鰹節もイスラム対応! ハラル認証の意外な広がり
正月を迎えるにあたっておせちや雑煮の準備に追われている人もいるだろう。すると、欠かせないのが出汁だ。極上の出汁なくして和食は極められぬ……と、和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたことを思い出すのもいい。
が、鰹節や削り節……そんな和食の土台となる出汁の製造で、ハラル認証を取得した会社があることを知った。京都の福島鰹株式会社が3年前に建てた京都南丹工場である。鰹節などをインドネシアやマレーシアに輸出する際のことを考えて取得したのだそうだ。
ハラルとは、イスラム教徒(ムスリム)が食べられる食材のことで、認証はそれを証明するもの。
昨今は、日本にもイスラム圏からの観光客が増えたし、ビジネス対象としてもムスリム市場を無視できなくなってきた。おかげで、ムスリムが豚を嫌うことや酒が禁じられていることは知られるようになった。さらにイスラムに関心を持てば、豚以外の肉もイスラムの教えに従って処理されないといけないことも知るだろう。そんな条件に合致しているものがハラルである。
しかし、鰹節のような水産物がハラル認証?
私はちょっと戸惑ってしまったのである。
私は、以前マレーシア人の留学生とおつきあいがあり、イスラム教に関してはそこそこ知識を持っていた。豚肉や飲酒を忌避することはもちろん、ハラルについても知っているつもりだった。肉は、豚肉以外でも必ずムスリムが処理したものでないとダメで、イスラムの祈りを唱えながらナイフで屠畜し、完全に血を抜いてから解体しなければならない……等々。豚肉を処理した同じ施設でやってはならないなどの条件もある。また酒類には、調味料(料理酒やみりん)なども含まれる。
しかし、水産物にもハラルがあるとは知らなかった。まさか、魚をおろす際にお祈りの言葉が必要になるのではあるまいな……。
そこで少し調べてみた。
まずハラルとは、イスラムの教えで「許されている」という意味のアラビア語であり、ムスリムの生活全般に関わる考え方である。
だからハラルか否かには、肉類だけでなく醤油や味噌、マヨネーズ、海苔、緑茶なども対象となる。さらに食品以外の石鹸やシャンプー、保湿クリームまで含まれる。
たとえば醤油一つとっても、アルコールが含まれていてはダメだ。アルコールが添加されている品がいけないほか、自然醗酵で生じるものが問題となった。結果的にマレーシア政府が、製造過程で自然醗酵して発生したアルコールはよいとすると承認したのだとそうだ。
同じく石鹸やクリームも豚由来(たとえば油脂やコラーゲン)を原料としていないことを証明しないといけない。
さて、鰹節や削り節のハラル認証工場とはいかなるものか。福島鰹に問い合わせてみた。
すると、「近隣に養豚場はないか、工場の製造施設で豚由来のものを使っていないか」といった審査のほかにも、衛生基準や原材料のトレーサビリィを要求するものだったそうである。全部出所や環境を説明できることが重要なのだ。この審査は毎年繰り返される。そのためアラビア圏やインドネシアから審査員を招いたそうだ。
削り節は、和食以外にラーメンスープ用に使われている。今やラーメンは世界中で大流行している「日本食」であることから、ハラル認証を取ることを決断したのだという。
なるほど。ハラル認証とは、単に宗教的なものと捉えてはいけないようだ。ムスリムにとっての食の安全、信頼性の担保なのである。これって、日本でも要求されるものではないのか。
すでに食材のトレーサビリティは、食肉を始め野菜でも重要視されるようになった。加工食品でもいかなる添加物を使っているのか気にする人々は増えただろう。
そんな視点からすると、日本人にとってもハラル認証は使えるのではないか。
実は世界市場と比べると、日本の食品の安全性管理に意外な穴があることを知らされることがある。たとえば鰹節も燻す製造過程で発癌性物質が発生する可能性が問題視されたり、茶葉に農薬や塵芥が残留・混入していないのか指摘する声も上がっている。
もしハラル認証が、それらをクリアする武器となるのなら……悪くないかもしれない。世界市場を狙える点からも。豚とアルコール抜きは、日本人にはちょっと厳しいけれど。
またハラルの定義からは、何も食品に限らないそうだから、いっそ木材にも適用したらよい。するとインドネシアやマレーシアは、森林の違法伐採がしにくくなるだろうし、中東諸国が大量に輸入する木材の出自も問うようになる。いろいろ応用が効くように思うのである。
※ただし、ハラルの規定はイスラム圏でも地域によってさまざまで、認証基準もバラバラだ。ハラル認証機関は日本だけでも15以上登場している。イスラムといっても多種多様なのである。