園バス置き去り死亡事故から考える 車内熱中症から子どもを守るために親ができること
今週月曜日、幼稚園バスに3歳の女の子が取り残され、熱中症で亡くなったニュースがありました。
【速報】園児バスの車内に女児が5時間置き去りか…病院で死亡確認 熱中症の疑いー静岡・牧之原市(静岡放送(SBS)) - Yahoo!ニュース
2021年7月にも福岡県で同様に5歳の男の子がバスに取り残され、亡くなってしまいました。
このような事故が起こると、痛ましい思いとともに、どうすれば防げるのだろうか、うちの子を守るために親として何かできることはないだろうか、と思われる方も少なくないのではないでしょうか。
そこで、今回は改めてこどもの車内熱中症について解説を加えるとともに、事故予防のために私たちができることを考えてみたいと思います。
車内熱中症、短時間でも命の危険 子どもが自ら乗り込むケースも
低年齢の子どもの熱中症で最もリスクの高い状況、それは車内熱中症です。
車内熱中症は子どもが置き去りにされてしまったときにだけ起こっているわけではありません。
駐車した車に子どもが親の知らないうちに乗り込み、出られずに熱中症になってしまうケースも報告されています。
2019年に沖縄で、3歳の女の子が住宅敷地内に駐車してある車内で倒れているのを家族が発見し、病院に救急搬送されましたが亡くなってしまいました。死因は熱中症でした。
車内で3歳死亡、死因は熱中症 自分で入り込んだか 那覇市の気温は32度
こうしたタイプの熱中症はまれではありません。米国で1995年から2002年までに熱中症で死亡した5歳未満の児171名について調べたところ、うち46名(27%)はかぎの掛かっていない車に入り込んで遊んでいる間に亡くなっていました[1]。このうち1/3以上は車内にいた時間は1時間以内だったと報告されています。その間親はちょっと休んでいたりシャワーを浴びていたとのことですが、ふと目を離している間に小さな子が冒険して自宅の車に乗り込み、出られなくなってしまったのでしょう。想像するだけで胸が痛くなります。
子どもにとって、冷房が効いていない車内は熱中症のリスクが高く、亡くなるまで1時間もかからない可能性もあるというわけです。
子どもは大人の3~5倍の速度で体温が上がっていく
実は、子どもは大人より熱中症になりやすい傾向があります。
子どもは大人よりも汗をかきにくく、体重当たりの体表面積が大きいため外気温の影響を受けやすく、暑い環境下では体温が上がりやすいのです[2]。
大人は周囲の環境変化に合わせて服を脱いだり、冷たい飲み物を摂ったり、涼しい場所に移動できますが、乳幼児にはそれができません。
そのような結果、子どもが車内に置かれると熱中症のリスクは非常に高くなります。アメリカ小児科学会は、子どもは成人の3~5倍の速度で体温が上がってしまうとして注意喚起しています[3]。
日陰に駐車していたり、窓が少し開けてあっても大丈夫ではない
車が日陰にあったり、窓が少し開いているからと言って、実はリスクはそれほど下がりません。JAFの実証実験では、日陰に駐車していても、日なた駐車と比べて車内温度の差は7度と小さく[4]、また米国の報告でも窓が4センチ開いていても、温度上昇の緩和には寄与しなかったとされています[5]。
窓が少しでも開いているから大丈夫とか、日陰だから大丈夫というわけではないことを知っておくことも大事です。
今回のような保育施設での事故を防ぐために、施設側の安全管理の見直しはもちろん必要です。しかし、私たち保護者にできることは他にないでしょうか。
子どもに車の安全を教える4つのポイント
今年の6月、アメリカ・テキサス州で5歳の男の子が車内熱中症で亡くなりました。
この事故を受け、アメリカ、テキサス州のハリス郡保安事務所は、子どもに車の安全を教えるための4つのポイントをツイートしました。
①チャイルドシートのバックルの外し方を教えておく
②クラクションの鳴らし方を教える
③ハザードランプのつけ方を教える
④運転席のドアロックの解除方法を教える
こどもにバックルの外し方を教えていいのか、という意見もありそうですが、外せるくらいの年齢になれば、その装着の必要性についても理解できるため、どうしてそれが必要なのか、どんな時に外すのかをしっかりと伝えて理解させることは大切なことと思います。クラクションを鳴らしたり、ハザードランプを鳴らす方法は外に自分の存在を知らせるのに効果的かもしれません。なお、クラクションを鳴らすには結構な力が必要ですし、思った以上に大きな音が出るので、必要なら周りの迷惑が掛からないところで練習するのもよいかもしれません。
もちろんこれで完全に解決できるわけではないかもしれませんが、これらの方法は、子ども自身が車内に閉じ込められてしまった場合に外部に危険を知らせ、助けを求める上で、ある程度有効ではないかと考えます。
また、上記に加え、事故予防(傷害予防)啓発の活動に取り組む米国の非営利団体KidsSafeWorldwideは次のように提案しています[6]。
1.車には必ず鍵をかける
2.車のキーは子どもの手の届かないところに置く
3.こどもが行方不明の時は、まずプール、そして次に近くの車両とトランクを探す。
車内に子どもを感知し置き去りを防ぐセンサーを
自動車メーカー側もこの問題に対して問題意識を持っています。
欧州では、自動車の安全性能評価試験(EURONCAP)の中に、幼児置き去り検知機能(車内の子どもの存在を検知すると車の所有者と緊急医療サービスに通報)の設置が評価対象に追加されています。これらの技術が通園バスにも装着できればより安全かと思います。
今回の事故で亡くなったお子さんのご冥福を心よりお祈りします。
そして、これを機にバスを含め子どもにおける車内熱中症のリスクと、その対策についてより議論が深まればと思っています。
<参考文献>
1.Guard A, Gallagher SS. Inj Prev. 2005 Feb;11(1):33-7.
2.植松 悟子. 東京小児科医会報. 2019;38(1): 4-10
3.American Academy of Pediatrics. Prevent Child Deaths in Hot Cars. 2020.
4.JAF. 実験検証「JAFユーザーテスト」(真夏の車内温度). 2012.
5.McLaren C, Null J, Quinn J. Pediatrics. 2005 Jul;116(1):e109-12.
6.Safety Kids Worldwide. Heatstroke Safety Tips.