■前澤氏の掲げる理想像に向かうには
昨年、以下の記事を読んで、私は前澤氏の考え方にとても感心しました。
ZOZO前澤社長の1日に密着「恋愛は?」「年収35億円、使い道は?」 - withnews(ウィズニュース)
ZOZO前澤社長に1日密着してわかった、意外な素顔と経営哲学(ヨッピー) - 個人 - Yahoo!ニュース
以前から「6時間勤務制度(基本給は8時間分のまま、仕事が早く終われば6時間で帰って良い)」など先進的な働き方を推進している会社としてZOZOに注目していましたが、以下の発言に「これからもっと良い会社になるんじゃないか」と期待を抱いたのです。
上記発言から、社内のどんな仕事をしている人もみんな平等に扱われ、楽しく、満足して働いている状態をイメージしていたので、藤田氏の記事を読んで「あれ?」と感じました。
前澤氏は自身のブログ記事「「この国をどうしたいの?」と聞かれたので考えてみました。」で、「仕事を楽しむ労働者を増やし、労働生産性の高い国にしたい」と書いています。そして、そのために自社で行っている「社員が楽しく働けるための施策」を紹介しています。この記事を書いた時点で「社員」の中に派遣社員が入っていなかったとしても、それは責められません。自社の正社員だけでも楽しく働ける状況を作っているのは、素晴らしいことです。
でも、今回の批判をきっかけに「仕事を楽しむ労働者を増やし…」という理想に向かって非正規労働者の問題にも正面から取り組んでみてほしい。前澤氏はきっと悪人ではないと思います。自分が良いと思ったことは、どれだけ反対されようともつらぬく情熱もあるでしょう。だから、本気で動けば他の会社にも影響を与えて状況を変えていく可能性もあります。
同社の雇用のどこに問題があるのか、まだ断片的な情報しかありません。まずは7割近くの非正規社員がどんな待遇でどんな仕事をしているのか情報公開していただけたら、今後進むべき道筋について様々な知恵も集まってくるのではないかと思います。